130. 評価
無事討伐は終わり、カネルの手元にある二枚の依頼書に文様が濃く描かれる。
その後シルクが魔法薬の効果を消す魔法薬を身体に吹きかけて姿を現した。
「…お疲れ様です」
シルクは無表情のままカネル達の姿を見つめる。
討伐時の興奮が治まっていないのか、彼等の瞳に僅かに鋭さが残っている。
カネルはシルクの姿を見つけるとにこりと笑みを浮かべた。
「普段通りにやってみたがどうだった?何か指摘したいところがあれば言ってくれ」
指摘したいところと言われるも、皆の戦闘力については十分なものであった。
武器の扱いには慣れているし、鍛えられている身体に軽やかな身のこなしにはシルクもつい集中して見てしまう程。
それでも指摘を要求してくるのは、それだけ彼等に向上心があるからなのだろう。
「近くで見させて頂きましたが、戦闘能力については申し分ないです」
申し分ないという言葉が不満なのか、アベルは眉間に皺を寄せて鋭い目付きが更に鋭くなる。
「…本当に俺達のことをちゃんと見ていたのか?」
「はい、しっかりと」
相変わらず淡々とした様子で返されるが、狐面の目元から伺える真っ直ぐな目を見て、アベルはつい言葉を詰まらせる。
これは具体的な評価を求められているな。
そう察したシルクは小さく息を吸い、真剣な瞳で言葉を続けた。
「まずフレッチェさんから。敵に見つからないよう身を潜めさせながら攻撃を仕掛ける、その流れに無駄がありませんでした。矢をつくり出すのも速く、皆さんの中では特に素早さが高く感じられました。…遠くにいる魔物に意識が集中しやすい傾向にあるようにも見られたので、至近距離にも細かく意識を向ける必要があると思います」
「フュジルさんは魔力の扱いが安定しています。魔力でつくられた弾丸はムラができやすいものですが、どの弾丸も一定の強力な魔力が込められていました。至近距離まで近付いてきた魔物に対しても体術を上手く用いていて、身のこなしも安定していました。…後半になるにつれて急所率が不安定になっているように見えたので、集中力を更に長く保持できるようになれば強みも増すと思います」
「スペアルさんは迷いの無い力強い一突きに加え、槍に含めた魔力を開放させるタイミングが整っていて、冷静な判断力を持ち合わせています。集中力も特に高く感じられました。…槍の長さを変えられるのは良い点ですが、魔物との距離が離れすぎていることが多い傾向にあります。もう少し間合いを詰めても良いと思います」
「オネストさんは魔物の気配を誰よりも早く察知していて、危機察知能力が高いです。あらゆる角度からでも刀を器用に扱って魔物を仕留められています。…魔力を込めた攻撃も凄まじいのですが、込め過ぎた魔力が魔物以外のところにも放たれるのが気になりました。魔物のみにぶつけられるようにすると余計に魔力を消費せずに済みます」
「ジャスティさんは状況に合わせながら近距離戦と遠距離戦ともにこなせています。ナイフに込めた魔力を開放するタイミングがどれも異なっていたことから、距離感や魔物の体格に合わせて魔力量を調整するという器用さがあって判断力が優れています。…近距離戦で魔物に近付きすぎているのが気になりました。なるべく一定の距離を保つようにすればナイフ攻撃の応用範囲も増えると思います」
各自の目を見ながら淡々と感想を述べていく。
五人同時に、しかも散らばりながら行動していたにも関わらず、ここまでしっかりと観察されていたとはと皆目を丸くさせた。
中には自覚していた弱点を指摘され、図星をつかれた時のように軽く肩を動かしたり、視線を斜めに向けたりと各々反応を見せる。
「…そして、特に気になったことが1つあります」
シルクはカネル、アベル、プラットの順に目を見てから、これもまた淡々と答えた。
「ジャスティさん、オネストさん、スペアルさんは特に魔力を剥き出しにさせやすい傾向にあります。これまでもよく魔物から逃げられていませんでしたか?」
「まぁ…そうだな」
プラットは振り返るように視線を斜め上に向けてから、確かにと軽く頷く。
カネルとアベルも思い当たる為か互いに顔を見合わせては、苦笑いや難しい表情を浮かべている。
「大抵の魔物は自身より強い魔力を感知すると、防衛本能を働かせて逃げてしまう傾向にあります。逃げられるとその分の時間ロスが生まれてしまいますので、効率を重視するのであれば魔力を抑えながら動くことも重要かと」
「はは、つい気持ちが昂ってしまって魔力が漏れ出てしまうんだよな」
「確かに隊長達の魔力の圧凄いですよ~、アベルは特に最近物凄い気がする」
「…うるせぇ、分かってるっての」
ペーシェがへらりと笑いながら指摘し、アベルはむっとした表情でそっぽを向くように視線を逸らす。
そのままちらとシルクの方を見るが、シルクにふいと視線を逸らされては眉間に皺を寄せた。
「それにしても、存在感を消していたといえど細かく俺達のことを見てくれてたんだな。視覚魔法を使ってたのか?」
「はい、箒に乗って移動しながら観察させて頂きました。視覚魔法は主に近距離戦を担当する方を対象に使いました」
そこで、遠距離戦を担当とするぺーシェとレザンは目をぱちくりとさせた。
今のシルクの言い方からすると、自分達には視覚魔法を使わずに観察したと受け取られてしまう。
「もしかして、僕等には結構近付いてたりした?」
「…気付きました?」
「いやいや、全く分からなかった」
シルクは安心するようにふうと小さく息を吐く。
存在感を消す魔法薬の効果に改めて驚きつつ、レザンは一瞬ぴしりと固まってから視線を泳がせはじめる。
そんなレザンの様子を見たぺーシェはにやりと笑みを浮かべ、シルクに更に尋ねた。
「ちなみにどれくらいの近さまで近付いてたの?」
「隣に並ぶくらいの近さまでです。存在感を消していると言えど、触れる感触は与えてしまいますからね」
「じゃあレザンの方にも隣まで距離を詰めてた訳だ」
「そうですね」
するとレザンはみるみる内に顔が赤くなっていく。
突然どうしたのかとシルクは狐面の下で目を見開かせた。
「と…と、隣まで…来てたんですか」
ぎこちない様子で敬語になってしまい、視線を逸らしたまま段々口篭っていく。
カネルはあららと肩を竦めさせ、アベルは何やってるんだと呆れた表情を浮かばせる。
そこでシルクははっとする。
レザンは女性の耐性がほとんど無く、これまでも一定の距離間は保たれていた。
それを存在感を消しているからという理由で、その距離間よりも近い距離まで近付いてしまったのだ。
隣まで近付いていたという事実を変に意識してしまったレザンは、湯気が出る勢いで顔を真っ赤にさせたまま固まってしまった。
「あっはははは!プラット、あの時の賭けは僕の勝ちだよ。今日の昼食奢ってね〜!」
「あちゃー…流石に倒れなかったか」
「……申し訳ございません」
「シルクさんは気にしなくて良いよ」
狐面をつけていても反省の念が滲み出てきているのが分かり、カネルは苦笑いを浮かべた。




