127. 魔法の付与
「シルクさんってどうやって視覚魔法を習得したの?基礎から学ぶとしてもあれほど綿密な機能を扱う人ってなかなかいないからさ」
「どうやって…」
興味津々に尋ねるペーシェに対し、シルクは一瞬固まってから視線を斜め上に向けて軽く首を傾げさせる。
いつから身体の成長が止まった状態になったのかが分からないように、魔法についてもいつからどのように習得したのかはっきりと覚えていないところがあるのだ。
日常的に使っている異言語魔法も起源はいつなのかと言われても答えられない。
そもそも自分が魔法を使えるようになったのはいつからなのか。
産まれてからすぐなのか、成長途中で魔力が覚醒したのか。どちらなのかも分からない。
曖昧な記憶の中を探るように目を閉じ、少しだけ眉間に皺が寄る。
シルクが黙っていることにペーシェは首を傾げてしまい、皆もどうしたのかと視線を向けてしまう。
シルクの体質について話を聞いているグレイ、カネル、レザンははっとした表情を浮かべてから各自顔を見合わせて静かに狼狽える。
その後シルクはゆっくり目を開き、ぽつりと呟いた。
「何度も扱っているうちに今のような状態になりました」
「つまり経験ってこと?」
「そうなりますね」
「えぇ~…経験を積むだけっていう結論は中途半端だよ。もっと具体的な方法を教えて欲しいの!どんな特訓をしたのか、誰から教わったのかとかさ!」
再びシルクは目を閉じて記憶を辿るように数秒黙ってしまうが、何かを思い出したのか顔を上げてぽつりと呟いた。
「…落ち葉」
「……落ち葉?」
皆がシルクの言葉に疑問を浮かべるが、シルクは無表情のまま淡々と続きを答えだした。
「視界に映る落ち葉をすべて対象として、地面に落ちる前に攻撃を打ち込む特訓をしたことがあります。葉の落ち方や地面に落ちるまでの時間を予測する必要があるので、結構集中力を使います」
「へぇ、秋から冬にかけての葉が落ちやすい時期にやったら物凄いことになりそうだね」
「丁度その時期に特訓をしたような気がします。他にも身体の小さな動物に協力してもらって鬼ごっこをしたような…?」
「鬼ごっこに関してはシルクさんにしかできない特訓だろうな」
具体的な特訓方法にペーシェは興味深そうに耳を傾け、レザンも成程なと軽く頷きつつシルク特有の特訓方法に対して苦笑いを浮かべる。
「参考になるかは分かりませんが、細かな動きや不特定な動きをするものを対象にした特訓で、より綿密な視覚魔法を扱えるようになると思います」
「成程なぁ~…次の鍛錬の時に色々工夫してやってみようかな」
ペーシェの納得した様子を見てシルクは安心したようにふぅと息を漏らす。
しかし安心したのも束の間、次の質問で再び頭を悩ませることになる。
「それにしても異言語魔法って本当便利だね。それもどうやって習得したの?」
「……動物とお話しできたらな、と思ってたらできるようになりました」
「そんな単純な方法で!?」
流石に無理があったか、とシルクは視線を逸らしながら紅茶を飲み干した。
いつからどのように習得したのかを覚えていない為、どう説明すれば良いのか静かに戸惑いつつ再び記憶を辿るように首を傾げさせる。
『―――良かったらこれを読んでみたらどうかな』
シルクは一瞬目を見開かせた。
知らない声が雑音交じりに脳内に響く。
(…誰?)
映像のようなものは流れず、声だけの情報。
誰なのかは分からないが、何故か安心するような気持ちを覚える。
「……他に聞きたいことはありますか?」
シルクは次の話題に移る為に無表情のままカネル達に尋ねた。
せめて記憶がある内容の質問であれ、と心の中で祈りながら軽く目を伏せる。
「じゃあ僕から良いかな。シルクさんの右手につけている指輪だけど、いつもそこから武器を召喚しているよな。それは召喚魔法を付与した魔法道具なのか?」
カネルからの質問にシルクはほっと安心する。
この指輪はシルクにとって思い出深いものであり、はっきりと記憶に残っているものだ。
「はい。手元に直ぐ召喚できるようにと、指輪として特注で作って貰いました」
「見せてもらっても?」
「良いですよ」
シルクは指輪を外し、カネルは差し出された指輪を受け取っては穴を覗き込んだり角度を変えたりしながら眺める。アベルとプラットも隣から興味深そうに静かに指輪に視線を向ける。
飾りや模様は無いシンプルな銀色の指輪だ。
「そうそう、それ凄く面白い機能があるんだよ。指輪を持ったままシルクから離れてみてよ」
カネルは立ち上がってシルクから離れるように数歩歩く。
面白い機能とは一体何なのかと疑問に思っていると、指輪を持つ手に違和感を覚えだす。
「お…重!?」
局所的に重力がかかったように、カネルの右手ががくんと下に傾く。
指輪を落とさないように手を握り閉めるが、手を持ち上げようにもなかなか持ち上がらない。
「面白いだろう?シルクから一定の距離離れると、そうやって重りのようになるんだ。しかも浮遊魔法が効かないんだよ」
「持ち主から離れると本来の重さに戻るようになっています。指輪の中に収納している内容の重さがそのまま反映されるのですが…一度中身を整理しないといけませんね」
「ど、どれだけの量を収納しているんだ」
シルクの方へ戻ると重さは和らいでいく。
試しに浮遊魔法を向けるもグレイの言う通り持ち上げることができない。一種の防衛魔法も付与されているのだろう。
「ちなみに、こちらも同様に作って貰ったものです。これは距離関係無く私以外の人にはそのままの重さが反映されます」
シルクはベルトに付けているポシェットを持ち上げる。
軽々と持たれているものだが、シルクは立ち上がりそっと近くの床にポシェットを置いた。
「どなたか試してみますか?」
「力に自信がある人がやってみな〜」
シルクが無表情で聞く中、グレイはにやにやと怪しい笑みを浮かべながらカネル達を見まわす。
「この中ではアベルじゃね?」
「先にやってみてよ、その後僕もやってみるからさ」
促されるままにアベルも立ち上がってシルクに近付く。
一見シンプルなポシェットだが、この中から箒やら魔法素材やらを出し入れしていたのを思い出しながら、右手でウエストベルトを掴み持ち上げる。
しかしポシェット本体がぴくりとも動かず、持ち上げようにもウエストベルトが真っ直ぐ上に張るだけ。
床とポシェットが引っ付いているのではないかと疑ってしまう程の重さにアベルは眉間に皺を寄せ、それならばとポシェット本体を両手で持ち上げようとするも結果は変わらず。
重力を操作する魔法でもかけられているのかとも疑ってしまうが、そのような魔力は一切感じられない。
続いて興味津々な様子のぺーシェも挑戦するが、ポシェットは全く動かない。
その後横にいたシルクがひょいと簡単に持ち上げてしまい、ぺーシェとアベルが固まってしまう。その光景を見ていたグレイが吹き出すように笑い声を上げた。
「こちらも中身を整理しないといけませんね」
「一体何をどれだけ入れてるんだよ」
「…色々と、沢山入ってます」
シルクの脳内には数多の魔法植物や魔法素材、素材入れ用の布袋、調合用の物品、その他日用品等…兎に角沢山のものが浮かび上がる。
流石に一度すべて取り出して整理しなければ、と静かに決意したのであった。




