126. 視覚魔法
「…まずは視覚魔法ついてお話しましょうか?」
シルクがそう答えると、早速ぺーシェが瞳をきらきらと輝かせながら前のめりになる。
レザンも興味を示してシルクの方を見るが、相変わらず視線が合わないように若干ズレている。
「よろしくお願いしま〜す!僕等の使う視覚魔法とシルクさんの使う視覚魔法って色々と違うところがあるなーって思ってたんだよね」
「特に魔法陣の種類が多かったというか…シルクさんのはどんな機能を備えさせているんだ?」
一般的な視覚魔法は、主に対象の拡大や特性の分析を行うために扱われる魔法である。
拡大機能の魔法陣を中心とし、その周りに対象の特性について示された魔法陣が幾つか浮かび上がるのだ。
「対象を拡大させる中央の魔法陣を基盤として、対象のサイズや細部の特徴を把握しています。他にも魔法の属性や性質の分析と…次の動きの予測、弱点箇所の特定、狙いを定める照準機能……」
「…僕はあまり視覚魔法については詳しくないんだけど、ぺーシェ君とレザン君は聞いててどう感じてるの?」
グレイはきょとんとしながら二人に尋ねた。
シルクは無表情のまま淡々とした様子であるが、対する2人は数秒固まってから互いに顔を見合わせる。
「細部の特徴や魔法の属性とかは僕等もよく見てることなんだけど…動きの予測と弱点の特定って何?」
「そのままの意味です」
「いやいや、シルクさんの言ってることって結構高度なことだぞ!?いくら細部をより細かく見たとしても、そこから次の動きを予測するなんて何パターンの動きがあると思って…」
「身体のほんの僅かな動きからパターンは絞られます」
「…弱点の特定ってのも高難易度なレベルだぞ」
「対象の動き方と性質を合わせれば弱点も絞られます」
シルクは変わらず淡々と答えては紅茶を飲み、僅かに視線を逸らしながらも疑問をぶつけるレザンはがくりと肩を落とした。
「うーん…これは実際に見た方が早いんじゃないかい?」
「確かに口だけの説明よりは実践した方が分かりやすいだろう。試しにグレイを対象にしてみてくれ」
「ちょっとカネル?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら提案するカネルにグレイは真顔で返す。
シルクは目をぱちくりとさせてからグレイに視線を移し、それならばととある提案を持ちかけた。
「では今から博士とジャンケンをしますので、全て勝ってみせます」
「…ほほ〜ぅ?シルクと言えど僕に勝てるとお思いで?」
突然の指名に真顔で困惑するも、シルクの提案に一瞬拍子抜けしてからニヤリと笑みを浮かべてノリノリの様子である。
突然のジャンケンにカネル達も拍子抜けしてしまうが、シルクが視覚魔法の魔法陣を発動させると各自小さく興味深そうな声を漏らした。
大きめの魔法陣を中心とし、周りにも小さな魔法陣が散りばめられるように現れる。
「まずは三回勝負だ。これでも僕はジャンケン強い方なんだよ?」
「よろしくお願いします」
その後、ジャンケンが三回連続で行われた。
結果はシルクの宣言通りとなり、グレイは笑顔のまま固まってはふうと肩を落とす。
「なるほど…五回勝負はどうだい?」
「はい、お願いします」
直後、再びシルクの連勝で終わる。
グレイは引き攣った笑顔からムッとしたへの字の口に変わってしまう。
「やっぱり十回」
「はい、お願いします」
「意地でも勝ちたいのかよ」
プラットは呆れながら溜息をつき、ちらとシルクの様子を伺う。
発動されている魔法陣の前でのシルクの目付きは真剣そのものであり、グレイの左手を凝視しながら自身の手の形を瞬時に変化させていく。
ぺーシェとレザンはジャンケンよりも視覚魔法の方が気になるようで、手元でなく魔法陣にばかり集中してしまっている。
アベルは対照的に手元ばかり見ており、全く後出しではない正当なジャンケンが行われているのを静かに見守る。
カネルはグレイの悔しそうな表情に視線がいってしまい、時々ニヤニヤと笑いながら見届けていた。
結局、シルクの全勝でジャンケンは終了した。
「一回も勝てないなんて…っ!」
「ねぇレザン、魔法陣の細かな動きの変化見た?」
「あんなに細かな情報が流れてきたら、処理しきるのが大変そうなのに…」
「ちょっと二人ともぉ!ジャンケンの勝敗について全く触れないのもそれはそれで悲しいよ!?」
グレイが涙目で訴えるが、視覚魔法に真剣になっている二人にはその訴えは届かない。
シルクは静かに右手をテーブルに置き、ちらとグレイの表情を見てからポツリと呟いた。
「…今博士は寝不足気味で肩が凝ってますね」
「さらっと分析しないでくれよ」
「特に右肩が凝ってます。それと指先に植物を細かく粉砕したものがついてました、満月下草とブルースターですね」
「そこまで正確に当てられると何だか怖いんだけど!?」
グレイはつい自身の指先を揃えて凝視させ、ほんの僅かに植物の一部が付着しているのを見つけては、苦笑いを浮かべながら参ったなと軽く溜息を零す。
さり気なく分析もされてしまい、シルクの扱う視覚魔法の細かさを思い知ったところでぺーシェが元気に右手を挙げながら声を上げた。
「はいはい!照準機能を使ってるところも見させてよ、グレイさんを対象にして良いからさ!」
「さらっと僕に向かって狙い撃ちさせないでくれないかい?」
「…対象との距離が近過ぎます」
シルクは一瞬困ったかのように眉を下げ、距離感の問題かとカネルが苦笑いを浮かべた。
「確かにテーブルを挟んだ距離での照準は近過ぎるだろ。屋外でやってもらった方が良いんじゃないか」
「それもそっか…じゃあグレイさん、後でよろしくお願いしますね」
「ねぇ、僕の話聞いてた?」
グレイは呆れた表情でぺーシェとレザンを交互に見つめる。
普段ならグレイから視線を向けられると背筋を震わせるのだが、先程の惨敗の様子やシルクと話している様子から妙な緊張感は解れたようだ。
「まったく、あまり僕をこき使おうとしないでくれたまえよ。…そんなに元気が有り余ってるなら、またじっくり語り合っても良いんだよ?」
「あっ…それは遠慮しときマース」
「…スミマセン」
やはりグレイには敵わないようで、調子に乗りましたと二人は肩を震わせた。




