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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第五章:渾然一体
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124. 予想外の提案

「今日も依頼お疲れ様。さぁ、同行してみてどうだったんだい?」



 ティピックは爽やかな笑みを浮かべながらそう問いかける。

 シルクは普段通りの無表情のまま、隣でカネルは警戒心を含ませた笑みで返答した。



「流石としか言いようがなかったな。武器だけでなく魔力の扱い方も器用で、魔物との関わり方を熟知していて…色んな学びを得られたよ。正直もっと見させて欲しいくらいだ」


「おやおや、色々と学びを得られたのであればそれで十分だと思うんだが…向上心があって素晴らしいことだ。それはもう強欲なくらいにねぇ」


「はは、強欲なくらいが丁度いいんだよ」




 相変わらず二人の間で火花が散って見え、シルクは静かに様子を伺いながら軽く肩を落とす。

 ウィンも最初は呆れるように様子を見守るが、シルクと視線が合ってからは笑顔になり、二人のことはどうでも良いかのようにシルクにばかり視線を向けている。


 依頼完了の文様が描かれた依頼書をティピックに差し出し、内容を確認されては指定の位置に仕舞い込まれる。

 ティピックはロッキングチェアに軽くもたれてはカネルに視線を向け直した。




「さて、次回に同行となる依頼は3日後の予定だが、それで構わないかい?」


「…あぁ、その日もよろしく頼む」




 カネルはそう答えるも、本心で言えば物足りなさを感じていた。


 シルクの討伐姿や魔物と触れ合う様子に対してではない。

 同行できたことにはとても満足している。しかし、実際にこの目で見るには()()()()()()()のである。


 シルクの邪魔にならないようにという条件付きでの同行であった為、今回のように飛行用の箒で遠目に観察するだけでは具体的な動きを見たくても見られない。

 ペーシェやレザンのように視覚魔法を扱えたとしても、シルクの素早い動きとなれば目で追うので精一杯になってしまう。


 もっと欲を言えば、より近くで武器を扱う様子を見たいのだ。

 互いに武器を交えて手合わせすることも頭に入れていたのだが、やたらとシルクに近付かせたくないという気持ちが強いティピックがそれを許すだろうか。



 何か別の策を考えるべきかと静かに悩ませていると、シルクが右手をやんわりと上げながら言葉を発した。




「あの…一つ聞いても良いでしょうか?」


「…良いよ、何か気になることがあるのかい?」




 ティピックは軽く首を傾げさせながらシルクに視線を移す。

 カネルに視線を向けていた時とは違って優しい表情をしており、本当に此奴腹が立つなとカネルは心の中で愚痴を零していた。





「私がジャスティさん達の依頼に同行するのは…駄目でしょうか?」




 直後、部屋の気温ががくっと下がったように感じられた。

 ティピックだけでなくカネルも驚いた表情を浮かべ、ウィンは笑顔のままぴしりと凍ったように固まってしまっている。




「シルク君がそのような提案をするなんて珍しいじゃないか…理由を聞いても?」


「…ジャスティさん達は戦闘技術を求めています。ですが私は皆さんの具体的な戦闘能力を把握しきれていません。戦闘技術向上のお手伝いをする為にも、皆さんの戦闘能力をこの目で見る必要があります」



 シルクは至って真剣な様子でそう語る。

 真剣に応えを求められるのであれば、私も真剣に応えるべき。以前シルクがそう言っていたのを思い出しては、ティピックは視線を斜め下に向ける。



「…駄目でしょうか?」



 シルクは少し不安そうに眉を下げつつ、カネルの方にも視線を移す。

 思い掛けない出来事にカネルは驚き続けるも、口角がほんのりと上がっていた。


 ティピックはふうと溜息を零すと、カネルに向かってジト目をぶつけた。




「…シルク君本人がそこまで言うのであれば、仕方がないね」


「は…判断が早くて助かる」



 あまりにも簡単に許可が下りたことに思わず叫びそうになったのを堪えつつ、カネルはほっと胸をなでおろした。




「なら明日の魔物討伐に同行してもらってもいいか。明日も複数の討伐を控えているんだが、その方が各々の討伐状況をしっかり見ることができるんじゃないか」


「はい、ではそれでお願いします」




 カネルは先手を打つようにシルクに提案し、そのまま素直に返答を貰えたことでしてやったりといった笑みをティピックに向ける。

 ティピックは笑顔といっても黒い感情が渦巻くような引き攣った笑みを浮かべており、仕事机の上で組まれている手に若干力が込められていた。




「…シルク君。彼等が普段通りの動きができるよう、あまり近付き過ぎないようにね」


「承知しました」




 さり気なく距離を置かせようとするなよ、とカネルは一瞬だけ口角を引き攣らせる。

 そうして再び妙な圧を感じる無言の時間ができてしまい、シルクは目をぱちくりとさせた。


 暫く固まっていたウィンはようやく正気を取り戻したかのようにはっとさせるも、シルクの意見を尊重させる意思の強さが勝ってしまいそのまま笑顔を向けていた。




 そうしてシルクとカネルは裏魔法協会を後にするのだが、シルクは相変わらず存在感を消す魔法薬を使用している為、扉から出てくるのはカネルの姿のみである。

 そのまま魔法協会を出て、カネルは人通りの少ない場所まで移動したところで足を止めた。




「此処なら人通りが少ないから安心してくれ、今日はありがとうな」


「お役に立てて良かったです」



 霧が晴れるようにシルクが姿を現す。

 狐面をつけている辺りやはり警戒心が強いなと苦笑いを浮かべる。




「街ではそれをつけていると逆に目立つだろう。グレイからも言われてるんじゃないか?」



 目立つという言葉が響いたのか、シルクは静かに狐面を外してポシェットに仕舞い込んだ。

 代わりに首元のストールをぐいと口元まで上げてしまう。



「人の多い場所は、どうしても慣れなくて」




 ここでふと、ティピックから裏魔法協会には1人で来るようにと言われた時のことを思い出す。

 当時は疑問だったが、さては人が多い場所が苦手だというシルクに対する配慮が含まれていたのではないか。



 王都やクロテッド社長の邸宅など、これまでも何度か人の多い場所にシルクが出向くことはあったが、いずれも完全に素顔を露わにはしていなかった。

 狐面をつけない代わりに首元のストールを最低でも口元まで覆うようにし、下にずれては上げ直し、しまいにはフードを深く被るような行為も見られていた。


 それに比べて裏魔法協会にいる時のシルクはフードを深く被らず、狐面をつけないどころかストールも比較的緩めの状態であった。朝にストールを口元まで巻いていたのは、恐らくカネルが来ることを事前に知らされていた為であろう。




「シルクさんは十分強いんだ。その分堂々と振舞ってもいいと僕は思うな」


「…そうでしょうか」



 シルクは無表情ながらも自信無さげな声量で、視線を軽く伏せながらそう呟く。



「そんなに謙遜していたらまたアベルに睨まれるぞ。彼奴も一応シルクさんのことを高く評価しているし、戦闘技術面については一番シルクさんから学びを得たいって思っている筈だ」



 普段から目付きが鋭いアベルから睨むような視線を向けられたのを思い出すと、シルクは少し眉間に皺を寄せてジト目になった。



「…オネストさんから睨まれるのは懲り懲りです」


「くっ…ふふ、だいぶ堪えてるじゃないか。堂々と振舞えるようになれば改善するかもしれないぞ」


「……難しいです」



 感情を露わにする程堪えている様子につい吹き出しそうになる。

 直ぐ無表情に戻ってしまうものの、出会った当初と比較すれば感情が表に出るようになった方である。


 笑う時はそれはもう綺麗な笑顔だとグレイが絶賛していたのを思い出すと同時に、コットンシープと触れ合っている際に零していた笑みを思い出しては、カネルは肩を竦めさせて軽く溜息をついた。




「これから少しずつ慣れていけばいいさ」



 そう言いながら右手をシルクの方へと差し出す。

 朝の時のようにシルクはぽかんとした表情を浮かべており、カネルは再び苦笑いを浮かべそうになった。


 しかしその後、シルクも右手を差し出しては静かにカネルの手を握った。

 まさか握手が今成立するとは思わず、逆にカネルが驚きの表情を浮かべる。




「朝は戸惑ってしまってすみませんでした。こういったことをする機会があまり無かったもので…少しずつ、慣れていきます」



 真剣な眼差しでそう告げるシルクのストールが少し下にズレたことで口元も露わになる。口角はほんの少しだけ上がっているように見えた。

 そのまま数秒握手を交わし、するりとシルクの手が抜けては深くフードを被られる。



「では、また後程に」



 そうしてシルクは人通りの少ない路地の奥へと向かい、そのまま消えるように去って行った。

 カネルは握手を交わした右手をその場で眺め、シルクが去って行った方へ視線を向けては右手をぎゅっと握って拳をつくる。




「…少しは信頼してくれたってことでいいのかな」



 そう小さく呟いてからカネルもその場を後にした。

 姿勢を正し、威厳ある佇まいで真っ直ぐと前を向きながら。

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