122. 採取見学…?
一つ目の仕事である魔物討伐を終え、ティピックに連絡を入れては直ぐに次の仕事先へと向かう為にシルク達は各自箒に乗って移動した。
それほど遠くない場所である為大丈夫だろうとシルクは考えていたのだが、あくまでもそれはシルク個人の考えである。
目的地に到着し箒をポシェットに仕舞ったところでカネル達も地に足を着け、彼等の様子を見てはシルクは目を丸くさせる。皆汗を流しては軽く息を切らせ、肩で呼吸している状態だったのだ。
「分かってはいたけど、シルクさん速過ぎる…!」
「移動だけでも結構魔力を使ったぞ…」
シルクは狐面の下できょとんとした表情を浮かべてから、申し訳なさそうに視線を斜め下に逸らす。
桁違いな魔力を保持するシルクにとって魔力を有する飛行は軽いジョギングと同様の感覚である。
カネル達も一般的な魔法使いよりは高い魔力を保持しているが、シルクと同様に一定の速度を保持したまま飛行を続けるには多くの魔力を消費する必要があった。
「飛行用の箒じゃないのにあんな速度で移動できるとは、魔力の扱い方も器用なんだな」
「器用で済ませられるレベルとは思えないんですけど…」
「…すみません、配慮が足りませんでした」
「謝らないでくれ。寧ろ普段通りの状態で仕事を進めてくれた方がこちらとしては有難いんだよ」
カネルは眉を下げつつも笑顔でそう語る。
シルクは静かに各自の様子を伺い、皆疲れは出ているものの不満を訴えるような雰囲気は一切無いことにほんの少し安心させた。
シルクにとって普段通りなことの多くは規格外なレベルである為、これまでの経験上それによって距離を置かれることが多かった。
そのことを踏まえるとカネル達の反応は希少なのだが、少しは自重すべきだろうかと心の中でもやもやとさせながら指定された仕事場所へと歩いて移動していく。
そうして辿り着いた場所は、崖がそびえ立ち岩肌が剥き出し状態であった場所とは打って変わり、心地良いそよ風がふわりと吹く広々とした草原。
青々とした草原がなびいていく中、所々で白や黒の物体がもそもそと動いている。
モコモコとした毛を身にまとうコットンシープと呼ばれる魔物の群れだ。
本日二つ目の依頼は、コットンシープの羊毛を採取することが目的である。
山羊に続いて羊という一見似たような生き物ではあるが、凶暴的なグラトンゴートとは異なりコットンシープは温厚な性格で人を襲うことは基本的に無い。
穏やかに草原の草をもしゃもしゃと食べている1体のコットンシープにシルクは静かに近付いていき、しゃがんで視線を合わせては異言語魔法を発動させる。
その様子をカネル達は後ろから見守るが、辺りに広がる草原とコットンシープの群れの規模を再確認しては冷や汗を流す。白と黒で混同している群れは遠くまで広がっており、数えるのが億劫になりそうだ。
「お待たせしました」
シルクは1体のコットンシープと話し終えると、カネル達の方へ振り返って声をかける。
コットンシープはリラックスするようにその場に座り込み、くあぁと大きく欠伸した。
「無事毛刈りの許可を得ました。近くで聞いていたコットンシープ達も皆に知らせてくれるようです」
「一々許可を得るんだな…」
「はい。突然毛刈りをされたら驚かれますし、リラックスした状態の方が質の良い毛を調達できますので」
コットンシープの特性を把握した上での行動ではあるのだが、やはりシルクの人柄が現れているなとカネルは静かに関心する。
「此処からは暫く毛刈りに集中することになるのですが…皆さんはどうされます?」
シルクは首を傾げながらそう問いかけると、カネルは顎に片手を当てながらぐるりと部下達の様子を伺う。
動けないことは無さそうではあるが、先程の高速な飛行からの休憩無しの移動で若干疲れが出始めているようだ。
日々鍛錬を積んで鍛えている者達ではあるのだが、シルクを追いかける際に使用した魔力量は普段よりも多く、一度に多めの魔力を消費したことによる疲れだろう。
「このまま先程と同様に見学させてもらうよ。温厚と言えど魔物であることには変わりないからな、魔物とどのように接しているのか興味がある」
「分かりました…では、始めさせて頂きます」
シルクの右手の中指に嵌めている指輪がきらりと光ると、毛刈り用の大きな鋏が握られる。
まさかの武器扱い…とプラットは苦笑いを浮かべつつ、気になったことをシルクに投げかけた。
「そういえば、どれくらいの量を刈り取るんだ?」
「白い羊毛と黒い羊毛、各自100㎏ずつ刈り取ります」
100㎏と聞き、カネル達は固まった。
合計ではなく各自100㎏である為、合計200㎏の羊毛。
目の前にいるコットンシープの大きさからすれば、1体から刈り取れるのはおよそ2~3㎏くらいだ。
群れの規模からすれば確かに100㎏ずつ刈り取れそうではあるのだが、刈り取る作業を一人でやるというのか。
カネルは笑顔のまま固まり、ペーシェは笑顔であるも口角を引き攣らせ、アベルは鋭い目付きに眉間の皺が加わってより目付きが悪くなり、プラットは静かにドン引きした表情を浮かばせ、レザンは深く考えるのを止めるかのように遠くの景色を見つめている。
シルクは変わらず狐面をつけている為表情は分からないが、やる気が満ちているかのようにシャキンッと鋏を鳴らした。
「コットンシープの機嫌もありますので、時間は長くかかると思います。ご了承ください」
そう言ってから軽く会釈し、近くにいるコットンシープに近付いては異言語魔法を発動させながら羊毛を優しく撫でていく。
身をゆだねるように横になったコットンシープの腹部辺りの羊毛を丁寧に鋏で刈り取り出した。
「暫くこの光景が続きそうだな。今のうちに身体を休めておこう」
「…あの、俺達ってこのまま此処に留まってて大丈夫なんですかね?」
レザンが冷や汗を流しながら辺りをぐるりと見渡す。
続いてカネル達も辺りを見渡すと、先程まで前方にしかいなかったはずのコットンシープの群れは後方にも続いており、完全に囲まれた状態となっていた。
そのまま更にシルクを囲むように他のコットンシープ達がわらわらと集まりだす。
「え…ちょ、埋もれそう…っ!」
「ふかふかだ…」
「おいプラット、そのまま寝ようとするんじゃねぇよ!」
「どんどん集まって来るぞ…!?」
わらわらと集まって来るコットンシープ達にカネル達は行き場を失ってしまう。
それに気づいたシルクは静かに振り返り、狐面の下で目をぱちくりとさせた。
コットンシープ達の鳴き声がシルクの脳内で翻訳されていく。
『この人間も毛刈りしてくれるの?でも鋏持ってないよ?』
『皆真っ黒だね~、私と同じ黒色だ~』
『ねぇねぇ遊ぼうよ~』
本来なら警戒心が強く臆病な性格でもある筈なのだが、シルクと一緒に来たこともあって警戒心を解いてしまっているようだ。
どんどん集まるコットンシープにカネル達は困惑するも、追い返そうとするような素振りは見られない。
シルクは安堵の息を零し、毛刈りを再開させては丁寧に羊毛を刈り取り続けた。




