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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第五章:渾然一体
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121. 討伐見学

 今回討伐対象となるのは、グラトンゴートと呼ばれる鋭い角と蹄を持つ凶暴な魔物だ。


 群れで行動することや、視界に入った植物は全て食べ物と認識しては一斉に食べ尽くしてしまう程の暴食ぶりが特徴的である。主に崖まわりを生息地としており、岩壁の凹凸を利用し器用に崖を登ることができる。



 そんなグラトンゴートを討伐するべく、シルクは目の前に立ちはだかる100m以上もの高い崖を見上げていた。



「…目標を確認」



 シルクは狐面の下で目を大きく見開かせ、視覚魔法を発動させる。

 目の前で幾つもの魔法陣が浮かび上がると、崖の途中にいるグラトンゴートの姿が魔法陣に映し出される。


 そのままグラトンゴートを観察していく中、近くの大岩からぺーシェとプラットが息を潜ませながらシルクの様子をしっかり観察していた。



「あれだよ、あの視覚魔法。もっと近くで見てみたいな〜」


「また後でじっくり教えて貰うんだな。グラトンゴートは標的を見つけたら暴れだす獰猛な魔物だから、あまり刺激させない為にも討伐中はなるべく離れてろって言われてるだろ」


「勿論分かってるよ〜……はぁ、僕でもこれくらいが限界なんだけど、シルクさんのはもっと魔法陣の種類が多いんだよなぁ」


「…俺はぺーシェの視覚魔法も十分過ぎると思うけどな」



 ぺーシェも視覚魔法を発動させてグラトンゴートの様子を確認する。

 幾つもの魔法陣が浮かび上がるが、ぺーシェの言う通りシルクの出している魔法陣の方が数が多く、より線密である。



 別の場所からはカネル、アベル、レザンが身を潜めさせており、同様にシルクの様子を観察している。

 レザンも視覚魔法を使える為、シルクの発動させている魔法陣の種類をじーっと見ては眉間に皺を寄せた。




「あんなに線密な視覚魔法を扱う人は初めて見ましたよ…ぺーシェも凄いですけど、更に上回ってますよあれ」


「あの様子だと遠距離攻撃で討伐していきそうだな。視覚魔法のこともあるし、今回はぺーシェとレザンに多く収穫がありそうだ」


「…どうでしょうか、まだ分かりませんよ」



 アベルは一瞬不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、鋭い目付きを静かにシルクにぶつける。


 実際シルクは様々な武器を状況に合わせて変化させていく為、アベルの言う通りどうなるかは分からない。

 同時に、自分と同じ刀を扱った討伐を見せて欲しいと言わんばかりの様子にも受け取られ、カネルは目を細めてから軽く笑みを零した。



「さて…シルクさんの討伐姿をしっかり見させてもらおう。いつでも飛べるように各自準備してあるな?」



 アベルとレザンは静かに頷き、手元に箒の形をした小さなスティックを取り出す。


 それと同時にシルクも動きを見せる。

 ポシェットに手を突っ込み、するすると藁の箒を取り出しては跨ってふわりと宙に浮かんだ。



 そのまま真上に向かって勢いよく加速していき、崖の途中で留まっていたグラトンゴート達とすれ違う。グラトンゴート達はシルクの存在に気付いては目で追い、瞳が驚愕と警戒心で揺れ動く。



「23、24……25」



 シルクはぽつりとそう呟くと同時に右手の中指に嵌めている銀色の指輪がキラリと光る。

 手元に弓矢が召喚され、素早い動きで崖の頂上付近にいる3体のグラトンゴートに向かって矢を放つ。


 矢は放たれる直前で三つに分裂し、各自1体ずつに的確に向かっていく。

 同時打ち且つ全て急所に突き刺さり、3体はそのまま崖から崩れ落ちていった。



 明らかな異常事態だと判断した他のグラトンゴート達は奇声を上げ、下部に身を潜めている仲間に伝達していくように奇声は広がり大きくなっていく。



 急所を打たれたグラトンゴートは崖の下へと落下し砂煙が舞う。

 近くにいたぺーシェはグラトンゴートの状態を見るなり瞳を輝かせては、興奮するかのように両手を上下に振らせる。



「一度に3体も、しかもどれも急所で仕留められてる!しかもあんなに鋭い矢で!光属性と…なんだろう、他にも属性が混じってる気がする!!」


「おいぺーシェ!そろそろ他のグラトンゴートが地上に降りてくるぞ、まずは作戦通りに動け!」



 プラットとぺーシェの手にも箒の形をした小さなスティックが握られる。

 魔力を注ぎ込むと、伸びるように大きくなっては複雑に変化していく。


 各自飛行用の箒に跨ると、次々と降りてくるグラトンゴートとは対照的に真上へ飛び出した。



 グラトンゴートはシルクに向かって奇声を上げ、近くの岩壁に向かって頭突きを繰り出す。

 そのまま鋭い角を振り回すように首を動かし、頭突きによって抉られてできた岩が角に当たってシルクの方へと飛ばされた。


 複数の岩が迫ってくる中、シルクは瞬時に武器を弓矢から拳銃にすり替える。

 二丁の拳銃を構えては全ての岩に攻撃を命中させ、岩は空中で粉々に粉砕された。



 その直後、カネル達は目を丸くさせる。

 シルクは箒の柄に片足をのせてはそのまま跳躍し、空中で箒から離れてしまったのだ。


 一体何を考えているんだと肝を冷やす思いで名前を呼ぶも、その先の光景に更に度肝を抜かれることとなる。

 落下する途中で、まるで地面に足を踏みつけるかのような動きを見せてはそのまま空中を走りだした。



「シルクさんが空中を走ってる…あれも何かの魔法か?」


「あれは浮遊魔法ですね。だけどあんな使い方をするなんて…」



 レザンは視覚魔法を使いながら目を凝らし、シルクの足元辺りに注目する。


 細かく粉砕された岩が浮遊魔法で操られ、シルクはそれらに足を乗せるように動いている。それを何度も繰り返し、空中でも走っているように見えているのだ。


 魔法だけでなくバランス感覚も備わっていることで成せているシルク独自の技である。



 そのまま迫ってくるシルクの姿にグラトンゴートは再び大きく首を動かし、角で攻撃しようと試みる。

 しかしその攻撃は空振りで終わる。一足先にシルクが真横を通り過ぎた直後、握られていた小刀によって真っ直ぐ急所を切り刻まれては落下してしまった。




「8…9、10」



 岩壁も利用して跳躍、回転を繰り返しながら次々とグラトンゴートを仕留めていく。

 あまりにも速い動きにグラトンゴート達は戸惑いを見せ始め、崖下付近で待機していたものは次々と地面へと蹄を向けた。



「16…17」



 シルクは地面に着地すると、角を前に突き出して直進してくるグラトンゴートに突っ込むように向かっては、滑り込ませるように小刀の刃先を首元に持っていく。


「20…21、22」



 次々と討伐していく光景を、カネル達は空中から見守る。

 真剣に且つ興奮を抑え込むような期待に満ちた瞳で、瞬きするのを忘れる程しっかりと。



「24……」



 途端に辺りはしんと静まり返る。

 横たわったグラトンゴート達はぴくりとも動こうとしない。どれも急所で、最低限の攻撃で仕留められている。



 シルクは小刀を指輪に吸い込ませるように仕舞うと、ふうと息を吐いて軽く視線を伏せた。


 その直後、シルクの背後となる崖の上でからからと削れた小岩が落ちる音が静かに響く。




「上から落ちてくるぞ!」



 プラットが叫んだように、崖に身を潜めさせていた1体のグラトンゴートが跳躍し、鋭い蹄をシルクの頭上に向けて落下してきていた。


 シルクは振り向きもせず、ただ静かにその場に立っている。

 何故動かないと皆が困惑する中、静寂の中でどすりと鈍い音が響き渡った。




「25」



 シルクは背を向けた状態のままでありながら、右手から伸びるように召喚させた槍でグラトンゴートの身体を貫いた。

 そのまま振り回すとグラトンゴートは近くの岩壁に激突し、どさりと倒れ込んでしまう。一撃で急所を貫いていた為、ぴくりとも動かなくなっていた。



「…全25体、討伐完了」



 槍を軽く振ってから指輪の中へと吸い込ませるように仕舞い込む。


 静寂に包まれ、討伐対象であるグラトンゴートは全て横たわった状態。

 そんな中シルクは無表情のまま依頼書を取り出し、依頼完了の印となる文様が描かれるのを確認しては再びポシェットの中へと仕舞い込んだ。



 カネル達は飛行用の箒から飛び降りるように地面に着地し、シルクの元へと向かう。


 普段通りに討伐したものの、第三者目線ではどうだったのだろうか。

 シルクは狐面の下では無表情であるも、そう考えながら向かってくるカネル達の様子を伺おうとした。


 直後、狐面の下で目を丸くさせたまま後ずさることとなる。



「凄いよ、凄すぎるよシルクさん!崖まわりをあんな軽やかに動く人初めて見たよ、どんな特訓をしたらあんな動きができるの!?」



 ぺーシェが駆け足で近寄ってきてはずいと前のめりになった状態でシルクの前に立ち止まり、瞳をきらきらと輝かせる。不意に一歩後ずさってしまえば、空いた空間を埋めるようにずいと一歩近付けられてしまう。


 以前にもこんなことがあったような、とシルクは無表情のまま冷や汗を流しては間を置くように両手を前に向けた。



「こらぺーシェ、シルクさんを困らせるなよ」


「ぐえ」



 カネルがぺーシェの首根っこを掴んで引っ張ったことでシルクと距離が離れる。

 魔法障壁を発動しようかと考えていたシルクは静かにほっと溜息をついた。



 しかし安心はできない。

 カネル達の様子から、この後質問攻めが待っているのではないかと考えては肩を軽く落とした。

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