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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第四章:暗躍
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115. 驚きの連続

 とてつもなく大きな衝撃音はペーシェとレザンの耳にも入っており、ペーシェは倒れた魔物の上に足をのせたまま、レザンはしまおうとしていた銃を再び構えたまま音がした方に視線を向けていた。


 高く舞う砂煙の中から姿を現した巨大なゴーレムを見ては、二人も目を丸くさせる。




「何あれ、あんな奴がいるって情報あったっけ?」


「いいや…随分と大きいゴーレムだな。あんなに巨大なのは見た事ないぞ」



 軽い地響きは未だに続いており、森に潜んでいた動物達は逃げるように駆け回っていく。

 倒れた魔物を避けるように逃げ回っている為、二人はそれらに巻き込まれずゴーレムの方へ見上げたまま様子を伺う。



「大体10mは軽く超えてるんじゃないかな…あの辺りって僕達も通らなかったっけ。あんなにでかいなら通った時に気付くはずだけど」


「気配を全く感じなかったのが気味が悪いな…おい、また動き出そうとしてないか?」




 ズズズ、とゆっくりとした動きでゴーレムが腕を上げだす。

 途中でぴたりと動きを止めたと思えば、そのまま腕は地面に向かって振り下ろされた。


 再び衝撃音が響き渡り、振り下ろされた方向に強烈な地割れが稲妻の如く走っていく。

 木々や岩が吹き飛び、辺りに散らばるように降り注いでは広範囲で砂煙が舞う。


 ペーシェ達がいる場所にも砂煙が迫り、強烈な風圧が襲い掛かる。

 瞬時に魔法障壁を貼った事でその場から吹き飛ばされずに済んだが、砂煙で辺りが見えにくくなってしまいゴーレムの次の動きを瞬時に判断するのが難しい状況となってしまう。




「ちょっとちょっと、流石にあれはマズすぎるでしょ!あれも討伐対象として判断して向かうべき!?」


「緊急対応は必要だろうな…まずは隊長達と合流したいところだが、今信号弾を出すのは悪手か?」


「…あぁもう、まさかとは思ったけど無線機使えないし!」



 信号弾は仲間に居場所を特定させる手段となるが、同時に敵にも居場所を伝えてしまう事となる。

 もしゴーレムに居場所を示してしまえば、先程のような強烈な攻撃を振られかねない。

 各自持参している無線機を使おうにも、電波障害が発生してしまい連絡手段が途絶えられてしまう。


 見た事のない新種のゴーレムというのもあり、どのような特性を持っているのかも不明。

 作戦を立てようにも合流するのが厳しい状況。


 突然発生したこの状態に、二人は顔をしかめさせた。





 そんな時だった。


 二人の背後で突如突風が発生する。

 吹き飛ばされそうな威力ではないものの、追い風のように吹く風に驚いては警戒態勢で振り向いた。


 そのまま二人は目を見開かせる。

 突風が吹いた事で砂煙は晴れ、悪くなっていた視界が良好になる。



 全く気配を感じ取られなかったというのに、そこには一人の人物が立っていた。

 黒いローブをなびかせ、口元はストールで、目元は狐面で隠れてしまって素顔が分からない人物。

 しかしその姿が誰なのかを、二人は知っている。




「…お久しぶりです」



 そう落ち着いた声で丁寧にお辞儀をしたシルクは、顔を上げてから狐面を外して素顔を露わにさせた。

 黒い瞳には二人の驚いた表情が映り込んでいる。




「シルクさん!?え、どうして此処に…」


「緊急の魔物討伐の依頼を引き受けました。近辺で他の魔物討伐が行われていると聞いていたのですが、やはり皆さんでしたね」




 シルクは視線を軽く上げ、ゴーレムの方へとじっと見つめる。


 ポシェットから依頼書を取り出し、一度目を閉じてから目を大きく見開かせた。

 するとシルクの目元でいくつもの魔法陣が浮かび上がり、それらは拡大鏡のように遠くのゴーレムの姿を映し出す。


 視覚魔法で映し出されるゴーレムの姿と依頼書に描かれている魔物の姿を比較し、同一の魔物であるのを確認しては依頼書に薄く花の文様が描かれた。




「目標を確に…」


「何その高度な視覚魔法!僕等が使うのとは何だか違わない!?」


「…近いです」



 ペーシェがシルクの真横に立っては同様に覗き込むように更に距離を縮めて来る。

 ついジト目になってしまうシルクに対し、ペーシェは若干瞳を輝かせながら興味深そうに視覚魔法で表示されたゴーレムの姿を確認する。


 鮮明に映し出されたゴーレムの姿は少し離れた位置から見ているレザンにもはっきりと分かり、驚きの表情を浮かべてはごくりと唾を飲み込んだ。



 視覚魔法を解除するとペーシェは残念そうに肩を落としてから少し離れる。

 それでも気になる事は山程あると言わんばかりに食い気味な様子である為、シルクは視線を逸らしながらふうと溜息をついてから狐面を装着し直した。




「討伐対象と特徴が一致しましたので、私はこれから討伐に向かいます。皆さんは討伐は終えていますか?」


「あぁ、隊長達が残りを討伐できていればだが…」


「多分もう終わってる筈だよ。それで合流しようと思った矢先にあれが現れたもんだからさ…」


「分かりました…では皆さんは合流したら直ぐにこの場から離れてください」




 そう淡々と告げるシルクだが、ペーシェとレザンはぴくりと一瞬身体を強張らせては互いに顔を見合わせる。

 そのままペーシェはにやりと怪しい笑みを浮かべ、レザンは複雑そうに眉を潜めては苦笑いを浮かべ、それぞれシルクの方へと視線を移す。


 シルクは狐面の下で再びジト目を向けた。

 内心分かってはいた事なのだが、実際に訴えられては肩を竦めたくなってしまう。




「悪いけど、その指示には従えないかな。魔物が目の前にいるのにその場から去るなんて、魔物討伐特攻隊の名折れだよ」


「それもあるけど、その…何をしてくるか分からない相手に一人で向かわせるなんて出来ない」



 ペーシェは子どもっぽい笑みを浮かべながら、レザンは少々照れくさそうにしながらそう宣言する。

 そんな二人に共通しているのは、どちらも真剣な眼差しを向けている事だ。





「…私はいつも通りにやらせていただきます。各自、御自身の身は御自身で守るようにお願いします」


「やった!」


「念を押させていただきますが、手出しは不要ですので。私の仕事は私が責任を持って遂行します」


「了解…隊長達にも伝えておくよ」




 納得してもらえた事に安堵し、シルクはポシェットに手を突っ込めばするすると一本の箒を取り出す。

 魔法道具と言えど、それほど大きくないポシェットから柄の長い箒が出てくる光景には見慣れず、二人は冷や汗を流して苦笑いを浮かべた。




「…では、失礼します」



 箒に跨り、ふわりと浮かんだ直後には勢い良く一直線でゴーレムの方へと向かって行ってしまう。

 あまりにも速い速度で向かってしまった為、二人がはっとした時にはシルクの姿は小さく見えていた。




「レザン、早く隊長達と合流するよ!近くで討伐の様子をしっかり見届けないと!」


「あまり近付きすぎると巻き込まれるだろ!あぁもう…さっきの視覚魔法みたいに見れないかな?」


「よし、後で視覚魔法のコツも絶対教えてもらう!」



 そうして二人はそのまま合流するべく駆け出して行った。

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