116. ゴーレム討伐
「…駄目だ、本部にも連絡がつかない。暫く電波は不安定なままだな」
砂煙が舞い続く中、カネル達も魔法障壁で身を守りながらゴーレムの様子を伺っていた。
カネルは無線機が繋がらない事に軽く舌打ちしてからゴーレムの方へと睨み付ける。
ゴーレムは再び動きを止めているが、いつ動き出してもおかしくはない。
目を凝らして様子を伺うが、砂煙によって視界が悪くなった環境では思うように観察もできない。
アベルは魔法障壁を解除すると薄く漂う砂煙に表情をしかめさせる。
いつでも動き出せるよう体勢を整え、改めてゴーレムの方へと視線を移した。
直後、とてつもなく強い魔力を感じ取る。
反射的に肌がビリッと反応し、一瞬身体が強張ってしまう。
アベルだけでなく、カネルとプラットも同様に魔力を感じ取っては身を固めた。
それはゴーレムからではなく真逆の方向、後方から感じ取られた。
直ぐに振り返るも、薄く舞う砂煙で視界が悪い事しか分からず、明確な魔力源は不明だ。
刹那、カネル達の頭上を何かが物凄い勢いで通り抜けた。
それと同時に砂煙は風圧で払われ、視界が良好になっていく。
あまりにも一瞬の出来事にカネル達は目を見開かせ、風を切るように去っていった者の方へ視線を追わせようと振り返る。
それはカネル達とゴーレムの丁度間の距離で止まった事で存在が明らかになった。
黒いローブがなびき、首元をストールで覆っている後ろ姿には見覚えがあった。
カネルは目を見開かせたまま、口角を軽く上げて呟いた。
「…ようやく許可が下りたって事か?」
――
――
シルクは箒に跨ったままぴたりと空中で留まり、改めてゴーレムの姿を確認する。
「異常発生されたモディフィゴーレム…討伐させて頂きます」
右手の中指に嵌めている指輪がきらりと光ると、瞬時に刀が握られる。
同時に魔力の高まりを感じ取られ、モディフィゴーレムと呼ばれる苔まみれの巨大なゴーレムはシルクの存在に気付いては動きを見せた。
ゆっくりと片腕を振り上げ、先程のように勢いよく振り落とそうする。
しかし、振り落とす準備が整った時にはシルクは至近距離にまで近付いていた。
―――キンッ
一瞬の甲高い音が大きく鳴り響いたと思えば、ゴーレムの前にいたはずのシルクは既に背後にいた。
そのままシルクが数m離れたところで、腕を上げていた方の肩ががくんと落ちると同時に長い腕は肩から綺麗に離れてしまう。
振り下ろされる時よりは威力は少ない方だが、切られた腕はそのまま地面に落下しては衝撃波と共に砂煙が舞った。
――
――
「あの一瞬で腕を切り落とした…!?」
「一振りというか、一直線というか…一瞬過ぎて動きが分からなかった」
ゴーレムの腕が切り落とされる瞬間を目撃し、アベルとプラットは驚愕を隠せないまま目の前の光景に釘付けになっていた。
一応身を潜めている状態ではあるのだが、もっと近くで見たいという本音が身体を動かそうとしては、後ろにいるカネルが二人の肩を掴む事によって制止される。
しかしカネルもうずうずさせているようで、にやけそうになる表情を抑えていた。
「箒に跨った状態であの切り捌きとは…バランス感覚が良いで片付けられる業じゃないな」
「全くですよ、どんな特訓をしたらあんな事ができるんでしょうねぇ」
「お、二人とも無事そうだな。その様子だとシルクさんと会ったのか?」
そこでペーシェとレザンが合流し、無事であるのを確認すると同時に二人もそわそわとしている様子を見ては、カネルはにやりと笑みを抑えられなくなる。
「はい、どうやら緊急で討伐依頼を受けたようですよ。依頼書も裏魔法協会のもので間違いありませんでした」
「音も無く現れたから本当びっくりしましたよ!しかも超絶細かな視覚魔法でゴーレムの状態を確認しだすし、さっきの一撃も一瞬でしたし…本当何者なんですかシルクさんって!」
「ペーシェが興奮するほどの視覚魔法って何なんだよ…」
瞳を輝かせているペーシェの様子にプラットは肩を竦めさせる。
先程の攻撃と言い、魔物討伐特攻隊の中で視覚魔法をよく扱っているペーシェを興奮させると言い、色んな方向から変化球を突っ込まれるような感覚だ。
「またゴーレムが動き出しました」
アベルの声掛けで皆は再びゴーレムの方へと視線を向ける。
ゴーレムはもう片方の腕を動かし出すも、振り落とす時とは違って腕を曲げたまま途中で固定させる。
手元から強い魔力の流れを感じ取られたと思えば、ゴツゴツとした岩のような物質を造り出していき、それは段々大きくなっていく。
「まさかあれを投げつけるんじゃないだろうな」
「通常のゴーレムと同じパターンだとすればその可能性が高いが、あんな大きな塊を……!」
途中で言葉を止め、シルクの姿に視線を集中させた。
先程まで刀を握っていたが、今ではライフルに変化していた。
瞬時に構えられた姿勢となり、シルクは目を見開かせると同時に魔力を込めた弾丸を一直線にゴーレムの手元へと放った。
風の魔力を帯びた弾丸は大きな岩の塊に直撃すると、弾丸が塊の内部まで入り込んだところで風の魔力が膨張される。
内部から爆発するように岩の塊は粉々に弾け飛び、その勢いはゴーレムの腕半分までもを巻き込んだ。
ゴーレムは動きを鈍らせたところで、シルクはライフルをしまうと同時に再び刀を召喚させる。
そのまま勢い良くゴーレムへと箒で近付き、もう片方の残った腕までもを切り落としてしまう。
爆発音と衝撃波が森中に響き渡り、砕けた岩や切り落とされた腕が落下する度に地響きが続いていく。
あまりにも速く、且つ的確に攻撃していく姿にカネル達は息をのませて見守っていた。
「両腕を切り落とされてしまえば、それはもう攻撃手段を奪われたのと同じだ。後はコアを破壊すれば不能にできる訳だが…」
カネルは警戒心を保ったまま冷や汗を流す。
あくまでも通常のゴーレムの場合であり、今目の前にいるモディフィゴーレムは新種の存在。
何かしら別の攻撃手段がある可能性も十分考えられる。
そしてコアはゴーレムにとっての生命源であり、通常のゴーレムであれば頭部か心臓部辺りに埋め込まれている事が多い。
シルクは軌道を変えてゴーレムと向き直り、視覚魔法を発動させてはコアの位置を特定しようと試みていた。
すると、ゴーレムの口元らしき部分がぴしりと音を立て、口を開かせるように動き出す。
中は暗闇の如く真っ暗に染まっていたのが、一つの光が灯された。
それは魔力が込められた強いエネルギーで、みるみるうちに大きくなっていく。
「なんですかあれ…口からビームでも発射されるんですか!?あんな攻撃見た事ありませんけど!?」
「魔力が上がっていく…!」
離れた場所でも強い魔力がビリビリと伝わってくる。
ぺーシェの言うようにビームとして放ってくるのか、光の玉としてぶつけてくるのか、はたまた別の方法で攻撃してくるのか。
何が起こるのか分からない状況の中、カネル達は予防的に魔法障壁を貼ろうと構えだす。
シルクの方は、視覚魔法を発動させたままゴーレムの様子を静かに見つめていた。
光の玉はまだまだ大きくなろうとしているにも関わらず、無表情のままじっと、獲物を捕らえては逃がさんばかりの視線をぶつけていた。
「…見つけた」
そう呟いては、右手を上にあげて手を大きく開く。
刀がしまい込まれる代わりに、別の武器がシルクの手元に召喚される。
大きく長い筒状の武器、バズーカを肩に担いではゴーレムの口元に向かって構える。
「バズーカも扱えるのかよ!」
「おい…まさかあのまま攻撃をぶつける気か!?」
「高魔力のぶつかり合いになるぞ、いつもより頑丈に魔法障壁を発動させろ!」
カネル達が魔法障壁を貼った頃には、ゴーレムの放とうとする高魔力エネルギーの玉は大きく膨れ上がっていた。
シルクの構えたバズーカにも光属性の魔力が込められ、圧縮されていく。
視覚魔法として表示されている魔法陣は複雑に動きを変え、拡大鏡としてだけなく、照準器としての機能も追加される。
照準を定められた状態で固定し、静かに深呼吸する。
「仕留めるなら、真剣に……確実に。」
狐面の目元から見える瞳がぎらりと鋭く開かれる。
圧縮された高魔力が放たれると同時に、ゴーレムからも高エネルギーの玉がシルクに向かって放たれた。
高魔力の塊同士がぶつかり合うも、圧縮されたシルクの魔力が高エネルギーの玉を鋭く貫いてしまい、ゴーレムの口元めがけて一直線に向かっていく。
口元にそのまま入り込んだ魔力の塊は、内部に組み込まれていたコアに命中した。
とてつもなく強烈な爆発音と衝撃波が響き渡り、森を震わせた。




