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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第四章:暗躍
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114. 緊急依頼

 数日経ったある日の事。

 ティピックは頬杖をつきながら不機嫌そうに一枚の依頼書を見つめていた。



「社長、いつまでそのような顔をされているのですか。そろそろシルク様が来られるのですよ」



 ウィンに呆れた表情で指摘されると、ティピックははっとしてから咳払いをする。

 そのまま姿勢を正そうとするも、視線を軽く下に向けてはそのまま仕事机にゆっくりと突っ伏してしまう。

 明らかに普段とは様子が違うティピックに対し、ウィンは肩を竦めながら軽く溜息をついた。



「お気持ちは痛い程分かりますが、これ以上はもうシルク様の判断に委ねるしかありません」


「そうだ、確かにそうだとも。…それでも私は正直言って辛いんだよ」


「…シルク様はとても優しい御方ですからね」


「あぁ、それ故に押しに弱い部分もあるのも知っているさ。信頼できると判断した相手限定にだけど…」



 扉を叩く音が聞こえると、二人はそれぞれ姿勢を正して笑顔をつくる。

 それでもティピックは普段のような調子が出ず、横目で溜息をついては複雑そうな表情を浮かべた。




「失礼します……どうされました?」



 ウィンに案内されてきたシルクは、ティピックのいつもと違う様子に気付いては疑問符を浮かべる。


 心配そうに眉を若干下げているシルクの表情を見て、ティピックは安堵や困惑の感情を織り交ぜたような複雑な笑みを零した。

 勿論、嫉妬心を奥深くに潜めながら。



「突然の呼び出しに応えてくれて感謝するよ。緊急で対処して欲しい依頼が来てしまってね…頼れるのがシルク君しかいないんだ」



 依頼書をふわりと浮かせてシルクに見せる。

 依頼内容は魔物討伐であり、シルクは目をぱちくりとさせてからティピックに視線を移す。

 それと同時にティピックは続きの言葉を述べた。




「今のところ大人しく身を潜めているようなんだが、運悪くその近辺で丁度別件の討伐が行われていてね。それが刺激となって活動しだす可能性が十分高い事が判明した……正直彼等と鉢合わせさせたくないんだけどね」



 ぽつりと呟くように答えた後半の言葉は、シルクの耳に届いていた。


 シルクは軽く視線を伏せ、これまでの経緯を思い出しながら数秒黙り込む。

 その後ティピックに向けて真剣な眼差しを向けた。

 吸い込まれそうな黒い瞳に揺らぎは無い。




「ティピックさん達の心遣いに感謝しています。ですが…私もそろそろ覚悟を決めないといけません」



 そして、自分は大丈夫だと言うようにふわりと笑みを浮かべる。

 その綺麗な笑顔を見てはきゅっと口をつぐませ、視線を軽く下へと向けた。



「彼等は信頼できるのかい?」



 つい気になった事をそのまま口に出してしまい、ティピックははっとしてしまう。

 シルクは瞬きと同時に無表情へと戻るも、一瞬困ったように眉を下げてから肩を竦めた。



「完全にとは言い切れませんが…やるべき事に対して一生懸命に、真剣に取り組もうとする姿は好感を持てるような気がします。…真剣に応えを求められるのであれば、私も真剣に応えるべきかな、と」


「成程…シルク君らしい考えだね。でも若干諦めも含まれてないかい?」



 シルクは目をぱちくりとさせると、その後肩を軽く揺らしながらクスッと声を漏らした。

 いつもの静かな笑顔とは違った様子にティピックだけでなくウィンも驚いた表情を浮かべる。




「…やっぱりそう見えます?」



 やれ参ったなとでも言うような、困惑を含めた笑み。

 これまで見てきた微少な変化の中でも初めて見る表情であった。


 困惑と言えど、どことなくスッキリとした表情にも伺えられる。

 シルクの中で覚悟は決まっているようだ。




「では、依頼を引き受けさせて頂きます」



 そう宣言すると同時に真剣な表情へと戻り、つい固まってしまっていたティピックは数回瞬きしてから溜息をつく。

 今度はティピックが参ったなと言わんばかりの笑みを浮かべていた。



「……本当、妬いちゃうね」



 ――

 ――


 森の奥深くでは、既に何体もの魔物が横たわった状態でぴくりとも動かなくなっていた。


 その場から逃げ回っている魔物、立ち向かおうと威嚇する魔物。

 それらを追い掛け、武器を構えている五人の者達。

 魔物討伐特攻隊は現在進行形で魔物討伐を実行していた。



「逃げた二体はぺーシェとレザンが向かっているな。じゃあこの目の前にいる一体を合わせれば討伐完了だ」


「にしてもこいつは随分と大きいですね」


「なかなかしぶとさもありますし…」



 魔物は既に傷を負っているが、他の魔物と比べて一回り身体が大きい分丈夫なようだ。

 それでも魔物にとっては絶体絶命な事には変わりない。

 目の前にいる三人は戦闘能力に特化した者達、狙った獲物を仕留めていく実力者達なのだから。


 感じ取られる殺気に魔物の瞳には怯えが映り込む。

 それでも歯向かおうと雄叫びを上げたが、切り裂くような風の音、割れるような冷たい音、衝撃波を思わせるような爆音が鳴り響いた後には、他の魔物達と同様の結果を迎えていた。




「…さーて、残りを追いかけて行った二人の後を追おうか」



 カネルは投げつけた小刀を倒れた魔物から回収しながらアベルとプラットに声をかける。

 プラットは頷いてから魔法の槍を手持ちの柄の大きさに縮小させ、アベルも同様に刀を鞘に納めようとした。


 しかしアベルは途中でぴたりと動きを止めては一瞬目を見開かせた。

 呼吸を止め、鋭い目を伏せては辺りの音を感じ取るかのように静かに耳を澄ませる。




「アベル、どうかしたのか?」


「…何か地響きのような音がします」


「音…?」



 カネルとプラットもその場で耳を澄ませる。

 地面が重く揺れるような、ずっしりとした音が遠くの方から聞こえてくる。


 不気味に感じたカネル達はつい息を潜めさせては冷や汗を流す。




 直後、衝撃音と共に地割れが起こった。

 稲妻が走るように地面にひびが入っていき、凸凹と無造作に地面が飛び出していく。


 強烈な地割れは広範囲に及び、その一部がカネル達にも向かっていた。

 すぐさま地割れに巻き込まれるのを跳躍して避け、各自近くの木々の太い幹に飛び移る。




「一体何事ですか」


「おいおい…まさか異常発生が起きたって言うのか?」


「発生場所が此処からでは断定できません。先にペーシェ達と合流するべきかと」



 遠距離攻撃を得意とする二人がこの場にいない為、遠くで何が潜んでいるのかを特定するのが非常に困難な状況だ。

 二人が向かって行った方向とは真逆の方角からの地割れであったのが不幸中の幸いと言えるだろう。



「…そうだな。恐らく二人もあの強烈な音を聞いているだろうし、先に合流――」




 再び衝撃音が響き渡る。

 先程よりも更に威力を増したような、爆発的な音。


 地割れの範囲が広がり、地響きは長く続く。

 地割れの中心地であろう箇所では木々が薙ぎ倒され、砂煙が勢い良く舞っている。



 砂煙の中心で大きな影が蠢いた。

 それはみるみるうちに大きくなり、立ち上がるような姿勢で姿を露わにさせた。


 カネル達は再び武器を手にしたまま目を見開かせる。




「あれって…ゴーレムですよね。これまでに見た事のない形状をしてますけど」


「恐らくそうだろうな…まさか新種か?」


「見たところあの一体だけですけど、一応異常発生にはなりますよね」


「あぁ…この森でゴーレムが生息しているなんて情報は無かったからな。全く気配を感じ取られなかったし、何がどうなってんだか」




 全身が苔に覆われたような巨大なゴーレムは、立ち上がってからは動きを止めてその場で佇んでいる。

 しかしいつ再び動き出してもおかしくはない状況でもあった。

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