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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第四章:暗躍
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111. 不如意

「…それで、結局そのまま魔法植物の話に満足して終わってしまったと」


『はい…誠に申し訳ございませんでした、反省はしますが後悔はしていません』


「おいこら」




 カネルは呆れ顔のまま電話越しに話すグレイに耳を傾けていた。


 以前にシルクの予定を聞き出してもらい、魔物討伐以外の予定で埋まっていると聞いていたカネルであったが、魔法環境省の者の一人からシルクらしき人物の目撃証言があった事でとある可能性を考えていた。



 依頼内容は違えども、魔物が潜む環境にシルクは足を踏み入れていたのだ。

 それによって、討伐が目的でなくとも、魔物と遭遇する可能性は十分有り得る事となる。

 魔物と何かしら交流する場面を見られるのであれば、それもカネルにとっては興味深い事であった。



 魔物を討伐する為にも魔物の知識は必須であり、生態をより把握する事で魔物の弱点を突きやすくなる。

 それを踏まえれば、普段から異言語魔法を扱うシルクは魔物と交流する事で、一般と比べてより具体的に魔物の生態を把握しているのではないか。


 凶暴性のある魔物には異言語魔法が通用しないとしても、似た生態の魔物の知識を得ていればそれで代用が可能となるし、特定の魔物について別の魔物から情報を得ると言う手段もあるはずだ。



 何よりも、自然の動物や魔物と関わる際のシルクは落ち着いており、触れ合い方に慣れている。

 クロテッド社長の邸宅で小鳥達と交流している時や、ミルティーユ山でスノーコンドルの背に乗り言葉を交わしていた時の光景を思い出してはよりそう感じられるのだ。


 異言語魔法を扱えるからという理由だけでなく、シルク本人の人柄もあってこその関わり方をこの目で見てみたい。

 魔物に対して臆せず向かって行く姿と、穏やかに交流する姿、その両方を見る事で何かしら得られるものがあるかもしれない。



 ならばいっその事、魔物と交流する可能性のある依頼内容も把握してしまい、可能であればその様子を見させてもらえないだろうか。

 そう考えてはグレイに再びシルクの予定している依頼を聞き出してくれと頼んだのだ。


 しかし結局具体的な依頼場所を聞き出す事は出来ずに終わり、再び失敗となってしまった。



『だってあのフォレストータスだよ?毒性を持つ魔法植物でさえも食べてしまうし、更にはその毒性を保った状態の魔法植物を甲羅から自生させる事も可能なんだ。様々な特殊な魔法植物を自生させる事が可能となるフォレストータスを僕もこの目で見てみたかったなぁ~…ダメもとで僕も一緒に連れて行かせてくれないかって頼んでみたけど、やっぱり断られちゃったよ』


「そりゃあフォレストータスは温厚そうな見た目だがとてもデリケートな魔物だからな。グレイが近付けばストレスでとんでもない事になるだろうし、暴れられたら堪ったものじゃないぞ」




 グレイの性格を考慮した上で断りを入れたのであれば、シルクの判断は賢明である。


 そもそも野生のフォレストータスは人が立ち入ることの無い穏やかな自然環境で生息しており、もし人と遭遇すればそれだけでもストレスを受けてしまい、甲羅に自生させる魔法植物の育ちは悪くなってしまう。

 逃げる手段は手足や首を甲羅の中に潜めてから回転するという方法であり、しかも高速回転で逃げる事となる為甲羅に生えている魔法植物はそれによって吹き飛ばされてしまうのだ。


 その為なるべく気付かれずに採取する必要があり、もし見つかってしまえば数本採取できたとしてもその後は高速回転で逃げられてしまい、少数の採取で終わってしまう事がほとんどだ。



 しかし異言語魔法を扱いながら穏やかに接するシルクが相手となれば変わってくるのかもしれない。

 尚更その光景をこの目で見てみたいと考えてはもどかしい気持ちに襲われ、カネルは何度目かの溜息をゆっくり吐いた。



「せめて場所さえ分かればなんだけどな…」


『特定は難しいだろうねぇ、フォレストータスは色んな地域で発見されている魔物だし…うん、本当ごめんね』




 電話越しでグレイが肩を落としているのが想像できる。

 そして同時にティピックの腹の立つ笑顔までも想像してはこめかみに青筋を立たせる。

 ティピックがグレイの性格を把握してしまっているという事実がある以上、グレイを通してシルクの予定を把握するのはやはり困難だなと諦めの領域に達してしまった。



「ここまで徹底的に関わる機会を奪われてしまうとは、とんでもない独占欲だな」


『そうだねぇ…シルクとは長ーい付き合いだって言ってたくらいだし、もしかしたら僕達がシルクと仲良くなっていくのが羨ましいんじゃないかな?』


「…独占欲と言うより嫉妬心が強いのか」



 シルクの体質についてはカネルは把握しており、それによって妖精族であるティピックとシルクが長く交流できている事には納得できていた。

 具体的に何年交流していたのかまでは聞いていないが、長いの言い方から相当な期間なのだろうと考察する。

 だからと言って独占しようとするのはどうなんだ、と心の中でつっこみを入れては苛立ちが募っていく。



『そう言えば…依頼の中には裏魔法教会で手伝いをするものもあるって言ってたよ。その日を狙えばもしかしたらシルクとも会えるんじゃないかな』


「本当か?その依頼はいつあるのか分かるか?」


『あー…具体的な日時は言われなかったな。1週間通しての依頼の中の一つとして、としか聞いてないんだ』



 カネルはテーブルの端に置かれている書類に手を伸ばす。

 昨日に担当者から受け取った討伐予定の依頼書の山だ。中には裏魔法教会から提示された内容も含まれている。

 改めて一通り目を通すと、カネルは眉間に皺を寄せた。


 明らかに特定の1日だけ、他の日と比べて依頼が詰め込まれているのだ。

 同じ地域内での討伐と言うのもあるが、隙間時間があるとしてもその日丸々仕事詰めな状態である。


 まさかと思いながら依頼書を睨んでいると、スマートフォンからグレイの声が響き渡った。



『その日はほとんど裏魔法教会で引き篭る事になりそうだって言ってたけど…ティピック君ったら、シルクに休暇を与えるならまどろっこしい事をしないで、ちゃんと休暇日を与えれば良いのに。まぁ、シルクも仕事熱心だし、依頼が入ったら進んでやろうとするからねぇ』


「…引き篭るとは、どんな仕事内容なんだか」


『今後の依頼について語り合うとかどうとか?シルクも詳しくは知らなさそうな感じだったよ』



 シルクの意思ではなく、明らかにティピックの企みで徹底的に距離を置かせようとしているのが見え見えである。

 そこまでされると寧ろ気になってくるだろうが、と苛立ちながらも落ち着こうとするせいで引き攣った笑顔を浮かべてしまう。



「もしその裏魔法教会での依頼っていうのがいつになるか分かったら連絡をくれないか?」


『了解〜』



 そうして通話は終了され、カネルはスマートフォンの画面を切ってからも深く溜息をついた。



 その日の夜に再度グレイから連絡を受け、例の日時については難なく知る事ができた。

 しかし予想通り、仕事が詰め込まれている忙しい日と被っていたのだ。



「…あの腹黒妖精が」



 カネルは額に青筋を立たせ、手にしていたスマートフォンが一瞬びきりと音を立てた。

 その時偶々近くにいたプラットとレザンは静かに肩を跳ね上がらせていた。


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