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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第四章:暗躍
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108. 比較

 とある場所にて、魔物の呻き声や叫び声が響き渡っていた。


 黒い軍服をまとった五人は各自武器を手にし、迫り来る魔物達に次々と攻撃を繰り出していた。


 そんな中、目の前の魔物にとどめを刺したぺーシェは辺りに追加の魔物がいないのを確認し、手元にあった光属性の矢を消した。

 倒れた魔物には複数の矢が突き刺さっていたが、手元の矢を消すと同時にそれらの矢も消えていく。



「こっちは完了っと…そっちは順調〜?」



 少し離れた場所に視線を移すと、そこではレザンが丁度銃をしまおうとしていた。

 ぺーシェからの声掛けに気付き、二人は合流する。



「今のところ順調だな。この辺りは一通り終わっただろ…アベル達の方はどうだろうな」


「さっき向こうから物凄い音が響いてたから、そこで暴れてるんじゃないかなぁ…あ、ほらあれ」




 ふと視線を上に向けると、崖の上から巨大な物体が落下しようとしていた。

 巨大な物体は討伐対象の魔物であり、ぺーシェ達の近くで勢い良く地面に落下する事で衝撃音と共に砂煙が無造作に舞う。


 砂煙が晴れると、瀕死状態の魔物の上では突き刺していた槍を引き抜くプラットの姿があった。



「ねぇプラット、アベルはまだ上にいるの?」


「あぁ、いつも通り…とは言い難いけど、しっかり討伐してるよ」


「まーた荒れてるのか」



 ぺーシェは苦笑いを浮かべ、レザンは溜息をつきながら崖の上に視線を留める。



 崖の上では何体もの魔物が倒れており、どれにも深い切り傷が刻まれていた。

 よろめく魔物の前ではアベルが刀を手にし、再び攻撃を繰り出そうと構える。


 魔力が高まると同時にアベルと魔物の距離は縮まる。

 振り上げられた刀から氷の魔力が勢い良く漏れ出て、冷気をまとった攻撃が魔物にぶつけられた。

 切り傷を中心にして、ばきりと冷たい音が鳴り響いては魔物は氷に覆われて固まってしまう。


 そのままとどめを刺すように一直線に刀が突き刺され、氷が砕けては魔物はどさりとその場に倒れ込んだ。



 冷気が漂う中、アベルは倒れた魔物の切り傷を見ては眉間に皺を寄せて舌打ちする。



「それで最後みたいだな」



 アベルが刀を鞘に収めたところでカネルも合流する。

 カネルは辺りに倒れている魔物の状態をぐるりと見渡し、どれも起き上がる事は無いのを確認してから再びアベルに視線を戻した。


 不機嫌そうなアベルの様子にカネルは肩を竦め、困ったように眉を下げる。




「討伐結果としては十分な成果だが、相変わらず納得していない様子だな」


「…はい」



 最後に倒した魔物には複数の切り傷が刻まれているが、切り傷の深さはまばらだ。

 そんな状態のものを見ながら、アベルの脳内にとある光景が映し出される。


 ミルティーユ山の山麓にて、シルクによって討伐されたホワイトウルフがそこら中に横たわっている光景。

 どれも最低限の攻撃で仕留められており、切り傷を負っていたものはどれも一定の深さでムラの無い状態であった。



 その状態と、今目の前で倒れている魔物に刻まれている切り傷を比較してしまい、再び眉間に皺を寄せた。




 その後カネル達は討伐対象の魔物を全て仕留められた事を確認し、後処理班に連絡してから魔法防衛省へ戻る準備を進めた。


 途中でぺーシェは弓を手入れしながら、カネルに向かって気になっていた事を口にする。



「そう言えば隊長、シルクさんの件についてはまだ許可がおりてないんですか?」


「あぁ、何度交渉しても全くおりない」



 カネルは小刀を磨く手を止めて苦笑いを浮かべる。

 同時にティピックの笑顔で拒否する光景を思い出しては口角が一瞬引き攣った。



「敢えて僕達と接触できないように依頼を振り分けているらしいな。以前グレイから聞いたところ、今シルクさんには討伐依頼が入っていないようなんだ」


「直接本人と会って許可を得る事はできないんでしょうかね」


「それも考えたんだが、どうもタイミングが合わないんだ。僕達の時間が空いた時にはシルクさんは仕事で不在…しかも今は長期の依頼を受けているみたいでな、それがいつ終わるのかは不明だ」



 参ったなと言わんばかりに溜息をつくと、ぺーシェが肩を落としながら「えぇー…」と残念そうに声を漏らした。



「僕もシルクさんから色々聞きたい事があるのになぁ。色んな武器を扱ってるみたいだし、どんな弓矢攻撃をするのか見てみたいんだよね」


「武器の扱い方については俺も気になるんだよな。扱う種類が多くて最初聞いた時は驚いたけど、同じ武器を扱う身としては話を聞いてみたい」



 プラットもぺーシェに同意するように頷きながら会話に加わる。

 そんな会話にレザンも反応し、静かに話を聞いていたアベルも少し肩を揺らした。



「銃の構え方からも扱いに慣れてそうだったな。俺も可能なら話を聞いてみたい、けど…」


「レザンったら、シルクさんと直接話せるの?」


「真っ赤になって固まるか視線を逸らすかで、会話が成り立たなくなりそうだよな」


「ぐ…、それでも!気になるものは気になると言うか…!」


「これを機に女性と関わる事に慣れていきなよ。ねぇねぇ、アベルはどう思……」



 アベルも気になっているであろうと声をかけるぺーシェだが、アベルの様子を見てはぴしりと固まる。

 明らかに不機嫌そうな表情で、目付きの鋭さがより強調されては黒いオーラが滲み出ている雰囲気だ。



「アベル、そんなに怒った顔しなくてもいいじゃん」


「…怒ってねぇよ」


「いやお前、さっき凄い顔してたからな?」



 表情を指摘され、アベルは口をへの字にして視線を逸らすも目付きは相変わらず鋭いままだ。


 アベルも皆と同様にシルクの武器の扱いについて気になっている。

 気になると同時に、切り傷の状態を思い出しては自身の腕前との差を突き付けられたような感覚を覚えてしまい、悔しさも込み上げていた。


 只の魔法使いです、とシルクが自己紹介の際に発言していた言葉を思い出しては、再び眉間に皺を寄せる。



 そんなアベルの様子を見て、カネルは腕を組みながら考えるように視線を斜め上に向ける。

 現時点で仕事に大きく影響は出ていないが、苛立ちを募らせた状態のまま仕事を続けさせるのはよろしくない事だ。


 どうにかしてシルクと接触する機会ができないだろうかと考えるも、再びティピックの腹の立つ笑顔を思い出してしまい、カネルまでもが眉間に皺を寄せた。

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