107. 依頼の予定
「ねぇシルク、今日はどんな仕事内容だったの?」
ある日の夕食時。
シルクはサラダを口に運ぼうとするのを止め、グレイに視線を移した。
「今日は魔法素材の採取を引き受けました」
「採取系かぁ、ちなみにどんな物を?」
「幾つかの鉱石を採取しました」
「鉱石って事は鉱山に行ってたんですね」
「シルクに頼むくらいの内容って事は、やっぱり採るのが大変なやつなのか」
「だいぶ奥まで進んだ場所にあったので、まぁ…そうなりますね」
ミュスカとシャロンも会話に加わり、シルクの仕事内容について興味深そうに耳を傾ける。
そんな中、グレイは続けてシルクに問いかけた。
「なるほどねぇ…ちなみに、昨日の仕事内容も聞いたりしても良い?」
シルクは目をぱちくりとさせる。
グレイはにこにこと笑顔のままだ。
「昨日は遺失物の捜索でした。これは個人情報に関わるので、詳しくは言えません」
「遺失物の捜索って…本当にシルクさんって色んな仕事を引き受けてるんですね」
「何でも屋って言われてるくらいだしな。無事見つかったのか?」
「はい、何とか見つけ出しました」
シルクは淡々と話しながら、さり気なく視線をミュスカ、シャロン、グレイの順に移していく。
ミュスカとシャロンはいつも通りの様子だが、グレイには違和感を覚えていた。
普段のように笑顔を向けているように見えるが、何かを探っているような雰囲気を感じとられ、シルクは首を傾げる。
何故グレイから探りを入れられるのだろうかと純粋に疑問になるも、ふと一つの可能性を脳内に浮かべた。
「明日も仕事を入れてるんですか?」
「はい、明日も採取系の依頼を引き受ける予定です」
「そうなのかい…」
グレイが若干眉を下げるのをシルクは見逃さなかった。
その行為によって、思い浮かべていた可能性がどんどん濃くなっていく。
「これから暫くは、魔法素材の採取や捜索といった仕事が続きそうなんです」
「…てことは、暫く討伐はしないって事?」
「そうなりますね」
グレイから討伐という言葉が出てきた事で、可能性は確信に変わった。
シルクはついジト目を向けてしまい、グレイは笑顔のままぎくりと肩を揺らした。
「…ジャスティさんから探りを入れるように言われました?」
「むぐ…」
図星をつかれたグレイは冷や汗を流す。
誤魔化すようにサラダをもしゃもしゃと食べるも、ごくりと飲み込んでから観念したように軽く溜息をついた。
「先生、カネルさんからの探りとは一体…?」
「えーっと…実は昨日、ちょっとした相談を受けてさ」
グレイは申し訳無さそうに眉を下げ、探りの経緯を話した。
昨日にカネルから連絡が入り、シルクが魔物討伐を最後に引き受けたのはいつなのか、これから先引き受ける予定があるのかを探って欲しいと頼まれたのだ。
シルクは凄腕の何でも屋であり、引き受けた依頼はどれも見事に完遂させる実力者だ。
中でも魔物討伐は高難易度のものばかり引き受けており、グレイもそれを把握している。
以前カネルは初めてシルクと会った時、シルクの計り知れない魔力量や仕事内容について興味深そうにしていた。
実際に魔力測定機で桁外れな数値を叩き出された事や、異常発生された魔物の討伐された状態を目にしてからは更に興味を示してしまい、是非この目で討伐の様子を見てみたいと言い出したのだ。
その旨を裏魔法教会代表取締役社長であるティピックに直談判したものの、即座に拒否されてしまう。
何度交渉しても結果は同じで、それでもカネルは諦められずにいた。
そこでグレイに探りを入れてくれないか、と話を持ちかけられたのである。
「何気にティピックから反発されているんだな…」
「みたいだねぇ。でも反発する理由は分かるというか…シルクは本来、素性を深く探られるのは苦手でしょ。だから相談を聞いた時は迷ったんだけど…」
グレイは当初相談を引き受ける事を少し躊躇っていたのだが、唯一の友人からの頼みをそう簡単に断ろうとも思えなかった。
あくまでも予定を聞いて欲しいという要望であったので、それだけなら…とつい引き受けてしまったのである。
「変に探るような事をしてごめんね、やっぱりカネルには良い感じに誤魔化しておくよ」
「いえ…実際に暫くは魔物討伐は無さそうなので、そのように伝えて頂いで大丈夫ですよ」
シルクは至っていつも通りの様子でそう告げる。
そしてそのまま視線だけを軽く上に向け、数えるように指を一本ずつ折りながら言葉を続けた。
「明日は魔法植物の採取が二件、明後日にも三件ほど同様に採取があって…更に次の日には潜入捜査が控えています。他にも…」
「待って待って、そんなに依頼が溜まっているのかい?」
「はい、採取系の依頼は1日に多くて四件受ける時もあります。同じ生息地という条件にはなりますけどね」
「あの…それって全部ティピックさんからの指示で受けているんですよね。シルクさんからこういった依頼を受けたいとか提案したりはしないんですか?」
「基本的にはティピックさんに任せていますけど…」
シルクは軽く首を傾げながら眉を下げた。
「いつもは満遍なく依頼を提示されてたんですが、1週間も魔物討伐の依頼を提示されないのは初めてかもしれません」
「それって大丈夫なのか…?」
「まぁ…私以外にも仕事は振り分けられていますし、討伐が滞る事は無いと思います」
「なるほどねぇ…ところでさ」
グレイは真剣な面持ちになり、シルクに真っ直ぐ視線を向ける。
明らかに様子が変わった事にミュスカとシャロンが気付くも、先程シルクが言っていた内容を思い出してから納得するように苦笑いを浮かべる。
「明日に引き受けるという魔法植物の採取の内容は詳しく聞いても大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
その後は魔法植物の話題に切り替わり、魔物討伐に関する事はそっちのけになってしまう。
グレイは魔法植物の話題になるとそちらに熱中してしまう為、もしやティピックはこの事を踏まえて依頼を提示しているのでは?とミュスカとシャロンは変に考察してしまっていた。
そうして暫く魔法植物について語り、満足したグレイはほくほくとした表情で食卓を後にする。
マシンガントークを披露されるも、シルクは変わらぬ様子で話を聞き終えては食後のハーブティーをゆっくり飲んでいた。
グレイのマシンガントークを最後まで平然と聞き終えるシルクの存在は大きいな、とミュスカとシャロンはそう考えながら苦笑いを浮かべた。
「それにしても、シルクって従順だよな。似たような依頼が続いて物足りないとか思ったりはしねぇの?」
「特にそうは思わないですね。どれも大事な依頼ですし、それに…」
ハーブティーを飲み干し、静かにティーカップを置いてから言葉を続ける。
「採取系の依頼でも魔物とはよく遭遇しますので、いつも気を引き締めています」
ミュスカは片付けようとしたティーカップを落としそうになるも、何とか持ち堪える。
「そ、遭遇した時はどうしてるんです?」
「基本は異言語魔法でお話してから場を収めます。お話できない時はその場から離れるか、どうしようも無い時は気絶させます…流石に討伐の指示無しで倒す訳にはいきませんので」
そうしてシルクは最後に「ご馳走様でした」と呟いてからその場を後にした。
その場に残ったミュスカとシャロンは静かに顔を見合わせ、同時にシルクが去っていった扉の方へと視線を移した。
森や洞窟といった様々な自然環境の中で素材集めをするのだから、魔物と遭遇する事は勿論有り得る事である。
討伐姿でなくとも、ある意味魔物と交流する姿は見れるのでは…という考えが過ぎったが、結局それでも断られるんだろうなと二人は苦笑いを浮かべたのであった。




