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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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101. 謝罪と感謝

 広間にて、シルクはきょとんとした様子で目の前の光景を見ていた。


 シルクの目の前、やや下に視線を向けた先にはグレイの姿。

 頭をシルクの方に向け、額は床スレスレまで近付き、膝は完全に床についた状態。所謂土下座のポーズである。



 食卓に向かおうと廊下を歩いている最中、ふと広間に繋がる扉が開いているのに気付いたシルクは、そちらに視線を向ける。

 中でグレイがソファにもたれているのを目にし、珍しく早起きしているんだなと思いながら広間に入った。


 先にシルクの方から声をかけ、昨日の事を謝ろうと思った矢先にグレイが素早く動きを見せた。

 すくっと立ち上がったと思えばシルクに向き直り、背の高いグレイの視線がぐっと下がる。



「シルク、本当にごめん」


「え、あの…博士?」



 シルクは首を傾げた。

 何故謝られているのかが分からない。

 寧ろ迷惑をかけたのはこちらの方だというのに、と困惑する。


 そのタイミングでシャロンとミュスカも扉から顔を出し、シャロンは苦笑いを浮かべ、ミュスカはジト目でグレイを見ていた。



「先生、シルクが困ってるぞ」


「…ちゃんと説明しないといけませんよね」



 シルクは無表情のまま二人の方へ振り返り、再びグレイに視線を落とす。

 無表情ではあっても、心の中では困惑が続いている。




 ソファに座り、グレイ達から昨日の出来事について説明された。

 シルクは表情を変えずに黙って話を聞いた。



「…そういう訳で、カネル達にシルクの体質の事を話しちゃったんだ。勝手にばらすような事をしてごめん」



 普段から睡眠や食事をまともにとらずに過ごせていた事や、身体の成長が止まっている事。

 所々記憶が抜けていて、いつからそのような状態になったのか不明である事。




 グレイは下に向けていた視線を少し上げ、ちらりとシルクの様子を伺う。

 シルクは変わらず無表情であるが、数回瞬きをしてから口を開いた。




「それで、わざわざ謝罪を?」


「…わざわざって、シルクは怒ってないの?」


「今回は私の不注意でこうなってしまったんです。博士は悪くありません」



 それに、とシルクは言葉を続ける。

 無表情にほんの少しだけ優しい笑みが含まれる。



「博士も最初は秘密にしようと、色々誤魔化してくれたじゃないですか。博士に思いやりがあるのは知っています。その思いやりに、私はとても助けられてますよ」



 グレイは顔を上げたまま固まり、申し訳なさそうな表情に加えて瞳が揺らぐ。

 シルクはそれぞれの隣に座っているシャロンとミュスカにも視線を向けた。



「シャロンさんとミュスカさんからも、思いやりの気持ちが十分伝わってきます。お陰で私は此処で過ごせられています。…一人でいる方がマシだと思っていた頃の私が聞くと、驚かれそうな事です」



 再びグレイと向き直る。

 シルクのふんわりとした笑顔に三人は目を奪われた。




「私、皆さんの事は信用できます。皆さんに出会えて良かったです」



 その直後、グレイはソファから立ち上がる。

 不安だったのか目元に薄らと涙を浮かべ、うるうるとした瞳にシルクの驚いた表情が映っている。


 シャロンとミュスカも突然立ち上がった事に驚くも、この後の行動に予想がついていた。



「シルク…!僕こそ君と出会えて本当に良かったよぉぉ!!」



 シルクに向かって突進する勢いで迫ろうとするのを、シャロンとミュスカが即座に抑える。



「ええい、離すんだ二人とも!この感動の流れを台無しにしないでくれ!」


「先生のその突撃するような行動が台無しにさせてるんだよ!」


「いい加減自重してください!これ以上はもうセクハラです、いや、既にセクハラしてるんですからその事も謝ったらどうです!?」



 セクハラという言葉にシルクは再びぽかんとする。

 された記憶は全く無いのだが、と首を傾げて無表情を浮かべる。


 それに対してグレイはぴしりと固まるも、納得いかないと眉をひそめて反発した。



「誤解を招く言い方をしないでくれ給えよ、僕は思った事を正直に言ったまでだ」


「その正直発言の内容がセクハラなんです!」


「あの…博士はなんと言ったんですか?」



 シャロンは分かりやすく視線を逸らし、ミュスカは顔を赤らめて口をきゅっと閉じる。

 そんな様子の二人を置き、グレイは堂々と口を開いた。



「僕はただ、シルクはちゃんと女性らしい身体つきなんだなって思っただけだよ。これまでは細くてがりがりなんじゃないかって不安だったから安心しッッたあぁ!?」



 グレイの脇腹にミュスカの拳が直撃する。



「だから自重してくださいと言っているでしょう!」


「痛い!酷いじゃないかミュスカ!」



 グレイとミュスカが言い合いを始めてしまい、シャロンは片手で頭を抱えてはシルクの様子を伺う。

 シルクは無表情のままでいるが、それが寧ろ何を考えているのか分からなくて冷や汗を流す。




「それはまぁ…確かに私は、性別上は女性ですからね」



 シルクは真顔で淡々とそう答えた。


 三人は動きを止めてシルクに注目する。

 当たり前な事では?と疑問を感じているように首を傾げるシルクに向かって、つい三人も真顔になってしまう。



「シルクさん…不快に思ったりしないんですか?」


「不快にですか?」



 明らかに頭上に疑問符を浮かべている様子に、ミュスカは頭を抱えた。


 グレイはその後「ほら、僕は間違った事を言ってないじゃないか!」と自信満々気に胸を張り、その態度に腹が立ったミュスカは更に蹴りを入れた。

 シャロンは呆れた表情でミュスカを落ち着かせようとし、気が付けば三人での言い合いが始まっていた。


 シルクはそんな三人の様子を眺めては、仲が良いなと心の中で呟いていた。

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