アリアちゃん、魔王を復活させ従属させる
「……ごめん、もう一度言ってもらえる?」
『……魔王っス』
「この黒焦げの死体が?」
死体を指さす。
『……はいッス』
「いきなり攻撃してきた、この頭のおかしい男が?」
もう一度、死体を指さす。
え?
うそでしょ?
いやいや、だって魔王よ?
そんな……はずないじゃない。
もぉ~~~~、笑えない冗談はメッ!
『……はいっス』
「……あっ」
ドサッ―――――――――
『あ、アリア様!?』
わたしは地面に崩れ堕ちた。
青い瞳には生気がない、少女の小さな口はポカーンと開いている。
まるで、最愛の恋人を事故で亡くしてしまった、悲劇のヒロイン(14)のようだ。
――――まぁ、事故起こしたの、悲劇のヒロインなんだけど。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
わたしは思いっきし地面を叩いた。
魔王の娘の一撃は、地揺れを起こす。
草むらにいた小鳥たちが、一斉に飛び立つ。
「なんでいきなり魔王と遭遇するのよぉぉぉ!」
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
「まだこの世界に来て3時間も経ってないのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
「てか、弱すぎるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
「そうえいば、なんでもっと早く教えてくれなかったのよぉぉぉぉぉ!」
『えっ!? だってアリア様が敵のステータス教えるなって言ったから!』
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
『スミマセェェェェェェェン!』
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
ダァ―――――――――――――――――――ンッ!
……。
……。
……。
どれくらい時間がたったのだろう。
空はもう、薄暗くなっている。
わたしは、疲れて地面に倒れていた。
せっかく、冒険者になるためにこの世界に来たのに、
『冒険の書』に描かれていたような、胸躍る冒険ができると心の底から楽しみにしていたのに、
最弱パーティーを作って、幾多の試練を乗り越えながら徐々にレベルを上げていき、最後の最後で魔王を倒すはずだったのに、
物語が数時間で終わってしまった。
(……あぁ、もうどうだっていい)
頬に、一筋の涙が流れた。
「…………だよ」
わたしは、消え入るような小さい声で呟いた。
『ど、どうなされましたか?』
「……まだよ」
『え?』
「そうよ……まだ……まだ使える!」
そうよ!
わたしには、あの魔法がある。
リッチーとして死者を蘇らせる魔法。
魔王を倒してしまったなら、また甦らせればいい!
それに、蘇らせたリッチーは私の忠実な下僕になる。
町でパーティー作ったあと、仲間がある程度強くなったら魔王軍に町を襲わせよう!
そこで冒険者っぽく魔王軍を退治できたらカッコいいじゃない!
迷案ね!
わたしは跳び起きた。
さっきまで死んだようだった目は、輝きを取り戻している。
わたしは、黒焦げの死体に駆け寄ると、両手を死体に当て魔法を唱えた。
「死王の創造<クリエイト・リッチー>!」
魔王の死体が、まばゆい紫色の光に包まれる。
薄暗い夕暮れの草原が、赤紫色に染まった。
光が消えると、死んでいたはずの魔王が起き上がった。
魔王から手を放し、わたしは立ち上がる。
魔王は、足元で膝をつきこうべを垂れた。
「このたびは、私めを地獄より呼び戻していただき、まことにありがとうございます、アリア様」
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死王の創造<クリエイト・リッチー>:
闇属性・最上級魔法。
アンデットの王、リッチーを作り出し従属させることができる。
生成されたリッチーは、生前の経験値・記憶は残ったままであり、そのうえ魔力量が上昇する。
さらに、下級アンデットを製造、使役できるようになる。
――――まぁ、見た目は少々、禍々しくなってしまうが。
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「よし、成功だわ!」
「アリア様、私めにご命令を」
リッチーに変えられた魔王は、とても従順である。
生前の面影は何一つ残っていない。
数時間前まで、血の気に満ちていた肌は、今は冷たく青白い。
目に宿っていた燃え上がるような闘志は、すっかり消えてしまった。
―――――色々とあっけない。
「命令の前に、聞きたいことがあるわ」
「何なりとお尋ねください」
「なんで、いきなり攻撃してきたの? バカなの?」
リッチーとして復活した魔王に冷たい視線を送る。
いきなり切りつけられたことが、どうしても腑に落ちない。
コイツが攻撃してこなかったら魔王をいきなり倒すという、駆け出しの冒険者にあるまじき行為をしなずに済んだのに。
まぁ、まだ冒険者でもないけど。
前の世界でそんなことしてきたら処刑モノよ。
あれ?
よく考えたら処刑してたわ、わたし。
「生前の我の愚行をお許しください。 少々、気がたっていたのです」
「なんで?」
「この道をずっと行ったところに、『プリストル』という町があります。 その町を、数多の冒険者パーティーの頂点に位置する、白金クラスの冒険者パーティーが拠点にしているという事で、今回、魔王である私が直々にそのパーティーの品定めをしてやろうと、2日前にプリストルへ赴きました」
「ん?」
今なんて?
数多の冒険者パーティーの頂点に位置する、白金クラスの冒険者パーティー?
そういえば……
「しかし、町に入るためには入市税が必要で、金など持っていない私は、町の中に入ることができませんでした。 しかし、よくよく考えたら私は魔王、金など払わず、力ずくで町に入れることに気づいたのです。 それに気づいたら、なんだかムカついてきたので、魔王城に帰ったら魔王軍を総動員して、プリストルを滅ぼしてやろうと思いました。 そんな矢先に、強大なオーラを放つアリア様を見つけて、鬱憤を晴らすにはちょうど良いと、攻撃してしまったというわけです」
「そういえば、『冒険の書』に書いてあったわ!」
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~『冒険の書・中』、魔王降臨より~
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ブチッ―――
世界最強のパーティー、そのリーダーであるウィルは断末魔の叫びをあげた。
日頃、俺たちのことを『最弱パーティー』と嘲笑っていた彼は、一瞬にして魔王の巨大な手に捕まり、頭を食いちぎられた。
(略)
ウィルの仲間の魔法使いが、上級魔法を唱える。
天をも焦がす炎の槍が、魔王に直撃した。
しかし、人間の放つちっぽけな魔法など、魔王には効かない。
魔王は、今度はこちらの番だ、と言わんばかりに魔法を唱える。
(略)
魔法使いは、魔王が召喚した地獄の炎に焼かれ、人型の消し炭と化した。
(略)
そして、最後に俺たちのパーティーだけが残った。
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(やった! ちゃんと引き立て役がいるのね!)
わたしは思った。
『冒険の書』に登場する、ウィルのパーティー。
物語の中盤で、魔王にあっけなく倒された世界最強のパーティー。
その役を、『数多の冒険者パーティーの頂点に位置する、白金クラスの冒険者パーティー』にやって貰おう。
死なない程度にやられてもらおう。
さすがにグロいのは嫌だわ。
――――ちなみにアリアは、魔王の後半の話を一切聞いてない。
「でかしたわ! とても、有力な情報を聞けたわ。 さすがは魔王ね、どっかのスキル<観察王>とは違ってものすごく有能よ!」
『そんな! ひどいっスよ!』
頭の中で、スキル<観察王>が叫んだ。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
足元で膝をつきこうべを垂れていた魔王は、さらに深く頭を下げた。
「よし、あなたに褒美を与えるわ」
わたしは、持っていたバックを魔王に渡した。
そう、この世界に来る前に父からもらった、色々な魔道具が入っているバックである。
功績を残した家臣には褒美を与えなきゃね。
とりあえず、冒険に必要ないガラクタ(チート級の魔道具)が詰まったマジックバックを与えよう。
魔王は、それを大事そうに受け取り、感謝の言葉を述べた。
「おぉ! アリア様から直々に褒美を頂けるなんて! ありがとうございます!」
「この中には、役立つ魔道具がいっぱい入っているわ。 あなたはこれから、その魔道具を使って魔王軍の強化を行いなさい」
「了解しました」
「あー、当分の間は今まで通りの兵力で、人間たちと戦ってちょうだい。 時が来たら、プリストルを攻めるよう命令を下すわ。 それと、ときどき遠隔会話<ディスタント・トーク>を使って情報の共有をしたり、命令を伝えるからね」
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遠隔会話<ディスタント・トーク>:
光・闇属性の混合魔法で、中級魔法。
どんなに遠く離れていても、会話をすることができる。
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「よし、もう行っていいわよ」
「では、行ってきます」
魔王は、夜の草原に消えていった。
後には、小さな少女だけが残る。
「はぁ~、今日は疲れたし、もう寝るわ。 おやすみなさぁい」
『おやすみなさいっス』
アリアは、草むらに寝っ転がると、スヤスヤと眠りについた。
月の光が、少女をやさしく包む。




