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ローゼくんの願い

今回はローゼくん視点です!


 死の直前は時の流れが遅くなる。

 自分を含む周りの物すべてがゆっくりと動いているのに、頭の中だけはいつもと変わらない速度で思考を行っているんだ。


 むかし、冒険者になるための軍資金を集めるために働いていた町の酒場で、ある冒険者がそんなことを言っていた。

 そのとき僕は、羨望の念を抱きながら話に集中いていたものの、心の片隅でそんなことが起こるはずがないとまともに信じてはいなかった。


 そんな不思議なことが起こるはずがない……と。






 ごめんなさい。

 ちょうど今、死の危機に瀕していてめっちゃ時の流れが遅いです。

 あの話は本当でした。






 僕はいま、お空を飛んでいます。


 風を切り裂く甲高い音が、耳のすぐ横で鳴り響く。

 眼前に見えるのは、巨大な紫色の塊。


 そう、実際には空を飛んでいるのではなく、飛び跳ねたキングスライムの魔核石めがけて頭から突撃しているんです。


 アリアさんがくれた剣(なお、出所は不明)はちゃんと持っているのですが、恐怖で体がすくみまったく動くことができません。

 ごめんなさい、アリアさん。

 せっかく剣を渡してくれたのに僕が不甲斐ないせいで……。


――――――まぁ、僕を投げる必要性があったのかどうかは分からないのですが。


 イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 動けよ僕の体ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 ……。


 ……。


 ……。


 ダメだやっぱり動かないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


 時の流れは、優雅に流れる大河のようにゆったりとしているが、それでも少しずつ、少しずつキングスライムの硬い魔核石へと近づいていく。




―――――僕はアリアさんと出会った時のことを思い出していた。



=====================================


 やっと冒険者のなるために必要なお金もたまり、ウキウキした気持ちでギルドに向かう途中、町の不良たちに襲われお金を奪われそうになった僕は、大事なお金を必死に抱きしめうずくまった。


 不良たちは笑みを浮かべながら僕を何度も蹴った。

 体が痛みに悲鳴を上げる。


「早くその金よこせよぉ。 俺たちだって出来ればこんなことしたくないんだぁ」


「お前みたいなザコが冒険者になれるわけがねえだろ!」


「おい、この金で俺たちが冒険者にならないか?」


「そりゃ名案だ! 足りない分はどうせまたコイツがせっせと働いて稼いでくれるだろうよw」


 離さない! このお金だけは離さない!

 僕は冒険者になって強くなるんだ!

 弱い人たちを、困っている人たちを救ってあげれるような強くて優しい冒険者になるんだ!






 ……なれるのだろうか? 強くて優しい冒険者に。


 不意に頭に浮かんだ1つの不安。


 僕はその不安を振り払う。


 ……無理に決まっている。 冒険者になっても僕はずっと弱いままだ。


 そんなことない!

 僕は必死に努力して強くなるんだ!


 何度振り払っても頭の中の不安は消えない。


 どうして消えないんだ!

 なんで!






 当たり前か……。


 ……僕はとっくに気づいていた。


 僕にはなんの力もないことも。

 憧れの冒険者になりたいと、どれだけ必死に足掻いても、決してその努力が報われることはないことも。

 僕には誰も救うことができないことも。


 とっくに気づていたんだ。


 今だってそうだ。

 このお金もどうせ最後は奪われる。


 どうせ最後に奪われるのなら……


 もうお金を渡そう。

 僕にはもったいないお金なんだ。

 このお金を……夢に向かって必死に貯めたこのお金を渡せばきっと諦めもつく。


 離すんだ!

 この手を離して諦めるんだ!






 ……むりだ


 ……諦めれるはずがない


 ……ぼくは






 冒険者になるんだ!



「ねぇ、そこの少年たち! ちょっとギルドへの道を教えてくれない?」


 突然、少女のハキハキした声が聞こえた。

 僕は赤く腫れた顔をあげ、声のした方を見た。


 そこには仁王立ちで得意げな顔をした僕と同年代くらいの少女がいた。


 きれいな黒髪に、大きな青い瞳。

 長い耳はエルフ特有のものだろう。

 貴族なのだろうか、豪華な黒いゴスロリを着ている。


 僕は、すぐにこの場から逃げるよう声を出した。


「に……逃げてく―――――」


「なんだお前、ここはガキが来るような場所じゃねぇんだよ! すっこんで―――バブミッ!」


 バチ―――――ッン!


 吹き飛ぶ不良。


 僕は何が起きたのか分からなかった。


「て、テメー何しやがんだ! 死にさらせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――ウッホイ!」


「よ、よくも仲間たちを! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――テイッップ!」


「チクショォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ハヒュンッ!」


 次々に倒れていく不良たち。

 少女はとても……とても強かったのだ。


 僕は、不良たちが倒れていくのをただ茫然と眺めることしかできなかった。

 少女の圧倒的な強さにすっかり魅了されてしまったのだ。


 僕も……この女の子のように強くなりたい。

 そして出来るなら……この女の子と、アリアさんと


=====================================


「冒険がしたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 僕はスライムの魔核石に剣を突き立てた。



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