第二章「食べ損ね」が多すぎる
大森は北海道で役者をしており、
北海道の食と農業を紹介する人気配信者だった。
カメラを回すと、もともと大きい声がさらに大きくなる。
「どうも皆さんこんにちはーっ! 北海道食い倒れチャンネル、大森でっす!」
「知っていますとも。大森さんじゃないですか」
神崎は小声で言った。しかし心は喜んでいた。
実は神崎、自覚は無いが大森を推しているのだ。
「え?」
「あなたの動画を見ているんです。実際に紹介された場所にいったこともあります。」
大森が目を輝かせる。
「えー、本当ですか!嬉しいなぁー!」
「情報収集のためです」
「何の?」
「食文化の地域差についてです。」
「俺のチャンネルで?」
「そうです」
「どの動画ですか?」
神崎は即答した。
「昨年十月に配信された第247回の『函館の地元民しか知らない朝市の裏メニュー』あれは大変興味深いものがあります。さらに第260回の「当別町の幻のうどん」回については…」
大森の顔が固まる。
「……あれ、再生数そんなに伸びなかったのになぁ」
「題材は非常に良かった。ただ、大森さんのオーバーリアクションばかりが悪目立ち過ぎた。最も、あなたのコアなファン層には喜ばれているのだろう。少数だが安定した再生回数があって…」
神崎の分析が冴えわたる。
しかし、こんなに分析されることに、大森は恐怖を覚えた。
「先生、怖いっす…」
「失礼、熱が入りすぎたようで。」
「そんな先生にご相談ですが…」
その大森が、神崎に一枚の写真を見せた。
そこには、北海道各地の飲食店が並んでいた。
「実はね、最近、変なことが起きてるんですよ」
「何がですか?」
「食べ損ねるんですよ」
神崎の目が鋭くなった。分析官としての目でもあった。
「具体的にお願いします」
大森は説明した。
函館、旭川、札幌、小樽、帯広、富良野…
各地の人気店が突然臨時休業。
予約していた料理が届かない。
仕込みミスで特定の料理だけ提供中止。
店員が注文を取り忘れる。
交通障害で食材が届かない。
そして――
「必ず、誰かが楽しみにしていた料理なんですよ」
神崎は黙った。
「偶然じゃない」
「そう思います?」
「はい」
「なぜ?」
大森は神崎を見た。
「俺、食べ物の恨みは怖いって、昔から言ってるんで」
神崎の表情が変わった。
「……食べ物の恨み」
その言葉を、神崎は頭の中で反芻した。
そして。
「大森さん」
「はい」
「それは、犯罪心理学的に非常に興味深い」
神崎は地図を見る。
そして、一つの都市に印をつけた。
「旭川」
「旭川?ぼくの地元ですよー。」
「次に何かが起きるなら、ここです」
「えー!?」
「そうと決まれば長居は無用です。
この後、函館警察署で犯罪心理学の講演があります。
それが終わり次第、わたしは旭川に向かいます。
むろん、遠さは分かっていますからこんばんは札幌に泊まりますがね。」
大森「おぉー札幌ですか!いいですねー!そうだ、僕のお薦めの店教えるんで、連絡先教えてもらっていいですか?動画でも取り上げていないお店もたくさんあるんですよ!」
神崎「非常にありがたいです。」
そういって神崎はスマートフォンを取り出した。




