最終話 やっぱり希望条件は反映されてません
「サティ、すっごくきれい!」
「ありがと!クリスタちゃんも可愛いよ」
私はほぼベルント伯爵夫人の趣味で仕立てられた、マーメイドラインのウェディングドレスを着て、控室で待っている。そこにやってきたのは、私のウェディングドレス以上に気合いが入っているんじゃないかと思われる、可愛いドレス姿のクリスタちゃんだ。
今日は私の結婚式。
「晴れてよかったね!みんなでいっぱいてるてる坊主作ったからかな」
そう、今日は「絶対雨になる」って言われてたのに朝からとんでもなく晴れていて、秋も深まっているというのに暖かい。
「きっとそうだね。みんなにお礼を言わなくちゃ」と答えると、「違うって。てるてる坊主とかただの迷信。すべては僕のおかげ」という声がした。
創造神さんだ。
「そうだったの?どうもありがと」
「お世話になった人の結婚式だから、これくらいはするよ」
創造神さんはちょっと言いにくそうに口ごもる。
「本当にいいの?今のままで」
私は頷いた。
「うん。あなたをひとりにはしないよ」
「サチさんって本当にお人よしの馬鹿だね」
「ひどい言われよう」
「馬鹿って言われて、考え直す気は?」
「ないよ」
創造神さんの顔からいたずらっぽいような生意気なような表情が消えて、目が潤んでいく。
「サチさんが死ぬまでなんて、僕にとってはほんの短い時間なんだ」
「だから意味がないって?」
そんなこと思わない。
寂しい時間は少しでも短いほうがいい。友達と楽しく過ごした時間が、離れたあともきっとあなたを支えてくれるから。
「創造神さんもそう思ったから、本当のことを私に教えたんでしょ」
「…!」
創造神さんが本当に「寂しくないし、俺は一人で平気だぜ」って思ってるなら、私に選択の余地なんて与えなかったはずだ。適当なことでお茶を濁して、私の知らないうちに私をこの世界の人間にすることだってできたはず。神なんだから。
そうしなかったのは、一人になりたくない気持ちがあったからだろう。
「…つい、ずるい気持ちが出ちゃったんだ。でも今は君に教えたこと、後悔してる」
創造神さんの拳がぷるぷると震えている。本当に後悔しているんだってわかる。
「だって僕のために子どもを諦めるなんておかしいよ」
「私は諦めたんじゃなくて、選んだの。私の選択なんだから、創造神さんが罪悪感を抱く必要なんてない」
創造神さんは首をふるふると振った。
「だけど僕は君に約束したじゃない。神が約束を破るなんてだめなんだ」
「約束、破られたかなぁ?よくよく考えたら、私が出した条件は全部叶ってると思うよ?」
《広くてきれいな家で、優しい旦那さんと子だくさんの生活》
それが私の希望条件で、創造神さんが約束してくれたものだった。
「伯爵邸は広くてきれいなんだろうし、マリウスさんは優しいし。それにレオくんがいて、クリスタちゃんがいて、ママ友会の子どもたちもみんな大切だもん。ベルント・タウンハウスで預かる子たちも、私にとって大切な存在になるだろうね」
「子どもの定義が広すぎない?」
「いいじゃん。ついでに創造神さんも含まれてるよ」
「僕が?君の子どもみたいなもんだって?」
「そ」
「僕のこと何歳だと思ってるの。サチさんよりずっと年上だよ」
「だけど妹思いで泣き虫な、可愛いお兄ちゃんじゃん」
「神に向かって、泣き虫で可愛いって…」
「だって今もほら」
涙がぽろぽろこぼれてるじゃん。
「あ…」
「おいで、ウルくん」
私は両手を広げて、すっと近づいてきた創造神さんを抱きしめる。
「ずっと一人で寂しかったね。よく頑張ったね」
「…うん」と、小さく震える声が返ってくる。
じーっと私を見ていたクリスタちゃんが、「サティ、何してるの?さっきから誰とお話ししてるの?」と不思議そうに聞いた。
「あ」
そりゃそうだ。何も見えない彼女からしたら、私は虚空に話しかけ、空気を抱きしめている怪しい女にすぎない。
「いいよね?」とウルくんに了解を得て、私はクリスタちゃんに、エレシュさんとウルくんとクリスタちゃんの物語を伝える。
「ここにクリスタのお兄ちゃんがいるの?」
「そう。クリスタちゃんをずっと見守ってくれてたんだよ。それに、これからもずっと見守ってくれるよ」
「そうなんだ。お兄ちゃん、ありがと!これからもよろしくね!」
クリスタちゃんが私を見る。
「お兄ちゃん、なんて言ってる?」
「ふふ、泣きすぎて言葉を発せてない。クリスタちゃんのお兄ちゃんは、すっごく泣き虫なの」
「そうなんだ」
「サティ様、ご移動をお願いいたします」とイヴォンさんが伝えに来てくれる。まだ泣いてる創造神さんに「行くね」と声をかける。創造神さんは涙を拭いた。
「僕たちを救ってくれてありがとう」
「こちらこそ。ここに連れてきてくれて、大切な人たちと出会わせてくれてありがとう」
創造神さんはようやく笑顔を見せた。
「結婚おめでとう。きれいだよ」
「ありがとね」
私はバージンロードへ向かう。
そうして大切な人たちに祝福され、すべて知ったうえで受け入れてくれた人と、永遠の愛を誓ったのだ。
ーーー
そうやって結婚式をつつがなく終え、慶弔休暇を利用してアイゼンハルト伯爵家の本邸にやってきた私は、門の前で立ちすくんでいた。
「これが伯爵邸だって言うんですか…?」
疑問も当然だと思ってほしい。だって外壁はぼろぼろで黒ずんでて、廃墟みたいなんだもん。
「前国王派がここから逃げたときに、火を放っていったんです。掃討作戦が忙しくて修復まで手が回らず、今に至ります。職人を募集しているのですが、復興需要でどこも人手不足で…」とマリウスさんが頭をかいた。
握った拳がぷるぷると震えてくる。
「広くてきれいな家はどこなのよ、創造神さーん!!」
やっぱり希望条件は反映されてないみたいです。




