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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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91 二つ名

「父上や母上と走れて嬉しかった。またやりたい」

「我が子がこんなに成長していたとはな」


運動会が終わってみんなでご飯を食べながら、私はそんな言葉を聞いている。


大人も子どもも楽しそうで、しみじみと「やってよかった」と思う。綱引きの綱や、大玉転がしの玉を用意してくれた人たちにもお礼を言わなくちゃ。


「やはり”戦場のライオン”は強かったですな」

「そうだろう。しかし”黒熊”もなかなかだ。まさか発煙筒を常備しているとは恐れ入る」

「お褒めに預かり光栄です」

「ふん」


アロイスさんとリヒターフェルト侯爵は、健闘をたたえ合っているのか嫌味を言い合っているのか。とにかく楽しそうだから、いいとする。


と、そう言えばひとつ気になることが。


「”黒熊”とか”死の薔薇”とか、アイゼンハルト伯爵家にもそういう二つ名みたいなのがあるんですか?」

「ああ、アイゼンハルトは”鉄の森”です。アイゼンハルト伯爵軍の兵士は屈強で、束になってかかり、斬られてもなかなか倒れないということで。家名や領地の特徴にもかかっています」

「確かに。アイゼンは鉄だし、アイゼンハルト領には森が多いし」

「そういうことです」


そうやって説明されると意外に普通だし、”死の薔薇”みたいな中二臭はない。ちょっと残念。


「でもマリウス隊だけの二つ名もあるだろ」とバルツァー侯爵がくだけた様子でマリウスさんに声をかける。マリウスさんとバルツァー侯爵は、レオくんのお父さんの遊び相手として育った幼馴染だと聞いた。


「ジーク、やめてくれ」

「なぜ恥ずかしがる?かっこいいじゃないか、”神の(いかづち)”だなんて」


思った以上に中二がすぎて、私はポテトサラダが口から出てきそうになるのを慌てて押さえた。


「か、神の雷…?」

「ええ、そうなんです。強そうでしょう?周辺諸国まで名が轟いていますよ」


なぜかマリウスさんではなくバルツァー侯爵が得意げに説明してくれる。


”鉄の森”アイゼンハルト軍のなかでも、四男だったマリウスさんが率いる部隊は、最前線で敵とあたる役割を任されていた。騎馬隊の速さと、あとには草一本残さないほどの攻めの苛烈さから、”神の雷”との異名をとるに至ったという。


「第三王子時代の陛下が率いる部隊もお強かったが、私は、やはりレイデンバーン最強は”神の雷”マリウス隊だと思っています。まず恐怖心のなさが違います。わざわざ退路を断って突撃したこともあったとか」


マリウスさんはいつも穏やかで優しいイメージ。前国王派掃討作戦でも、無理に攻めなかったから時間がかかってた。そんな人が退路を断って敵陣に突撃して草一本残さないだなんて…


「そんなイメージが全く湧かなくて…まるで別人のような…」

「ええ、本当に。昔のマリウスは何にも誰にも興味がなくて、どこか生きる気力が薄いような感じでしたから、今とは別人ですよ」

「え…?そ、そうだったんですか?」


マリウスさんは心底嫌そうな顔をした。こんな顔も見たことない。幼馴染みにだけ見せる顔ってことか。


「そろそろやめろ、ジーク」

「いや言わせてくれ、マリウス。だって私は嬉しいんだよ。”伯爵家の四男に未来なんてないから、いつ死んでもいい”なんて言って、恋人もつくらずに無茶な突撃を繰り返していた君が、女性に愛おしそうな視線を向けて、嬉しそうにしているなんて」

「おい」


マリウスさんに睨まれても、バルツァー侯爵は止まらない。私の目を夜空みたいな目で見つめてくる。


「サティ様、本当にありがとうございます。私の大切な友人に生きる意味を与え、漠然とした絶望から救って下さって。あなたは彼の初恋ですが、永遠の愛でいてくださることも切に願います」

「初恋?」

「ええ。言ったでしょう?マリウスは誰にも興味がなかったって。サティ様は間違いなくマリウスの初恋の相手です」


バルツァー侯爵がいつものように花を背負って微笑んでくるから違和感が緩和されているだけで、初恋とか永遠の愛とか、通常、運動会で聞くセリフではない。しかもなぜ本人であるマリウスさんではなく、バルツァー侯爵からこんな話を堂々と公衆の面前で聞かされているのか。


マリウスさんは真っ赤になってるし、いつの間にか全員が聞き耳立ててこっちに集中してるし、どう答えればいいって言うんだよ。


「いや…ははは…」


なんとかお茶を濁したくて、何となく卵焼きに手を伸ばす。と、伸ばしたフォークが二重に見えた。


「え?」


吐き気が襲ってきて、思わず手で口を押さえる。フォークが手から離れ、目の前が白くなって、正面がどこかわからなくなる。よくわかんないけど、今の状況がまずいのはわかる。


「サティさん?」


心配してくれるマリウスさんの声。でもその顔は見えない。だって目の前が真っ白なんだから。


「大丈夫です」って言いたいのに、言葉がうまく出ない。椅子の上でぐらりと身体が傾いて、身体がよく整備された柔らかくて冷たい芝生のうえにどさりと落ちた。


「サティさんっ!?」

「サティ殿!」

「すぐに医者を呼べ!」

「サティ様、サティ様!しっかりなさってくださいませ!」

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