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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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90 運動会

風魔法使いさんに頼んで、旗を空中にはためかせてもらう。


「サティ様、大量の旗を空中に舞わせることに何の意味が?」

「運動会らしい雰囲気の醸成です!」


ロープをくくりつけるポールや園舎がないので、魔法で旗をあげてもらえるのはすっごく助かる。


「…?お役に立てるならそれでいいのですが」


魔法使いさんは腑に落ちない顔をしているけど、ほら見て。普段とは違う運動場の雰囲気にちょっと緊張している子どもたちが可愛いじゃないの。


そして子どもたちの活躍に期待しているご家族。ママさんだけじゃなくパパさんやおじいちゃんおばあちゃんたちも勢ぞろい。運動会っぽいよ、うん。高位貴族ばっかりだから、家族席の威圧感とキラキラが半端ないけど。


「親子でかパン競争には私が参加します」と、大きな声のリヒターフェルト侯爵。「叔父上も出てくれませんか?」とレオくんに頼まれたアロイスさんは、「もちろん」と頷いた。


「出るからには優勝だぞ、レオ。王家の威信がかかっている」

「はい!」


いや、おおげさな。親子で大きなパンツに脚を入れて走る競技に、威信をかけないで。威信が泣いちゃう。


「我ら”黒熊リヒターフェルト”に勝てますかな、陛下」

「当然だ。”戦場のライオン”を舐めるな」


背景で熊とライオンが睨み合い、子どもたちがでかパンごとパパさんに引きずられる絵が浮かんできて、私はたらりと汗をかく。


こっちでは「私も競争に出よう。”死の薔薇”の恐ろしさを見せつけてやる」とシルヴァーナ公爵が力こぶをつくり、アドリアンくんとロゼマリアちゃんが「父上と走れるのですか?」と目を輝かせている。


そして腰痛が悪化したベルント伯爵の代わりに出場するマリウスさんは、ベルント伯爵から「お前はあくまで代役だからな。父親面は許さん」と釘を刺されていた。


「わかってますよ、師匠」

「わしだって腰さえ治れば…!なんでわしの腰はこの大事なときに…!」

「落ち着いてください、血管が切れますよ」


ああ、何かいいなあ。


私は風魔法マイクを握った。


「ただいまより王城運動会を開催いたします。はじめに選手宣誓!」


勇気を出して選手宣誓に立候補したリオネルくんが大きな声で宣誓をし、ローゼンタール伯爵夫妻が初手で無事号泣。


大玉転がしでロゼマリアちゃんとペースを合わせたユリウスくんに、リヒターフェルト侯爵夫人が「ユリウスがレディーファーストを身につけた」と感涙。


私はでかパンで走る親子にほっこりし、バルツァー侯爵のかく汗が宝石に変わる特殊効果に驚き、綱引きで息を合わせる子どもたちを応援し、障害物競走リレーで転んでも諦めない子どもたちに泣かされる。


運動会、まじ泣ける。


「次は最終種目の棒引きです!出場選手は整列してください!」


子どもたちが一番気に入った競技が棒引きだったので、ラストにもってきた。


「中央に置いた複数の棒を、ふたつのチームが奪い合う」というシンプルな競技なんだけど、「棒を狙う順番」とか「誰と誰で棒を取り合うか」とか考えるのがおもしろいらしい(主にルカスくんが)。ユリウスくんやクリスタちゃんにとっては、自慢の脚力を発揮できる競技でもある。


ライオンチームがレオくん、ルカスくん、クリスタちゃん、アウレリアちゃん。


薔薇チームがアドリアンくん、ユリウスくん、リオネルくん、エステルちゃんだ。


この競技に参加しないロゼマリアちゃんが笛を吹くのに合わせて、両陣から子どもたちが駆けだす。


「いいぞ、ユリウス!まとめてかっさらえ!!」

「クリスタ、負けないで!もちろん可愛さでは負けてないわよ!」

「レオ、そこは捨てていい!右翼に走れ!!」

「お兄様、殿下の棒を奪わないでくださいませ!」

「そういう競技なんだよ、ロゼマリア!」


子どもたちはご家族の応援に応えようと、縦横無尽に走り回って頑張った。


「ただいまの勝負、引き分け!」


それを聞いたリヒターフェルト侯爵が、ずももっと立ち上がった。熊が後ろ足で立ち上がったみたいに見える。


「リヒターフェルトの辞書に、引き分けという言葉はないっ!」


おお…辞書を改訂して追加するつもりもなさそうだ。


「親も参加して再戦だ!どうですか皆様!」


アロイスさんが「望むところだ。でかパン競争もリヒターフェルトと同着一位だったから、きちんと決着をつけないとな」と、ゆらりと立ち上がる。


「お家の方はああ言ってるけど、みんなはどう?」と子どもたちに聞くと、全員がぱあっと顔を輝かせた。そうか、じゃあやらないわけにはいかないね。


「第二回戦、やりましょう!」


笛の音とともに、リヒターフェルト侯爵が「煙幕をはれ!」と命じる。煙幕ってなに。


「なっ…!?リヒターフェルト、卑怯だぞ!そもそもなぜ発煙筒を準備しているっ!?」

「武人たるもの、常に戦に備えております」


戦とは。


「夫が申し訳ございません、サティ様。熱くなるタイプですの」

「…みたいですね」


混乱するライオンチームでは、グリムフェルト伯爵に肩車されているルカスくんが冷静に指示を出して立て直す。


「バルツァー侯爵家は右翼の陛下を助け、熊どもの足止めを。その隙にクリスタ様とアイゼンハルト伯爵が棒を奪ってください」

「了解した、軍師殿!」

「父上、僕たちは左翼へ。ザイデルベルグを潰します」

「よし」


試合終了の笛のあとで土煙が落ち着いたら、大人も子どももみんな砂まみれで息切れしていて、思わず顔を見合わせて笑っちゃう。


棒引きはライオンチームが辛くも勝利して、想像とは違うかたちで大いに盛り上がった運動会は、幕を閉じた。


「さ、お昼ご飯を用意しているのでみんなで食べましょう」

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