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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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88 他の誰でもないあなた

領内のもろもろを整理して王城にやって来たマリウスさんと二人で、再会を喜び合う暇もないままに、アロイスさんに結婚の許可を願う。


振った相手から結婚の許可をもらうとか、気まずさの拷問だ。


「許可と祝福を与える」


アロイスさんの声が少し寂しそうで、胸が痛む。私の表情に気付いたんだろう、アロイスさんはふっと笑みを浮かべた。


「私がサティ殿とコーヒーを飲む権利は、結婚後も消滅しないと認識している」

「おっしゃる通りです、陛下」

「安心したよ。ところでマリウスはサティ殿とコーヒーを飲んだことはあるか?」


「いいえ、陛下」というマリウスさんの言葉に、アロイスさんはぱあっと顔を輝かせた。


「そうか、それはいい。今後もサティ殿は私とだけコーヒーを飲むように」


マリウスさんの眉間にしわが寄る。祝福するって言ったそばから何言ってくれてんだ、この国王。


「違うんです、マリウスさん。マリウスさんとは夜に会うことが多かったじゃないですか?コーヒーは夜飲んじゃうと都合が悪いから出さなかっただけで、差をつけてるというわけではなくて…」


アロイスさんががたりと玉座から立ち上がる。


「結婚前の男女が夜に会うとは、どういうことかな?しっかりと詳細に説明してもらおうか、マリウス」


変な想像しないで!清いお付き合いだから!


「夜に会うことが多かったのは本当です。私は彼女が髪を下ろした姿も見たことがありますし」


やめろ、火に油を注ぐな!


「何っ!?」

「違う!違います!やましいことは何もなくて、髪の件は私がマナーにうとかったのと、普段はお店が終わってから経営と会計を教えてもらっていてですね…」


火消しにへとへとになって玉座の前を退出し、私はマリウスさんを自分の部屋に案内した。マリウスさんはくるりと部屋を見回す。


「いい部屋ですね」

「はい、私にはもったいないくらいで」

「…サティさんは結婚相手に俺を選んで、本当に良かったんですか」


それはむしろこっちのセリフ。花嫁修業の一環でアイゼンハルト伯爵家について勉強したけど、レイデンバーン建国当時からあるという名門貴族だったんだもん。ベルント伯爵の養女になっているとはいえ、元村人の私を嫁にしていいものなのか気になる。


「この部屋も、さきほどの態度も、陛下のお気持ちでしょう。サティさんには陛下と結婚する道もあったはずです」


あるにはあった。否定はしない。


「アイゼンハルト領は前国王派が治めていたときに領土が荒れてしまいました。平和になったとはいえ、しばらくは貧しい生活が続く可能性が…」


私はマリウスさんの手をぎゅっと握った。


「そんなの関係ないです」


私には、酔っ払いの寝言があるから。


「うまく楽に生きていくより、苦労してでも本当に望む場所で幸せに生きていきたいんです。それに何より…」


マリウスさんの緑の目が、期待して私を見る。何を期待されているのかわかるけど、やっぱり恥ずかしい。


体温があがってきて、手のひらが汗をかく。


「…何でもないです」


自分の手汗が気になって仕方ない。手を離そうと思ったら、ぎゅっと握って引き止められた。


「言ってください、サティさん」


私は目をつぶる。恥ずかしい、こんなの。普通のテンションで目を見てなんて言えないよ。


「好きです、あなたのことが。他の誰でもないあなたのことを愛してるから、あなたと一緒に生きたいんです」

「俺もです。愛してます。不思議なくらいに。あなたのためならどんな苦しいことでも我慢できると思えるくらいに」


マリウスさんの長い指が私の頬をそっとなぞる。手は頬から顎へ。ちょっとだけ顎が持ち上げられる。


甘い雰囲気が流れる。


あ、これはキ…


「キスしていいですか?」


なんだそれは。


「そんなの聞かれたら余計緊張するじゃないですか!”はい、してください”って言うのも恥ずかしいし、この流れだったらわかるから、何も言わずにしてくださいよぉ」

「すみません、慣れていないもので」


情けないマリウスさんの声に、思わず「あは」と笑ってしまう。


「もうこれ、キスする雰囲気じゃなくないですか」って言おうとした瞬間に、私の唇は塞がれていた。


ほんの少しののち、表面だけ触れていた唇が離れる。


でもまだ離れたくない。


私は背の高い彼の首に腕を回す。


「マリウスさん」


自分の声が湿っているのがわかる。それを合図に、彼はまたキスをくれた。今度はさっきより熱くて甘い。


「ん…」


ぎゅっと背中と頭を抱かれて、体温と鼓動が伝わってきて、彼がどれだけ私を求めてくれているかわかる。


嬉しい。


唇がゆっくりと離れるけど、やっぱりまだ離れたくない。


「足りない」

「俺も」


また唇が触れそうになったとき、「サティ!マリウスおじさんが来たの?」と元気な声がして、ドアがバタンと開いた。


私はマリウスさんを突き放して、慌てて彼から離れる。心臓がどくどくうるさくて、耳が熱い。


「マリウスおじさん!元気だった?」


「元気だよ。クリスタちゃんも元気そうで嬉しいよ」とマリウスさんも赤い耳で答える。


レオくんもひょこっと顔を出した。


「アイゼンハルト伯爵、掃討作戦は大儀でしたね。損害がかなり少なく済んだとか。領土復興が円滑に進むことを願います」

「王太子殿下。もったいないお言葉です」


マリウスさんが膝をつくと、レオくんは寂しそうに笑った。


「果物屋のマリウスおじさんじゃなかったんですね」

「隠していて申し訳ございません」

「事情は理解できます。ただおじさんがいなくなってしまうのは寂しいので…僕もマリウスおじさんと呼んでいいですか?前と同じように」

「…嬉しいよ、レオくん」


レオくんは今度はほっとしたように笑う。


「ねえおじさん、肩車して!おじさんの肩車が一番高いんだもん」とクリスタちゃんがねだって、マリウスさんは「もちろん」と彼女を肩車した。


「ねえおじさん、僕も!」

「順番ね」

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