87 展開が早すぎる
「クロ」という解決策が出てからは、びっくりするくらい早かった。
テオくんがクロに「森に隠れている敵を見つけて、大人だけ攻撃してほしい」と頼み、「敵?ばらばらに隠れてていっぱいいる?それは自分だけじゃ無理」みたいな顔をして飛び立ったクロは、どこからか仲間を引きつれて帰ってきた。そしてドラゴンが森のあちこちに降り立って、ピンポイントで敵を攻撃していく。
「ねずみをつかまえた猫」みたいに得意げに帰って来たクロの後ろ足には、豪華な軍服を着た前国王派の指導者が鷲掴みにされていて、縄をかけられ王都へと送られた。
ここまで、わずか半日足らず。「驚きですが、これで掃討作戦は終わりです」というマリウスさんの言葉通り、驚き。急展開すぎん?
一番の功労者であるクロは、テオくんにたっぷり撫でてもらってから私の前にふんぞり返る。私からもご褒美がほしいらしい。「よしよし」と撫でようとしたら、ぶんとそっぽを向かれた。私のなでなではご褒美にならんってか。
「いつもと一緒だけど、うどんでいい?」
いつだったかアドリアンくんを探してもらったときも、クロにはお礼としてうどんを御馳走した。
クロが空に向かって吠える。ドラゴンたちが一斉に飛び立ち、クロは私に「乗れ。早くうどんが食べたい」と目で告げた。
「ちょっと待って!マリウスさんとお別れの挨拶とか積もる話とかあああっ!!」
クロは尻尾で私とテオくんを巻き取って背中に乗せ、大地を蹴る。
「もろもろが落ち着いたら、私が王都に行きます」と手を振るマリウスさんと、「ありがとうございました!」「若様万歳!」と声を上げる兵士さんたちを地上に残して、私たちは夕暮れの空を飛んだ。
ーーー
エルドルフに戻ったときには、暗闇がすぐそこまで迫っていた。
子どもたちがおじいちゃんの家から弾けるように出てくる。
「サティ!テオ!どこ行ってたの!?」
「ただいま。遅くなってごめんね」
遅れて出てきたおじいちゃんとベルント伯爵夫妻が、揃って腕を組む。
「サティ、”出かけるときには、行き先と帰る時間をお家の人に伝えてから”じゃなかったのか?」
「はい、そうです…」
自分が子どもたちに言い含めていた「お約束」を守れないなんて、情けない。
「それができないくらい、緊急だったのか?」
「うん」
どこからどうやって説明しようか考えていると、クロが私の背中を鼻で押す。うどんの催促だ。
「詳しくはあとで話すけど、まずはクロとドラゴンたちにお礼をしたいの」
村長さんの家のキッチンを借りて、大急ぎでうどんを打つ。無限生成顆粒だしは王城に置いてきたから、カルボナーラ風にアレンジ。すべて終わったら、もう夜中だった。
髭にカルボナーラソースをつけながら、ベルント伯爵が「では説明してくれ。そもそもなぜカウベルフェルトに行ったんだ?」と聞く。
すると伯爵夫人がうどんをスパゲッティのように巻き取りながら「好きな男がいるからですわ。確かマリウスとかいう果物屋だったわね」と代理で答えてくれる。
そしておじいちゃんが手を止めて、「マリウスはアイゼンハルト伯爵軍に入ったと聞いた。会えなかったんじゃないのか」と聞いた。
「そうなんだけど、アイゼンハルト領まで行ってみたら、実はマリウスさんは軍に参加したどころの騒ぎじゃなくて、アイゼンハルト伯爵になって軍を指揮してて…」
おじいちゃんと伯爵夫妻が、揃ってうどんを喉につまらせてむせる。誤嚥性肺炎の危険。
「果物屋だと思っていた男が、アイゼンハルト伯爵だったと!?」
「はい。信じられないような話ですけど、本当なんです。それでクロとドラゴンたちに協力してもらっていろいろやって、”掃討作戦は終わった”ってことになって帰ってきました」
三人は顔を見合わせた。
「どこからどう言っていいのやら」
「長く生きていれば、こんなこともあるものですね」
「そうだな」
亀の甲より年の劫なのか、受容力がすごい。
「ところで」と夫人が笑顔でぐいっと身を乗り出した。
「サティはアイゼンハルト伯爵と結婚するのよね?」
インコース高めのストレートすぎてのけぞる。
「それはまだ何とも…」
「でも戦場まで会いに行って気持ちを確かめ合ってきたのでしょ?それで愛し合っているってわかったのでしょ?」
「それはまあ…」
「だったらあとはもう結婚じゃないの?アイゼンハルトとベルントなら家柄も釣り合うわ。マリウスの伯母はいけ好かない女だけど、大した問題ではないし」
「でも結婚だなんて大事なこと、そんな早急に…」
「あら、大事なことだからこそ急ぐのよ。王都に戻ったら陛下のお許しをいただいて、準備しましょう。結婚式は久々ね、腕が鳴るわ。大丈夫、私に任せておけば。あなたは王都一の花嫁になるし、クリスタは王都一のフラワーガールになるのよ」
「いや、あのですね…」
救いを求めるようにベルント伯爵を見たけど、伯爵は「マリエンがこうなったら、どうにもならん」と肩をすくめた。
「サティ」とベルント伯爵夫人は私の手を握る。
「あなたのペースは大事だし尊重したいわ。でも王太子殿下やクリスタや子どもたちのことを考えすぎるあなたを待っていたら、私はあなたの花嫁姿を見る前に死んでしまうのよ」
「あなたはようやく我が家に来てくれた娘なの。その娘が幸せになる姿を見せてちょうだい」と顔を覗き込まれて、私はようやく頷いたのだった。
いくら何でも、展開が早すぎる。




