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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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84 覚悟決めた

エルドルフでの滞在は一泊二日。


二日目の朝、二日酔い対策のハーブ水を持っていったら、おじいちゃんと伯爵は案の定まだ寝ていた。


レオくんは朝から熱心にりんご園をスケッチしていて、クリスタちゃんは「ディアナのおばあちゃんが熱を出してるんだって。治してあげないと」と出かけて行った。テオくんはゾフィーおばあちゃんから「ストーブの調子が悪くてねぇ」と言われて、「修理屋じゃねえんだけど」とぶつくさ言いながらも修理に出ている。


私はりんご園を引き継いでくれたアダムさんとイブさんの夫妻を手伝おうと思ったけど、二人がところかまわず熱いキスを交わすのを見てるのが辛すぎて、行き場をなくす。


おじいちゃんに日持ちするおかずを作ってあげようかと思ったけど、普段はアーデルハイドさんのお宅で御馳走になっているからいらないって言われちゃったし。


「実家に帰ってもやることない説」が証明されている。


完全に手持ち無沙汰で、ちょこんとレオくんの隣に座らせてもらう。巨匠の手でスケッチブックの中にりんご園が育っていくのを見ながら、おじいちゃんの言葉を思い出す。


《うまく生きるより、幸せに生きろよ》


《必要とされるのも大事だが、自分が必要としてるものを見失うな》


酔っ払いの寝言。だけど妙に心に刺さってしまって抜けない。


幸せに生きるために必要なことってなんだろう。どうやったら幸せになれるのかな。っていうか、今の自分は幸せじゃないんだろうか。


幸せを感じることはある。子どもたちの笑顔を見たり、ヨハンさんのごはんやパウロスさんのお菓子を食べたりしたときに。


「でも足りないものがある」


そう言いながらスケッチブックを覗いたら、りんご園の前で二人の男女が手をつないで向かい合っている。


きっとアダムさんとイブさんなんだろう。今もそこでキスしようとしてるし。


だけど私に見えたのは、別の二人だった。私見てるのは、私が望んでいるもの。


そうだよね。足りないものが何なのか、本当はずっとわかってた。


私は立ち上がって、ちょうど帰ってきたテオくんに「カウベルフェルトまで行ってくる」と告げる。


「マリウスおじさんに会いに?」

「うん」


「隣にいてほしい」と言うために、会いに行く。


国王じゃなくても魔法使いじゃなくてもいい。


私の心を温かく軽くしてくれるのは、あなただから。初めて会った日から助けてくれて、応援してくれて、私が限界なときに休ませてくれたのは、あなただから。理由はきっともっといっぱいあって、もうどれがどう私の心に作用してるのかわかんないけど、私が必要としているのは、どうしようもなくあなたなんだ。


田舎に住んでたって遠距離だっていい。


「やっぱり、帰ってくるまで待っててもらえませんか。ちゃんとここに帰ってくるまでは、休みをとってちょくちょく会いに来ます」って言うんだ。


「会いに行くよ、クロに乗って」って。


そんなロマンチックな気分を台無しにするくらい面倒臭そうな顔をしたクロに頭を下げて乗せてもらったら、徒歩一時間のカウベルフェルトまでなんと三分。あっという間に懐かしいカウベルフェルトの街の門の前に立つ。


覚悟を決めたはずなのに、急に心臓がどきどきしてくる。


緊張しすぎて、街のみんなが「見かけない美人だな」「素敵なドレスね」とかってざわつきながらこっちを見てることになんて、まったく気づかない。


「待つな」って言ったくせに戻ってきた私に、マリウスさんはどんな顔をするだろう。


《マリウスさんのことが好きです。だから帰ってくるまで待っててもらえませんか》


《ええ、もちろんです。いつまでも待ってます》


そんな感じで都合よく想像してるけど、彼が今でも私のことを好きでいてくれるとは限らない。「一世一代のプロポーズを断りやがってこんちくしょう」と思われてるかもしれないし、もしかしたらもう彼女がいるかもしれないし、結婚して奥さんと一緒に店頭に立っているかもしれない。


「あああああ、やっぱ無理かも。そんなの見ちゃったらどんな顔すりゃいいのよ」


途中で左折して、行列ができているバッシュおじさんのパン屋にとりあえず避難。「本当にサティかい。とんだ美人じゃないか」とちやほやしてくれるおじさんに自己肯定感を高めてもらってから、「よし」と再出発する。


ついに果物屋さんが見えた。店構えは変わってないけど、店頭にマリウスさんの姿は見えない。代わりに青髪の従業員さんが「あら」と気づいてくれた。


「サティさんったら、見違えるようだわ」

「リーナさん、ご無沙汰しています。馬子にもなんとやらで。マリウスさんはいらっしゃいますか?」


リーナさんは首を振った。


「休憩中ですか?それとも配達か、商工会の寄り合い?」

「店長はもうここにはいないんです」


気まずそうなリーナさんの顔に嫌な予感がして、身体がこわばる。


「いないって…どういうことですか?」

「店長はサティさんたちがここを離れてしばらくしてから、店と家を私に譲ってくれて…カウベルフェルトを離れました」

「カウベルフェルトを出た?どうして…」

「アイゼンハルト伯爵領の前国王派掃討作戦に参加するって」


体温が下がって、足の裏から血が抜けていくみたいな感覚になる。


アイゼンハルト伯爵領の前国王派掃討は、隣国からの支援を受けてゲリラ戦で挑む前国王派に苦戦していると聞いている。援軍として派遣されたユリウスくんのお兄さんも怪我して帰って来たって。


あのプロレスラーみたいなラウロさんがぼろぼろになるような戦場に、マリウスさんが?戦争なんて全然似合わないのに、なんで?


「そう言ってここを出たきり、帰ってきてません」


気づいたら、私は地面に膝をついて、リーナさんに抱えられていた。

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