76 テンプレ展開だが行くしかないやつ
イヴォンさんの勧めと「消化率百パーセントを達成するために、サティ様も有給休暇を消化してください」という労務掛ローラさんからの圧を受け、私はついに有給休暇をとった。
イヴォンさんとマグダレーナ先生と同じ日に休みを取って、三人で遊びに行くことにしたのだ。といっても行き先は王城の前に広がる王都。近場中の近場。
けどなんか、同僚とお出かけってわくわくする。
「なんで僕らは連れて行ってくれないの」とごねるレオくんとクリスタちゃんに眉を下げて「お土産買ってくるね」と手を振り、待ち合わせ場所である王城の通用門へ。
「お待たせしました!って、なんだかお二人とも普段と雰囲気が違いますね。お二人ともギャップ萌えです」
「ありがとうございます」
いつも制服姿に低い位置でのお団子ひとつのイヴォンさんは、今日は緑色チェック柄の可愛らしいドレスに、高い位置のお団子ふたつ。ショルダーバッグには推しぬいキーホルダーが無数にぶらさがっていて、もちろんテオくんもいる。
かっちりした雰囲気にまとめていることの多いマグダレーナ先生は、赤いマーメイドドレスを着こなし、ゆるっとしたおくれ毛ありのヘアスタイルで粋だ。背の高い先生によく似合うし、深いスリットから覗く長い脚には目が釘付けになってしまう。
かくいう私はイヴォンさんがコーディネートしてくれた、商家のご令嬢風ワンピースにポニーテール。
「では早速行きましょう、サティ様!まずは私のおすすめスポットからご案内しますね!」
今日は王都初心者である私のために、イヴォンさんと先生がそれぞれおすすめスポットを紹介してくれるのだ。
馬車に揺られて着いた先は、ダンジョン風の店内で、勇者やモンスターに扮したキャストさんたちにサーブしてもらえる「勇者様カフェ」。イヴォンさんはここにも推しがいるらしい。
「イヴォンさんには、テオくん以外にもいっぱい推しがいるんですね」
「そうなんです。これ以上推しが増えたら生活が回らないので極力自制しているのですが、推しとの出会いというのは突然で運命的なものですから抗いがたく…むしろ自制しているときほど出会ってしまうといいますか」
イヴォンさんの止まらないヲタトークに、前世の友達を思い出す。
普通に楽しい。
勇者様カフェを出たら、メインストリートでウィンドウショッピング。クリスタちゃんに似合いそうな子ども服を買おうとして値段にびびってやめたり、お客さんで賑わっている雑貨店でサティベアが扱われていることに感動したりしながら、子どもたちへのお土産を探す。
そして夕方。
「私のおすすめはこちらです」
「おお…ここが…」
闘技場。つまりは格闘技が行われる場所だ。会場の中央にボクシングとかプロレスのリングみたいなものがあって、周りを観客席が取り囲んでいる。先生がボックス席を予約しておいてくれた。
「先生はよく来るんですか?」
「好きな格闘家が出るときは必ず」
「へえ…」
マナー講師が格闘技にエキサイトしている様子なんて想像できないけど、それが今日見られるってことね。
「ボックス席なら、ゆっくり夕食も食べられます。試合が始まる前に注文しに行きましょう」
「はい」
今日は人気格闘家同士の対戦があるらしく、とても混んでいる。先生が「混んでいるので、はぐれないように」と手をつないでくれた。力強い手だ。ぐいっと引き寄せられて触れた身体は筋肉質で、マナー講師が筋肉質だなんて違和感がある。いや別に、悪いことじゃないんだけど。
「先生」
「なんですか?」
「先生ってすごく鍛えられてます?筋肉質ですよね?やっぱり格闘技が好きだから…」
先生が動揺した瞬間、私は誰かとぶつかり、そのはずみで手が離れた。
「サティ様!」
あっという間に人混みに流されて、しっかり先生たちとはぐれてしまった。格闘技を見に来ているのはマッチョな大柄男性が多くて、ジャンプしても、先生もイヴォンさんも見えない。
「あちゃ…でもまあ、大丈夫だよね。最悪席に戻ればいいんだし」
きょろきょろうろうろ、先生とイヴォンさんを探しつつ食事を物色していたら、見てしまった。
ボロボロの服を着た小さな女の子を脇に抱えるようにして、俯きがちに、人の流れに逆らって早足で歩く男性。
この違和感…
女の子は細い腕で男性の背中を叩いていて、男性は女の子の口を塞ごうとしている。
「あの二人は親子じゃない」と直感が告げる。「知らないふりをしたら後悔する」と。
これは人攫いとか、人身売買とか、たぶんそういう系。異世界で転生者が首を突っ込んだら自分も一緒に攫われて、もうだめだってタイミングでヒーローが助けに来てくれて、二人の絆は深まり、子どもたちも助かってハッピーってやつ。
でも今の私を助けに来てくれるヒーローはいない。アロイスさんのプロポーズは断っちゃったし、マリウスさんは遠く離れたカウベルフェルトにいる。三人目の旦那様候補はいまだに誰かわからない。チートはあるけど相手が魔法使いじゃないと意味ないとかいう、もはやチートなのか何なのかわからない能力だし、明らかに危ない。
自分の身の安全を守りつつなら、先生とイヴォンさんに相談して、三人で追うのが最適解。
だけど二人を探しているうちに、あの子は連れていかれちゃう。だったら今、私が行くしかない。
私は人混みをかき分けて、怪しい男を裏口まで追った。
「待ちなさいっ」
男が振り返り、女の子が「助けて!」と叫び、それから鈍い音がして頭に痛みが走って、目の前が真っ暗になった。




