表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/97

75 イヴォンが語ります

「サティ様、お顔が…」

「たはは、ちょっと泣いちゃいまして」

「すぐに冷やすものをご用意いたします」


私は氷をとりに走りました。


走りながらで失礼いたします、私はイヴォン・ミカエラ・フォン・ウォルフバッハと申します。レイデンバーン王国の王城にて、サティ様の身の回りのお世話を仰せつかっております。


私が国王陛下よりサティ様のお世話係に命じられた理由は、「私の母親が平民出身だから」という一点のみ。私の父は貴族ですが、母は商家出身の平民なのです。


サティ様は王城に入るにあたりベルント伯爵の養女になられたものの、元は平民。そのため「普通の貴族女性」をお世話係にすると、差別意識や妬み嫉みからトラブルのもとになりかねません。そこで平民を母にもつ私が選ばれたというわです。


「くれぐれもサティ殿が不便で不快な思いをしないように」と、陛下直々に睨まれて。


とはいえ、私にもサティ様に対する複雑な感情がなかったわけではありません。むしろ「平民の血が混じっているからというだけで、貧乏くじを引いたのかも」という気持ちすらありました。


だって行き倒れになっていた国王陛下と王太子殿下を偶然助けただけなのに、王城まで招かれるような女性です。


私が知っている国王陛下は、恩人とはいえ女性を王城に引き入れるような方ではありませんでした。


ビジュ最高でもどこか表情に乏しく、婚約もせず、多くの貴族令嬢から「どうか一晩だけでもお情けを」と迫られながらも一切お手をつけなかった堅物、というのが陛下のパブリックイメージでしょう。


そんな陛下が王城まで連れてくるなんて。実はサティという女性は何かしら陛下の弱みを握り、厚遇を強要したのかもしれません。それか私などには思いつかないような爛れた手口で、陛下を篭絡したのかも…


と思っていた時期が、私にもありました。


けれど実際にお会いしたサティ様は、まったくもって質素で欲のないお方でした。


「給料が多すぎる」と目を丸くして多くを寄付に回し、クローゼットに揃った豪奢なドレスにはほとんど袖を通さず、シンプルなドレスばかり着ておられます。それも一回着たら捨てるのではなく、私どもと同じように、洗濯して何度も着ておられるのです。


「ドレスの上につけるエプロンってあります?こんなきれいなドレスのうえに、何もないと何だか落ち着かなくて。できれば長袖のエプロンで、子どもにうけそうな可愛い柄がいいんですけど」と言われたときには、内容を理解するまでに数秒かかりました。


マグダレーナ様のレッスンに必死でついていくことも含めて、サティ様の行動のすべては「王太子殿下やクリスタ様が健やかに育たれるように」という願いに基づいているように見えました。


いいえ。「お腹空いた」とドーナツというお菓子をほおばりながら「えいや」に打ち込む姿から感じるのは、すべての子どもたちに対する願いです。


それでもこれは、最初のうちだけの演技かもしれません。化けの皮はいつかはがれるはずです。


と思っていた時期もありました、あの日までは。


《イヴォンさん、体調が悪いんじゃないですか?》


その日は、月のものが始まった日でした。いつも初日は腹痛がひどく、薬を飲んでも効かないのです。しかし私どもの休日は多くて月二回。体調の悪くなる日に都合よく休みが重なることなどほぼありませんから、体調が悪くても働きます。


《いいえ、何も問題はございません。病気ではありませんので》


サティ様は「ああ」という顔をなさいました。そして引き出しの中から、大きな偽物の宝石がついたバレッタを取り出し、ハンカチでくるんで渡してくださったのです。


《温かい…?》


《そう!テオくんの火魔法が付与されてるからいい感じに温かいんです。お貸ししますよ》


手の中のバレッタが、急に重くなったように感じました。


《いけませんサティ様!魔道具だなんて、そんな貴重なものを…》


うっかり壊しでもしてしまったら、年収がまるまる吹き飛びます。


《でも温かいものを痛いところに当てると、少し楽になるでしょ?今日はもう予定もないし、それを宿舎に持って帰って休んでください。明日も、辛かったら遠慮せずに休んでくださいね》


何度「大丈夫」と申し上げても埒が明かず、最後には「んー、じゃあもう、これは命令!はい帰った帰った!」と言い切られてしまいました。私は「有給休暇や生理休暇はないんですか?」「なんですか、それは」というサティ様とマグダレーナ様の会話を背に、サティ様の部屋を辞すしかありません。


その後しばらくして、王城スタッフの休暇制度が整備されました。有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、里帰り休暇、子の看護休暇などなど。


サティ様は何もおっしゃいませんが、私には、サティ様が国王陛下に働きかけてくださったのだとわかりました。最初は「休んだ人からクビにされるんじゃ」と半信半疑だった王城スタッフたちも、今では休暇制度を存分に活用しております。


家庭教師たちと喧嘩したり、料理長にダメ出ししたり、奇天烈な遊具を作ったり、中毒性の高いお菓子を生み出したり、サティ様が起こす予想外の出来事に驚かされることは多々ありました。


そこにまた、休暇制度の導入という武勇伝が加わったのです。


私はサティ様を疑うことを、完全に諦めました。


ーーー


そして今、真っ赤に腫れたサティ様の目に氷嚢を乗せながら、私がお伝えしたいことは…


「サティ様は他人のために頑張りすぎですわ」


遠くの山を見ながら時折寂しいお顔をされるサティ様。


今の私ならわかります。


サティ様が本当にいたいのは、ここではないのだと。それでもここへ来たのはご自身がいい生活をするためではなく、王太子殿下のためだったのだと。


「たまにはご自分のためにお休みくださいね」


氷嚢を目に乗せたまま、サティ様はきゅっと口角だけ上げて微笑まれました。


「…ありがとうございます」

「そう言えば人事掛のローラがぼやいておりましたよ。”有給休暇消化率百パーセント”を掲げたはずの張本人が、全然休みを取らずに目標達成の邪魔をしていると」

「あはは…申し訳ない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ