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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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28 異世界の年末年始

小麦粉に塩と水を混ぜてこね、少し寝かせてから丈夫な袋に入れて、床へ。


ぺったん、ぺったん。小さな足がリズムよく生地を踏みつける。


「うふふふふ、柔らかーい!!」

「おもしろーい!!」


クリスタちゃんとレオくんが声を上げて一心不乱に踏み続ける。そうでしょう。これは保育園でも大人気だったアクティビティ。生地が平らになったら畳んで丸め、また踏むのを繰り返して、さらに寝かす。


「でもサティ、これ何?」


可愛いあんよたちに踏まれまくってなめらかになった生地を伸ばしてシート状にし、折りたたみ、細く細く慎重に切っていく私を見上げながら、クリスタちゃんとレオくんが首をかしげる。テオくんはその間に火魔法で湯を沸かしてくれている。


「うどんだよ」

「うどん…?」

「本当はおそばをつくりたかったんだけどね」


地面を這いつくばるで勢いで探してもそば粉が見つからなかったので、代わりに小麦粉でうどんをつくってみたのだ。


「大晦日に長いものを食べると、長生きできるんだって」

「おおみそか?」

「一年の終わりの日だよ。今日がそうなの」


そう、実は今日は早くも大晦日。「異世界でも十二月は師走なんだなぁ」と思うほど時間が早く過ぎてしまった。


「みんなでおそば…じゃない、おうどんを食べながら、”みんな今年一年ありがとう””来年もよろしくね”って言いたくて」


この異世界には「春の訪れを祝う祭り」「夏至の祭り」「死者の魂が帰ってくる日」「収穫祭」などはあるけど、特別なことをして新年を祝う習慣はなぜかないらしい。そう言えば前の世界でも、日本に比べて欧米のお正月休みは短いと聞いたような。


しかし私の前世は日本生まれの日本人。郷に入っては郷に従えと言われても、やっぱり年末年始のイベントはやりたい。そう思いながらうどんをぐらぐら煮える湯に投入し、無限生成の顆粒だしと醤油をおつゆ用のお湯に投入する。


できたてのうどんはおいしくて、子どもたちは夢中で食べてくれる。レオくんは「音を出して食べていいの?」と育ちの良さを発揮しながらも、私にならってうどんをすする。ここにはヌーハラなんてない、ことにしたい。


日頃の感謝をこめてご招待したおじいちゃんおばあちゃんも、「こんな料理は初めて」「たまげた」と言いながら、おいしそうに食べてくれた。


クロには塩分を与えていいかどうかわからなかったので、とりあえず麺だけあげる。気に入ったらしく、私のスカートをかじって「もっとよこせ」と言ってくる。


「おかわり持ってくるから、スカートかじらないで。あなたが噛むと焦げるんだから」


婚約破棄されて、死んで、異世界に来て、いろんなことがあった一年だった。子どもたちにとっても、生活環境が変わって、いろんなことがあった一年だったろう。


いろんなことがあって、泣いて、怒って、戸惑って。でも一年の最後にこうやってみんなで食卓を囲んで「おいしい」って笑顔で言い合える今は、間違いなく幸せだ。


立ち上がり、みんなが輪になってうどんをすすっている様子を見て、私はふっと微笑んだ。


ーーー


次の日、つまり元日。私は朝早くにモゾモゾと起きだす。


「初日の出…」


金色の光が、雪と村と私を照らす。世界が静かに生まれ変わるような瞬間。新年なんて「人間が勝手に作った暦の切り替えタイミングに過ぎない」って思うこともあるけど、やっぱり気持ちを新たにするには最適なタイミングなんだ。


私は唇の前で手を合わせて、「今年も子どもたちと、おじいちゃんおばあちゃんと、健康で幸せに過ごせますように」と願う。


「まったりとそんなことを願ってる場合?」


はい、久々のご登場、創造神さん。初日の出を背にして、いつもよりさらに無駄な神々しさが増している。眩しすぎて直視できない。太陽を直視しちゃいけないしね。


「一番の願いだった、優しい旦那さんはどうなったのさ?」

「旦那さんを探してる余裕なんてないじゃないですか」

「何言ってるの。旦那さん候補とのつながりはもうできてるじゃない。わかってるでしょ?」

「それ、は…」


見ないふりをして来たけど、そう言われたら、わかってるって言うしかない。


マリウスさんとアロイスさん。


いてほしいときにナイスタイミングで寄り添ってくれる安心安定のマリウスさん。


登場回数は少ないうえに不倫してるのに、半ば強制的に胸キュンさせてくるアロイスさん。


だけど大学時代から六年間も同じ人と付き合ってきて、その始まり方すら彼からの告白だったんだから、もう自分から恋を始める方法なんてわからない。


むしろ最初から旦那さんがいる状態で転生してこれると期待してたくらいなのに。


「神様なら、助けてくださいよ」

「僕が干渉したとして、サチさんはそれで納得できるの?”神様が手心を加えたからこの人は私のことを好きになったんだ””本当の気持ちじゃない”とかメタなこと言い始めるでしょ、どうせ」


さすが神様。そういうところはお見通しなんだね。


「候補が三人もいるんだから、頑張ってよね」

「え、三人…!?」


マリウスさんとアロイスさんだけじゃないってこと?他に身近にいる男性と言えば…まさかおじいちゃん?確かにおじいちゃんは優しくて、年齢のわりにはイケてるよ。だけど私は不倫とかそういうことは…


いや、そもそもアロイスさんとだって不倫じゃん。


創造神さんの姿が薄くなっていく。


「待って!三人目は誰なのっ!?」


創造神さんは「すぐ近くにいるよ。いい加減、気づいてあげて。見てると可哀そうになる」と笑って、光の粒になって消えた。


「サティ、誰と話してるんだ?」


はっと振り返ると、起き抜けのテオくんが立っていた。


「寒いから中入れよ。風邪ひくぞ」

「…うん」

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