24 サティ姉さんの焼き芋大会
「やるぞ…!ついに…!!」
創造神さんのマニュアルに書かれていたとおり、うちにはりんご園だけじゃなくて畑もある。何が植っているのかと思ったら、大量のさつま芋だった。収穫しておじいちゃんおばあちゃんにおすそ分けしたりみんなで食べたりしているけど、まだある。
さつま芋がこんなにあるなら、やるしかないでしょう。
だから私は掃除も兼ねて、落ち葉と枯れ枝を大量に集めた。
そして満を持して今日は、一時保育のみんなも含めて、焼き芋大会なのだ。
前の保育園では「火はさすがに危ない」ってことでできなくて、絵本で読むしかなかった、憧れの焼き芋大会。でもこの世界ならできる。なんたって私が園長だから。
新聞紙やアルミホイルなんてものはないので、落ち葉を灰にしたあとで中に芋を入れ、低温かつ長時間でじっくり熱を入れていくスタイル。
ただそれだと動きがなくて子どもたちが飽きちゃうので、火が燃えている間にチーズやソーセージやパンや焼き菓子やりんごなんかを棒に挿して、焚火の周りに立てておく。これも絵本で読んで、やってみたかったの。
子どもたちには食べ物が焦げたらどんな匂いがしてどんな色になるのかや、「焼いたら美味しそう」と思った果物やお菓子なんかが本当に美味しいのかどうかを実際に感じてほしい。もちろん私も感じたい。
焚火の熱が頬にあたって冬の空気がふんわりと丸くなり、ぱちりと枯れ枝が弾けて甘い煙が空に昇っていく。
「サティ!チーズとろんって垂れてるっ!!」
「お、火から離そう。いきなりかじったら熱いから、ふーふーしてね」
「ソーセージ焦げてきた!」
「いい感じ。チーズと一緒にパンにはさんでみても美味しそうじゃない?」
「おばあちゃんのパイから甘い匂いがする!」
絵本で見た光景が目の前で繰り広げられていて、私はなんだか泣きたくなる。すごく嬉しい。この光景を守りたい。
火の周りでわいわいしていると、村の人達や一時保育に来ていない子どもたちが、「なんだなんだ」「今日はまた、何してるの?」と言いながらやって来た。
「焼き芋大会です!」
「焼き芋?」
「灰の中にお芋を入れて焼くんです。甘くなって美味しいんですよ。芋はまだできませんけど、まわりに挿してる食べ物は食べごろなので、みなさんも食べて行ってください」
「じゃあ御馳走になろうかしら」
「焚火はあったかいしな」
「うちからも何か持ってこようか。干し肉とかワインとか」
「昼間っから飲むんですか?」
「たまにはいいじゃないか。おいレオ、ワインはあっためてもうまいんだぞ」
「子どもに飲ませちゃだめですっ!」
焚火を囲みながら、串に刺した食べ物を頬張る。「意外に美味しい」「これはちょっと」とかって言いながら。焼き芋大会なのかバーベキューなのかわからなくなってるけど、とにかく平和だ。
「サティさん、これ…返したかったんだ」
平和な光景に思わず笑みがこぼれたとき、ポイズンリムーバーをくれた家の奥さんが、おずっとピカピカの金貨を差し出した。たった一本のポイズンリムーバーをもらうために、彼女に渡した金貨だ。
「どうしたんですか、突然?」
「この金貨を見るたびに、自分のことが恥ずかしくなるんだよ。だから返したい」
奥さんは戸惑っている私の手に金貨をぎゅっと押し付ける。
「ほんの少しの薬を出し惜しみして、家まで集団で押しかけて。私のこと、ひどい人だと思ったろう」
「まあ…」
私は小さく頷いた。
「そうですね。思ってないです、とは言えないです。奥さんだけじゃない、この村の人たちみんな、怖くて冷たいって思いました」
みんなが病気になったときも、「さんざん苦しめばいい」って思ってしまうくらいには。
「悪かったよ」
奥さんの手が震えて、目がほんの少し潤んでいる気がする。
そうだよね。自分が本当に悪いことをしたってわかったとき、謝るって怖いよね。大人になっても怖い。「悪いことをしたらちゃんと謝りなさい」って子どもたちには言うけど、自分は怖くて逃げたくなったり誤魔化したくなったりすることもある。
それでも奥さんは、勇気を出して謝ってくれた。だから、許せる。
「もういいんです。ちゃんと謝ってくれて、ありがとうございます。私も奥さんのこと、ひどい人だと思って…苦しめばいいって思ったりしてすみませんでした」
「いいんだ。当然だよ」
私は奥さんに手を差し出した。ちょっとかさついて硬くなった、働き者だとわかる手と握手。あったかい。
私たちは二人とも、ちょっと照れてさっと手を引っ込めた。
すべての人間がいつでも正しいわけじゃないし、いつでも優しくいられるわけじゃないし、何でも知ってるわけじゃない。だからお互いに許し合うことも大切なんだ。
「その…また困ったらいつでも来てくれていいから。お金なんていらない。ご近所さんなんだから」
「ありがとうございます。奥さんも困ったら、いつでも来てくださいね」
「…ありがとう」
私は立ち上がった。
「そろそろお芋が焼けたころです。きっとすごく甘くて、びっくりしますよ」
「…楽しみだね」
私は「メインイベント!お芋を取り出すよ!」と子どもたちに声をかけて、灰をかき分けて芋を取り出す。皮を剥いてふーふーしてかじってみると、言い出しっぺの私もびっくりするくらい甘くてしっとりしておいしかった。ありがとう麦芽糖。
子どもたちもお芋をかじって目を丸くする。おじいちゃんおばあちゃんも、金貨を返してくれた奥さんも、ワインをもってきたおじさんも、「おいしい」「うまい」と言いながらお芋をかじる。みんながうちの小屋の前で、一緒になって。
これからもここでやっていける気がする。
「余ったお芋は欲し芋にしますから、持って帰ってくださいね」
「ありがたくいただくよ」
できた干し芋を学校から帰って来たテオくんに出すと「不思議な味だけどいくらでもいける」と頬張っていた。クロは自分の火で干し芋を少し炙ってから丸のみにしていく。
「そういえば、サティ。これ」
「なに?」
テオくんが差し出したのは、「面談のお知らせ」だった。




