23 一時保育始めました
風が一段と冷たくなり、雪もちらつく日が増え、村に本格的な冬がやって来た。冬になると、おばあちゃんが言った通り、ここの大人たちはカウベルフェルトやカウンティ・タウンへ働きに行く。マリウスさんみたいな商店主に雇われたり、貴族やお金持ちのお屋敷で働いたりするのだそうだ。
私はといえば、アロイスさんにもらった金貨のおかげでしっかり冬越しの準備を終わらせ、安心して過ごしている。クリスタちゃんにうさぎの耳がついたケープを買ってあげたから、今は雪の日にそれを着せて雪遊びするのが楽しみで仕方ない。
「絶対可愛いじゃん。なんでこの世界にはカメラがないんだろう」
ただお金の心配がないからといって、だらっと暇をしながら過ごしているわけではない。むしろ忙しい。ちょくちょくマリウスさんに会計や経営について教えてもらっているし、何より山小屋で預かる子たちが増えたのだ。
冬、大人たちは出稼ぎに行くから、ここでは長時間「お家に誰もいない状態」になる子が多い。おじいちゃんおばあちゃんが見てくれる子はいいけど、本当に一人なのは、お父さんお母さんも心配だ。去年は子どもがお留守番中にボヤを出してしまった家もあるという。
そこで私は、村のみんなに「必要なら、子どもを預かる」と提案したのだ。みんな「そんなこと、考えたこともなかった」という感じだったけど、「魔力持ちがいる家に預けるなんて」という声はなく、何人かが来てくれることになった。
三歳のクララちゃん、四歳のリューデックくんとエマちゃん、それに五歳のディアナちゃん、クララちゃんのお姉ちゃんで十四歳のアンナちゃん。アンナちゃんは保育っていう年齢ではないが、クララちゃんを預かるなら一緒に、と受け入れた。
みんなで朝の身支度と朝食を済ませ、テオくんを学校に送り出したら、他の家から子どもたちを迎える準備。子どもが増えるほどに忙しくはなるけれど、忙しいほうが充実している感じがする。送迎時にお家の方からも「ありがとうね」なんて言われるから、やっぱりやりがいはある。
午前中は外で雪遊びしたり、日本ではなぜか冬の遊びとしておなじみの縄跳びをしたり、元気に走り回る。そして午後はテーブルを出して、部屋遊びで過ごして、みんなでおやつを食べたり。
三歳児さんであるクララちゃんのまあるいほっぺが、おやつのりんごをもぐもぐ噛むたびにぽこぽこ動くのが可愛すぎて、毎日泣ける。どうして人間はこの可愛すぎるまあるいほっぺを、成長とともに失ってしまうのだろうと考えると、切ない。
そしてクリスタちゃんとレオくんの貴重な「年上ムーブ」が見られるのも可愛い。クリスタちゃんがクララちゃんの顔の汚れをそうっと拭いてあげるのも、レオくんが自由人・リューデックくんが遠くに行ってしまわないよう始終手をつないであげているのも尊い。
そんな今日の部屋遊びは、冬に保育園で大流行を見せる「編み物」。小さい子たちは木で作った小さな編み器を使い、アンナちゃんは編み針で。アンナちゃんは家で家族の靴下なんかを編んでいるらしく、とても上手だ。
私も保育園の流行に影響されて編み物にハマってしまったくちで、そこそこには編める。久々に編み物をするのは、とても楽しい。
「アンナちゃん、ここをこうして、こっちをこういう風に編むと、模様になるんだよ」
「ほんとだ。ね、サティ、それはどういう編み方?」
「これはうね編みって言って、でこぼこになるの。立体感が出て、マフラーにしたときも可愛いでしょ?」
「うん」
楽しくおしゃべりしながら作業を進めているなかで、アンナちゃんがぽつりと言う。
「私、春になったら王都に行くの」
「あら、お引っ越し?」
「ううん。働きに」
そう、ここはそういう世界。まだ幼い、中学校を卒業するかしないかくらいの子が、当たり前のように家族を養うために働く世界。
お姉ちゃん子のクララちゃんは、どれだけ寂しがるだろう。私はつい黙ってしまったけど、アンナちゃんはにこっと笑う。
「手先が器用だと喜ばれるんだって。だからその模様編みとうね編み、覚えたいな」
「…うん。じゃあみっちり教えるよ。良かったらあみぐるみも挑戦してみる?」
「うん!あと、クリスタのあの小さなカバンも作ってみたい!クララに持たせてあげたいの」
「ああ、あれは移動ポケットといってだね…」
ーーー
アンナちゃんの奉公先がこのあたりの大領主様であるベルント伯爵の王都タウンハウスだと聞いて、私は心配していた。
アンナちゃんは「貴族の邸宅、しかも王都で働けるなんて、みんなに羨ましがられる」と言っていたけど、もしかして異世界モノでよく見る悪徳貴族だったらどうしよう。劣悪な環境で働かされたり、先輩からいじめられたりしたら…?高飛車なお嬢様が悪役令嬢で、断罪からの没落劇に巻き込まれたりしたら…!?
そんなことを考えていたら、額に皺が寄っていたのだろう。
「サティさん、大丈夫ですか?難しいですか?」
「あ、いえ大丈夫です。いや、難しいですけど…ごめんなさい、せっかくお忙しい中こんな田舎まで来てくれて教えてくださっているのに、集中していなくて。本当は私がマリウスさんのお店かご自宅かにお伺いするべきなのに…」
「いいんですよ。それよりも、心配事ですか?」
本当に、この人は勘が鋭すぎるし気遣いがすごすぎる。こんな人になりたい。まじリスペクトだよ。
だけどベルント伯爵の人となりを、果物屋のマリウスさんが知っているとも思えない。貴族であろうアロイスさんなら知っているかもしれないけれど。
「心配してくれてありがとうございます。でもこれは、どちらかというとアロイスさんに相談したいことなので」
「レオくんのことですか?」
「いえ、違うんですけど…」
マリウスさんの視線がほんの少し厳しくなる。何か気分を害するようなことを言っただろうか。考えてみたけれどわからなくて、私はひたすら集中していなかったことを詫びた。




