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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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22 世界なんて広がらなくていい

クリスタちゃんの一件があってから、村の空気は変わった。魔力持ちだからといって無視されることもなければ、陰でひそひそ言われることもない。むしろ感染症前夜に小屋に押しかけて来た人たちは、全員揃って謝りに来た。


正直「ごめんで済むなら警察いらんわ!」って言いたくはなった。これまでテオくんやクリスタちゃんが受けてきた仕打ちや、経験してきたつらい生活を思えば。だけどこの人たちが社会の歪みのすべてを償うのはおかしいし、「ごめんという言葉と態度以外になにをすればいいんだ」と言われれば、思いつかないのもまた事実。


クリスタちゃんが「謝ってくれたから、もういいよ」とあっさり彼らを許してしまったこともあり、私も「彼らが今後私たちを村の仲間として尊重してくれるなら、それでいい」と思うことにした。恨みは恨みを呼ぶから、穏やかに生きるためには、少しずつでも手放すしかないんだ。


そんなとき、最初に私に「えいや」を頼みに来た、マリウスさんの知り合いから、手紙が届いた。実はあの人は、街の商工会議所の会頭さんを務める有力者だったらしい。


《「えいや」が終わった魔力持ちの子どもは学校に入れるように了解を取りつけたから、テオくんを学校に入れてはどうか》


本当に喜ばしい知らせ。すっかり「えいや」という言葉が定着してしまっていることへのちょっとした気まずさなど、忘れてしまうくらい。テオくんには家で読み書きや計算を教えているけれど、やっぱり学校に行ったほうが勉強は伸びるだろう。何より、同年代の子どもたちと交流してほしい。


「ねえテオくん、学校に行ってみない?カウベルフェルトの学校、魔力持ちの子も受け入れるようになったんだって」


テオくんはりんごをかごに詰めていた手を止めた。


「行かなくていい」

「でもでも、ここの村でも、農作業の手伝いがない冬の間は学校に行く子が多いんだって。学校に行けば同い年の友達たくさんできるだろうし、勉強だって家でやるよりずっといろんなことを学べるよ。そしたら世界が広がって…」


テオくんはきっと私に向き直る。赤い目に怒りと焦りが浮かんでいる。


「世界なんて、広がらなくていいっ。サティは俺が迷惑になったから、そうやって追い出そうとしてるんだろ!」

「違うよ、テオくんっ」


テオくんはりんごをほっぽりだして部屋に閉じこもってしまい、私は「テオくんのこと、弟のように大切に思ってるよ」とドアの前で伝えるしかできなかった。


ご飯を食べるためやお風呂に入るために部屋を出てくるときにも、テオくんの目には「学校の話は二度とするな」という感情が見え隠れしていて、何も言えなくなる。


数日後。


私はテオくんのことでも頭を悩ませつつ、来年のりんご農園の肥料代やら農薬代やらを試算していた。できるだけ環境に優しい農薬を使いたいが、採算が合わない。


「りんご農家って大変だなぁ…」


マリウスさんに今季最後の納品をしたときにも、「来年からどうしよう」とため息がこぼれてしまう。


「サティさん、どうしましたか?」

「来年からのりんご園、どうやって経営したらいいのか見当もつかず…」


ひとしきり話を聞いてくれたあとで、マリウスさんは「肥料や農薬は他の農家と一緒に大量発注すれば安くなる」「きちんと書類を揃えて農協に申請すれば、少しお金が出る」と教えてくれた。


「書類…?」

「主には、会計などお金の管理をしっかりやってます、という書類ですね」

「ああ…」


決算とか確定申告とか的な?終わった。数字。絶対苦手。でもやるしかないんだよな。ここでりんごと子どもたちを育てて生きていくためには。


「マリウスさん、もしお時間があれば…会計とか経営とか、教えていただけませんか?」


マリウスさんの口のかたちが「よろこんで」になったとき、テオくんが「俺が教わる!」と割り込んだ。マリウスさんはふふっと笑う。


「テオくんにも教えたいのはやまやまだけど、基本的な読み書き計算も不十分な子には教えられないな」

「…簡単なのはできるっ!」

「じゃあこれは?読める?」


マリウスさんはレイデンバーン古語をさらさらと紙に書く。私はサ行変格活用な古文の感覚でなんとか読めるけど、テオくんは紙から目を逸らした。読めないのだ。そりゃ、私も古語まではさすがに教えてないし。


「そんなの読めなくても…っ」

「本格的に商売するならレイデンバーン古語は必須だよ。秘密の情報を古語でやり取りしたりするからね。勉強にはステップがあるんだ。俺に教わる前に、まずは学校で勉強しておいで。第九学年の試験で合格点をもらったら、喜んで教えるよ。そうしたら君はサティさんの右腕だね。どうする?」

「行くよ!行けばいいんだろ、学校」


カウベルフェルトからの帰り道。


「テオくんが学校に行きたくないというので困ってたんです。ありがとうございます」とお礼を言ったとき、マリウスさんがこっそりと耳元で囁いてくれた言葉が蘇る。


《テオくんにはきっと、具体的なメリットを教えてあげたほうが響きます。世界が広がるとか、視野が広くなるとか、ぼんやりしたメリットだと伝わりにくいんですよ。「勉強したらサティさんの役に立てる」というほうが、やる気になるんです》


《男同士だから、なんとなくわかるんですよ》


父親代わり…的な?


マリウスさんと私が小屋の前に立ち、小屋に帰ってくるテオくんとクリスタちゃんを笑顔で迎えるイメージが浮かんで、私は慌てて頭を振った。なにひとりで勝手に妄想して盛り上がってるんだ。


そもそもマリウスさんに恋人がいるかとか、全然知らないのに。指輪はしてないから結婚はしてないだろうけど…って、なにチェックしてるの、私。違う、そういうんじゃないから。


でも、あの子たちが笑って家に帰ってくるなら、そして私も彼の隣で笑っていられるなら…


胸の奥がきゅっとなった。

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