楽しい時間をありがとう << ザラ >>
セルバート王は、私のことに気づいたようだった。
私が高校生の時に一時期付き合った女だってことに。
私はセルバートの妻セレナとは、高校を卒業した後も付き合いがあった。
偶然にも仕事の取引先に彼女がいたので。
私とセルバートを一時的にでもくっつけてくれたのがセレナだったし、私の周りにはセルバートより面白い男がたくさんいたから、セレナに対しては悪い印象は持ってなかった。
お下がりになりますが、良かったらどうぞって感じで、あなたがセレナと付き合うのを見てた。
でも、あなたとセレナが幼馴染で、高校生になって初めて同じクラスになったとかいう話は聞いた。
そしてあなたたちが、トントン拍子で付き合っていったのを見たら、私があなたたちの間に一時でも介在する必要あったの?とは思ったわ。
社会人になって10年くらいして、会社の取引先にセレナがいた。
人の出会いに意味なんてあるとは思わなかったけど、その時ばかりは何か意味があるんじゃないかって考えたわ。
彼女はあなたとの間に子供ができないことを悩んでいたわ。
あなたが仕事が安定せずに、軽いDVがあることも聞いた。
この世界には山ほど男がいるのに、DV男なんかにいつまでもしがみつく必要があるの?て、彼女に聞いたことがあるわ。
彼女は成人後早い時期に両親を亡くされたみたいね。
この世界に残された縁を大切にしたいから、まだ切れないでいると、あなたのことを言っていたわ。
よくよく考えると、それは私も同じだった。
セレナとはタイプが違ったので、高校時代はほとんど意識することはなく、会話もあまりしなかった。
社会人になってからの方が、よく喋った。
私も高校時代の小さな縁をきっかけに、セレナと話すようになり、ゲームの中で、セルバート、あなたと接するようになった。
私はセレナと少し境遇が似ていた。
セレナは両親を事故で亡くしていたけど、私は病気で母親を失っていた。
私はその遺伝を恐れた。
短い命となっても良いように、やりたいことは大抵やってきた。
そしてそれは現実になった。
私は命のカウントダウンを意識するようになった。
ゲームの中でセルバート、あなたを急かして王国建国に導いた理由の一つは、遊べる時間が限られていたから。
そして王妃なのに、前線に出て戦ったのも、もう命を惜しむ時期ではなくなっていたから。
セルバート。
あなたが私を危険に導いたわけではないわ。
楽しかったわ。
やり尽くしたって感じよ。
でも、まだ手元に魔法の粉が残ってる。
ゲームの中ならば、どんな願いも叶うという魔法の粉。
私の息の根を止めに来た、この女将校を見たことがある。
誰かのNPC将校よね。
私の命はこれで尽きるけれども、ここで命を吹き込むことで、私の命を次につなげたい。
私は遺伝のこともあり、子供が作れなかった。
もし、できるならば、この魔法を叶えてください。
「あなたに命を・・・」
私は最後の力を振り絞り、魔法の粉に願いを唱えた。
私の身体から重しが抜けていくのがわかる。
人間関係、経済的負担、生命の維持。
もうその必要がない。
さようなら、セルバート王。
さようなら、剣と魔法の世界の皆さん。




