ギリシア都市国家と大国ペルシア << マール 57 >>
ロマール王国大戦という最大の内戦を終えた王国では、各ギルドの疲弊による平和が訪れていた。
王国政権は大手ギルドによって輪番化され、ロマール王国は連合統一政権を組むことになった。そんな中、ゲームの運営会社は、新しい国家間戦争イベントを開始する。ペルシア戦争の開戦である。このイベントが、ガルナス王国・リゼア王国・ロマール王国・トルン王国の運命を揺らすことになる。そして、ザラの魔法によって命を吹き込まれたマールには、人生の転機が訪れる。
新世界ギルドの戦いの最中に、私は敵将シンシアの落とし穴に落下し、重傷を負って、戦線離脱した。
私の側近のヒポクラテスは医療スキルがあり、私はワープホールでギルド拠点に運ばれて、そこで彼の治療を受けた。
幸いに後遺症が残る怪我ではなかったようですが、私は自分の不甲斐なさから気持ちが沈み、それが私の怪我からの回復を遅らせているようにも思えました。
ギルド拠点には、今回の戦いの戦況が逐次報告されていて、各領主の内政担当の将校が詰めて、情報の整理等をしていました。
今回の戦いはビッグレイクギルドにとっても命運を決める重要な戦いだったので、軍団指揮官はほぼ全員出払っている状態でした。
私は何をやっているんだろうと自己嫌悪に陥る日々でした。
ビッグレイク軍は小都市シエラを陥落させて、それを支配都市としたことで、都市持ちギルドになったことの連絡を受けました。
私はその件に関しては素直に喜びました。
私が願っていたことが叶ったからです。
さらにそのあとビッグレイクギルドは、新世界ギルドの黄金都市ミダース攻略戦に同行して、その勝利を見届けたという報告も、帰還した領主たちから聞きました。
マイノスさんは、私を見舞いには来なかったです。
マイノスさんは、新世界ギルドのチャードンさんが戦死したので、その後継者認定に立ち会いに行きました。
そのため、しばらくギルド拠点には戻らないという話を聞きました。
私は何だかここにいるのが馬鹿らしくなって、自宅に戻って静養することにしました。
ミナコとローラには助けてもらったお礼を改めて伝えて、私も新しい家族と仲良くなる努力をしようと気持ちを切り替えました。
数日後、マイノスさんは帰宅し、ギルド拠点にメンバーを集めて、今回の戦いの報告をしました。
私たちが小都市シエラを獲得したこと、新世界ギルドのリーダーがグリーンさんになったこと、王立騎士団に奪われた新世界ギルドの都市は全て奪還したことをまず伝えました。
そして平原ギルドが第一ギルドと組んで王立騎士団から小都市一つを獲得したこと、西の強国ギルドも新世界ギルドのグループに入り、私たちと同盟関係になったことを伝えました。
「こちらの戦争被害も大きかったが、王立騎士団グループの被害はそれ以上に甚大で、かつ第一ギルドと敵対したことで、私たちを再び攻撃する力は当分はないだろう」と告げました。
マイノスさんはそう言って、「つまり、小都市と平和を手に入れた」と言いました。
ギルドメンバーからは喜びの声が溢れました。
私たちのギルドは新世界ギルドの人たちと比べると大人しい人が多いし、王立騎士団の人たちを比べると頼りない人たちが多かったと思います。
それでもそれもやり遂げたことの成果の大きさは、今回の参加ギルドでは最大だったと思います。
マイノスさんはそのあと、各領主を集めて何やら今後の重要な話をするとのことでした。
その話は、各領主から各将校へ話されるということで、私たちは神妙な顔をしてその場を解散しました。
その日の夕食はマイノスさんと私で作りました。
ミナコさんが狩猟で仕留めたイノシシの肉料理にしました。
私たちは軍人なので、肉料理は欠かせません。
それとローラが管理する菜園から、大根や人参やキャベツを添えました。
簡単に塩味をつけただけですが、私は料理にはもっと深い世界があるような気がしていました。
私はマイノスさんに、別世界の食べ物について聞きました。
ミナコやローラはこの話を聞いて、始めはびっくりしてました。
マイノスさんは、別世界のことをまだ二人に話していなかったようでした。
マイノスさんは、料理の世界がとても深いことに同意しました。
別世界では、料理の研究や実践に人生を費やしている人は、1000万人いると言いました。
私たちはまず、マイノスさんのいた世界にどれだけの人がいるのかから、聞かねばなりませんでした。
マイノスさんは、私たちの質問に一つ一つ丁寧に答え、でもこの世界では今は戦いが必要で、酒場の店主の飯が不味くても、文句を言ってはいけないと言いました。
私はそれは違うと思いました。
この村の料理人の腕がマイノスさんの世界の料理人のように上手だったら、私たちの村に料理を食べにくる人も増えるだろうと思いました。
でも、それは今この場で言うことではないと思い、マイノスさんの次の話を待ちました。
マイノスさんが、ギルドメンバーに話していた話です。
一通り食べ終わった後に、ミナコが食器を片付け終わって席に戻った後に、マイノスさんは話し始めました。
この世界の、さらに外側にある世界の話です。
私たちの世界はこのロマール王国を中心に、南側にガルナス王国、東側にリゼア王国、西側にトルン王国があります。
そしてこの世界の外側には大海があり、その外側には、半島にあるギリシア都市国家郡と、その東側にはペルシアという大国があって、両者は戦争を繰り返しているという話でした。
今この両者間で、再び大きな戦争が起こりつつあり、私たちの世界にも様々な影響が出ているということです。
具体的には、各都市で発生している依頼案件がずいぶん増えていて、両軍の戦いも近いのではないかという話です。
私たちも、都市の増加した依頼を引き受けながら、最終的には両軍の決戦に何らかの形で参加することになるだろうということでした。
私はその時、少し身震いしました。
私たちの力を超えた大きな戦いに、恐怖を感じたのです。
ガルナス王国との戦いで感じた恐怖と似ていました。
私たちの生活を守るための戦いとは違う、もっと大きな戦いからくる恐怖。
自分の力を超えた、運命のような結末。
私はそういうものに恐怖を感じるようになっていたのです。
私はふと、先の大戦で私が戦死していたら、今のこの場はどうなっていたのかという奇妙な思考に囚われました。
マイノスさんが見舞いに来なかったからかも知れません。
私は王妃ザラの死に立ち会いました。
私はボソリと言いました。
戦争は続きました。
チャードンさんが戦死して、マイノスさんが後継者の選出に立ち会いました。
新世界ギルドは立ち直りました。
いえ、何でもありません。
私が死んだらこの場は私がいないだけなのかと思いましたが、それを言うのは止めました。
ミナコとローラはどうしたの?という感じで私の方を見ます。
私はマイノスさんの表情を見るのが怖くて、「ごちそうさまでした」と言って、先に席に立ちました。
食堂を出るとき、マイノスさんの表情を見ました。
マイノスさんは一家の主としての顔ではなく、不安そうな、見ても見せてもいけない表情をしていました。
ミナコとローラと残ったその場には、時間が止まり、生命の気配がしませんでした。
その空間が、私がいなくなった後の空間のような気がして、私は急に元気な姿を見せたくなり、「マイノスさん、おやすみなさい」と明るい声で言いました。
時間が急に動き出したように、マイノスは「おやすみなさい、マール」と声をかけてくれました。
私はその声を耳から心へ伝えようとしました。
それが生きている証のように感じたのです。




