王妃ザラ 戦死 << マール 51 >>
ザラの落下した地点に私たちの部隊が走って行った時には、すでに乱戦は終わっていた。 サブリーダーのホークが、付近で逃げた王立騎士団の兵士を捜索していました。
ホークは王国評議会で見かけました。
ゴリゴリの武闘派で、ブレイクナイトより危険な凶悪な雰囲気も持っていました。
名将ハンニバルの部隊は、突入してきたグリフォン部隊と戦闘に入っていました。
グリフォン部隊を率いるのは、第一軍事大臣のシャルルです。
彼は武力一辺倒の将校ではないようで、罠魔法を駆使しながら、ハンニバルの軍団を追い込み始めていました。
私は助太刀に行こうかとも思いましたが、まずはザラを確実に仕留めることが最優先だと思い、ホークとは別の方面で捜索を開始しました。
誰もいなくなった市場を抜け、いくつかの納屋が並んでいる一角で、魔法では隠しきれなかった血痕を見つけました。
絶対にあるはずの血痕が見つからなかったのは、ガルナス王国との戦いでもあった姿隠しの魔法のせいだったのです。
私は部隊で納屋を包囲し、その扉を蹴破って、剣を構えました。
そこには、重症でもはや立ち上がる力もない、王妃ザラがいました。
私は彼女に話しかけました。
「あなたの魔法は、不十分でした。血痕が残っていました。しかし、私が止めを刺すまでもなく、あなたはこれから死にます。魔法で回復できる負傷の限度を超えています」
「そうね。私は先ほど、最後のやるべきことを終えました。心残りはありません」
「王妃ザラ。あなたの最後のやるべきこととは何でしたか。教えてもらえますか?」
「あなたに言っても、わからないかもしれません」
「私は兵士です。兵士ですが、あなたと同じように生きています。わかるかも知れません」
「そうですね。あなたも私もまだ生きています。私はこの世界で奇跡に遭遇しました。私の人生で歩まなかった道が、ここにありました。私はその道を楽しみました。共に歩んでくれたセルバート王に、感謝の言葉を伝えたのです」
「感謝の言葉ですか?王はあなたを死地に追いやりました。あなたは間もなく死にます。それでも感謝をしますか?」
「ここは戦場です。死は隣りにあります。その覚悟はしていました。でも愛する人とここまで歩んだ日々は、私の幸福な時間でした」
「愛するとはなんですか?」
「あなたは誰かを愛したことはありませんか?王妃の私がセルバート王を愛したように、兵士だって同じように誰かを愛するものではないのですか?」
「私は兵士です。あなたのように、命をかけて守るべき人はいます。どんな恐怖も、どんな痛みも、その義務の前では無力です。私は自分を弱める全てのものに勝利し、主人のために命を捧げます」
「頼もしい兵士です。私は自分にもあなたのような兵士がいたことも忘れ、愛する王のために、残りの命の灯を燃やしました。私の命はもう尽きます」
「私の命と、あなたの命は違うように感じます。何が違うのでしょうか」
私がそう問いかけた時、彼女は最後の力振り絞るようにして、小さな砂時計を取り出して、粉を撒いて、何かを呟いた。
それは私に向けた魔法のように見えた。
その時、納屋の入口に向かって、誰かが走ってくる気配を感じた。
殺気立ったその気配は、私に命の危険を感じさせ、私は振り向きざま剣を振った。
「ザラ!!!」
その男の力は剣を振る私を体ごと弾き飛ばし、納屋の内側側面の壁に私を叩きつけた。
傭兵団の隊長がその男に後ろから剣を突き出して飛びかかったが、その男は体制を変えることなく横に飛び、体を捻らせて後方を向くと同時に剣を振り、隊長の身体を上下に分断した。
私は痛みも忘れて立ち上がり、納屋を飛び出して逃げた。
第一軍事大臣シャルル。
私が勝てる相手ではない。
路地から出る時、マイネを見かけて、彼も私に気づいたが、彼もまた納屋に向かって走っていった。
その後、ドノフと合流し、ドノフの部隊がホークの部隊と共に納屋に向かったけど、もうそこには誰もいなかったとのことでした。
シャルルらの一時的な都市内への侵入があったものの、都市の防衛で敵に完全に突破された場所はなく、夜になると、一旦敵からの攻撃は止みました。
その夜は、ブレイクナイトら中央ギルドのメンバーと私たちで、最後になるかも知れないミーティングを行いました。
「ザラの遺体は確保できませんでしたが、死んだ可能性が高いです。もし生きているなら、今夜も攻撃が続いているでしょう」と、私は彼女の傷の状況から判断してそう言いました。
「ギルドメンバーが人を抱えて飛び立つ龍を見たと言っている。王妃は回収されたと思われる。死んだかどうかは、まだ確定できないが」とブレイクナイトは言い、さらにこう続けました。
「ハンニバルの部隊を突破して、シャルルの部隊が小都市内を突き進んだのは想定外だった。今回は退却してくれたが、力押しされると対処できないかも知れん」
「リーダー。弱気になるのはまだ早いぜ。俺もまだ全力出してない。楽しみだよ。俺はこういう戦いをやりたかったんだ」と、ホークが心から楽しそうな顔をして話すのを見て、中央ギルドが都市を保有するギルドである理由がわかりました。
戦いを心から楽しんでいる人は、私たちのギルドにはいない。
その時、ドノフに島ギルドのレノフリーダーから連絡が入り、私たちと戦況を共有した。
向こうにはマイノスさんもいて、まず私たちの無事を喜んでくれました。
マイノスさんはこれまでの戦況を教えてくれました。
まず、ビッグレイクギルドの本拠地である湖へ、商人ギルドの船団が押し寄せて来たけれども、その全てを沈没させたとのこと。
船団を率いたベラトリクスは、ワープホールで逃げられたとのこと。
そして、島ギルドの方は、懲罰ギルドの攻撃を受け、その被害は、父クルーズの町だけで済んだとのこと。
ただ、父クルーズの町はほぼ壊滅状態になり、父自身も重傷を負ってしまい、今は治療のために安静にしているとのことでした。
商人ギルドと懲罰ギルドは今回の敗戦で、多くの将校を失ったと思われ、懲罰ギルドではそのサブリーダーとの内戦もあったとの報告でした。
こちらからは王妃ザラの空軍を潰したものの、まだシャルルのグリフォン部隊や、2万近い陸軍に包囲されているので、引き続き籠城して戦うと、ブレイクナイトさんが言いました。
また途中から、ロボシンクさんとも遠隔通信をつなげ、小都市アルンからビッグレイクギルドまでの罠の設置状況を確認しました。
現在、7箇所で同時進行で罠の設置をしているようですが、マイノスさんは、先行してまず小都市アルンに近い2箇所の罠を完成させて欲しいと要望を出しました。
今、大きな湖の方に向かわれたら、罠が一つも機能しないまま進軍される危険があったからです。
そしてマイノスさんはこの後、ひとまずビッグレイクの本拠地に戻るとのことでした。
私たちの島ギルドの町は、壊滅状態になってしまったので、ビッグレイクギルドの町の早急な開発が必要になるということでした。
私はマイノスさんに、「これから3日間が、この小都市防衛戦の最も重要な期間になるだろう」と伝えました。
私はマイノスさんがこの小都市アルンにも援軍として来てくれることを心の中で望みました。
すでにマイノスさんは商人ギルドと懲罰ギルドの2つの戦いに参戦して、勝利を収めています。
疲労は蓄積しているはずです。
私はここは自分が頑張らなければならないのだとわかっていながらも、助けてほしいという心の声も聞こえてくるのでした。
マイノスさんは、そんな私の心の声に答えるかのように、危険を感じたら無理することなく、中央ギルドの軍団とともに、ワープホールでビッグレイクの本拠地に帰って良いと、私たちに言いました。
すると、ブレイクナイトが「心配いらんよ。最後は王立騎士団を道連れに、地獄へ連れて行き、ビッグレイクギルドの部隊は避難させる」と言いました。
周りからは歓声が上がり、更なる戦いを求める声が上がりました。
「いいか、挑発には乗るんじゃねえぞ。粛々と、敵を城塞で迎え撃つんだ。この士気なら、あと1か月は戦えるだろうよ。敵が音を上げなければな!」とブレイクナイトが言うと、一同に笑いも起き、これが都市持ちギルドなんだと私は理解しました。
ログリーさんの鷹の目ギルドも、速攻でガルナス王国の都市を奪っていたし、都市を持つギルドにはしっかりした理由があるんだと実感しました。
私はふと命のネックレスを見たら、とても輝いていました。
それから3日間、高い士気を保ちながらも、激しい緊張と疲労を伴いながら、私たちは敵の攻撃を待ちました。
彼らは攻撃を仕掛けてきませんでした。
「王妃ザラが死んだのは、間違いないな」とブレイクナイトは判断したようでした。
サブリーダーのホークが、こちらから逆に夜襲を仕掛けたいと提案して、ブレイクナイトはそれを許可しました。
その夜、ホークの部隊が夜襲をかけたところ、抵抗が少ないためにおかしいという連絡が来ました。
こちらをおびき出すための罠の恐れもあるので、一旦は撤退して、翌日再度、都市から打って出ました。
敵陣営はほぼ空になっていました。
私たちは、ビッグレイクギルドの本拠地が危ないと思い、ドノフがマイノスさんに連絡しました。
マイノスさんはロボシンクに罠の設置状況と敵の行軍を見かけなかったかを確認していました。
ロボシンクの話によると、特にそれらしい行軍はなく、川を伝っていく部隊があるかどうかも見ていたようですが、それもないとのことでした。
罠に関しては、最初の一つだけは作ることが出来たとのことでした。
ブレイクナイトは、私たちにここは自分たちで守れるから、本拠地に帰ったほうが良いと言ってくれたので、私たちは帰還しました。
ロボシンクらも、監視部隊を残して、残りは本拠地へ一旦帰還することになりました。
私たちがビッグレイクギルドのギルド拠点に帰った時、マイノスさんは人目をはばからずに私を抱きしめてくれました。
頑張った甲斐があったなと、私も涙をこぼしました。




