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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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吸血鬼のお願い—-ブランチの後で、人生相談—-

夜明け前。

 薄いカーテン越しの光が、部屋に滲み始めていた。


 ユウキは、まだ夢の底にいる。


(……ノクティ……)


 柔らかな気配。

 近くにいるはずの誰かに、無意識に手を伸ばす。


「……ノクティ……」


 枕を抱き寄せ、名前を呼ぶ。

 感触は当然、何も返してこない。


(いい感じだ……)


 夢の中の自分は、勝手に都合よく進めていく。


「今晩は……一緒に、いような……」


 ――静かな声が、返った。


「いえ。もう、朝ですよ」


 はっきりとした現実の声。


 ユウキの意識が、叩き起こされる。


 目を開く。


 ――至近距離。


 黒髪。赤い瞳。

 ベッド脇に、ノクティアが立っていた。


「うわあああああああ!!?」


 跳ね起きるユウキ。


 次の瞬間、ノクティアの姿が、ふっと霧のように揺らぐ。


 霧化。

 上級吸血鬼の特性。


「な……なんで部屋にいるんだよ!!」


 心臓を押さえながら叫ぶ。


 ノクティアは、申し訳なさそうに視線を逸らした。


「侵入したつもりはありません。

 ……我が主人に、お願いがありまして」


「……へ?」


 ユウキは、完全に寝ぼけ顔のまま固まる。


「進化の条件に、

 “主との同意による供与”が必要なのです」


 言葉は淡々としている。

 冗談でも、からかいでもない。


 真剣だ。


「……え、えっと」


 理解が追いつかない。


「だから、その……」


 ノクティアは一拍置いて、続けた。


「今は、説明だけで構いません。

 ですが……検討していただけると」


 ユウキは、枕を抱えたまま視線を泳がせる。


「と、とりあえず!」


 一歩下がる。


「今すぐじゃなくていいから!

 ……いったん、出てってくれ!」


「……了解しました」


 霧が引くように、ノクティアの気配が消える。


 部屋に残ったのは、

 朝の光と、荒い呼吸だけ。


「……夢じゃ、なかったよな……」


 ユウキは天井を見上げ、深く息を吐いた。


 静かな朝が、始まってしまった。


昼のカフェテリア。

 皿は新しくなり、パスタと軽い前菜、色の薄いカクテルが並んでいる。


 ユウキは、深いため息を一つついた。


「……というわけで、朝から心臓に悪い出来事があってさ」


「ほう?」


 よっしーがフォークを止める。


「ノクティが部屋におった、と」


「いた。

 夢かと思ったら現実だった」


 よっしーが笑いを堪えきれず、グラスを置く。

そこへ——

「ハァーーなんやそれ、めっちゃ羨ましい!

オレやったらそのままやってまうわ」


「ノクティちゃんわたしの所来ないかなぁ」

と羨ましがるハッサンとヤスを、横目に笑うよっしー


「朝イチで吸血鬼イベントは、確かにヘビーやな」


 ニーヤが、きちんと背筋を伸ばして説明に入る。


「昔、お師匠から聞いたのですが上級吸血鬼の進化条件には“主との同意”が関わる場合がありますニャ。

 呪いではなく、契約に近いものですニャ」


「契約……」


 ユウキは額を押さえた。


「いや、急すぎるだろ」


 よっしーが思い出したように言う。


「おー、そういや昔観た映画でな。

 ドラキュラが、純潔の相手を狙うシーンあったわ。

クリストファー・リー主演やったっけ?」


 ヤスが即乗っかる。


「あーあったあった。なんか雰囲気だけで全部持っていくやつですやんね」


「せやせや。

 今思うと、演出は上品やったな」


「……なんで感心してんだよ」


 ユウキがツッコむ。


 よっしーは肩をすくめた。


「ええやん。

 覚悟決めたら人生一段上がるで、童貞くん」


「同意、つーか代わって欲しいくらいですわ

憧れの金髪美女やで」


 ハッサンが短く頷く。


 その横で、クリフは黙っていた。

 ワインの向こうに、何かを思い浮かべた顔。


(……エレオノーラ。ツグリ……)


 複雑な表情が一瞬だけ過る。


 ニーヤが、ユウキを見て穏やかに言う。


「主人次第ですニャ。

 誰も、無理強いはしません」


 ――その瞬間。


「では、予行練習をしておきましょうか」


 隣の席に、いつの間にかミカエラがいた。


「ブッ――!!」


 ユウキが盛大に飲み物を吹く。


「え、ミカ?…な、なに言って……!?」


 ミカエラは涼しい顔のまま続ける。


「我々オートマタをそういう目的で造る科学者もおりまして、特に珍しい事ではございませんので……」


ユウキとミカエラの間を割って入るニーヤ

「ミカエラ!………お前は我が主人の心情をもっと察するべきですニャ!!」



「わかりました。」

 言い終わるや否や、席を立つ。


「では。

 午後の報告に戻りますので失礼致します」


 ――消えた。


「……あの人、心臓に悪い」


 ユウキが呻く。


 クリフが低い声で言った。


「……焦るな。

 お前のペースでいい」


 ニーヤも、そっと続ける。


「主人が決めることですニャ。

 私たちは、隣にいますニャ」


 ユウキは、少しだけ肩の力を抜いた。





父への相談(夕方)


 夕方。

 浴場帰りの匂いを連れて、エリー(父)が腰を下ろす。


「で?」


 一言。


 ユウキは、要点だけを話した。


 父は腕を組み、少し考えてから言う。


「いいじゃねーか。

 ウィンウィンだろ」


「軽っ」


「昔向こうじゃ、

 そういう制度もあったろ。精子バンクとかよー

 大事なのは、納得して決めることだ」


 ユウキの肩を叩く。


「いいか。

 オレがどんな姿になろうが、

 オレはお前の父ちゃんだ」


 真っ直ぐな目。


「お前の味方だ」


 その瞬間、ユウキの堰が切れた。


「……っ」


 抱きつく。


 いい歳した男が、声を上げて泣く。


「……わかった。

 ちゃんと考える」


「それでいい」


 父は背中を叩いた。


今回の話は、

戦いでも進化でもなく――相談の回でした。


ノクティアのお願いは真剣で、

ユウキの反応は情けなくて、

周囲の男たちは無責任で、

それでも誰も、彼を一人にはしない。


そんな一日です。


英雄でもなく、

モテるわけでもなく、

人生が順調なわけでもないユウキが、

「どうしたらいいかわからない」と言える相手を持っている。


それ自体が、

この物語における一つの“強さ”だと思っています。


ちなみに、よっしーたちが話題にしていた映画は

『Dracula: Prince of Darkness』。

古き良き時代の吸血鬼像ですね。


次回は、

ノクティア本人との“正式な対話”か、

あるいは――

学園都市側が用意する「安全な選択肢」の話になる予定です。

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