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門前の風、王立勇者団



谷風が瓦屋根の海を渡り、アルテミスの城門で渦を巻いた。石畳の向こうに、露店と木骨家屋、城下を模した碁盤の街。だが空気は妙に張り詰めている。

「……嫌な鳴りだ」ユウキは耳の奥に残る微かな金属音を追った。

「主殿も感じるか。糸を張りすぎた琴の音じゃ」ニーヤが耳を伏せる。

「祭やのに笛がズレてる、みたいな感じやな」よっしーが鼻を鳴らした。

 門をくぐるや否や、呼び止める声。

「そこの一行、停止!」煌びやかな装備の四人組が道を塞ぐ。胸章には獅子と王冠――王立勇者団。隊長格の長身が顎で示した。

「身元、目的、武具検め。ここは“選ばれし者”の町だ」

「あらまあ。選ばれしとはご立派ですこと」あーさんは会釈し、上品に身分証(冒険者証)を差し出す。

 連中はカードを一瞥すると鼻で笑った。「辺境の紙切れなど通用せん」

 背で「やれやれ」と肩をすくめる影が一つ。革帳簿を抱えた若い女書記が列の後方にいた。灰緑の瞳がわずかに揺れ、ユウキたちへ短く目礼する。

(新キャラ)女書記ミレイナ――勇者団の事務官。規定と良心の板挟みらしい。


「喧嘩なら相手するで?」よっしーが半歩出た肩を、クリフが軽く押し戻す。

「ユウキ、前は任せろ」いつもの静かな声。兄貴分の手は確かに温かい。

 隊長は軽口も待たず抜剣した。「この町に“異物”はいらん」

 ユウキは首を振った。「異物かどうか、鳴らして確かめる必要はない。鐘は――鳴らさない」

 よっしーが小さく笑う。「出たな合言葉」

「鍵穴じゃなく、蝶番へ」あーさんの二鈴が、風を半拍ずらす。


 刃が上がる寸前、ユウキは石畳に**“座”を置いた。見えない椅子――踏み込んだ足だけが柔らかく沈む。

「なっ!?」隊長の重心が抜け、振りが遅れる。

 よっしーは’89箱からタイラップを一閃。「文明の蝶番固定や!」剣の鍔と鞘を束ねるだけ。刃は抜けない。

 ニーヤの魔術は乾いた風を湿らせ、砂塵を雨粒に変えて視界を攪乱。あーさんの簪は石畳に刺さり“ここより踏み込ませず”の結界標。

 クリフは一歩も拳を振らない。ただ隊長の肩に手を置き、屈筋を逆向きに撓ませる**。「やめておけ。怪我をするのは君だ」

 非致死・ほどほど――誰も倒れず、剣だけが沈黙した。


 人垣の向こうで、鐘楼が一度だけ鳴りかけて、やめた。風に消えた半音。

 ミレイナが小声で囁く。「……通してください。規定上、冒険者証は相互通行協定で有効のはずです」

 隊長は悔しげに舌打ちし、剣を下ろした。「監査にかける。ついて来い」

 連れていかれる先は、王立勇者団詰所――城壁の陰、剣と秤のレリーフが光った。

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