星降る町へ ―― ステルネ・ツィフへの道
《前書き/クリフの視点》
人は、戦いの後に酒を飲む。
それは勝利を祝うためでもあり、
恐怖を忘れるためでもある。
だが――
今宵の杯は、少し違う。
救えなかった命があり、
託した命があり、
そして、歩き続ける者たちがいる。
旅とは、選び続けることだ。
剣を振るうか。
弓を引くか。
それとも、ただ歩くか。
今夜は、歩く前の夜。
ならば私は、耳を澄ませよう。
酒場は、剣よりも多くの真実を語る。
――次の行き先を、見誤らぬために。
◆ 酒場へ――灯りとざわめきの中で
ギルドを出た後、
俺たちは町の中心にある酒場へ向かった。
外観は木造で、年季が入っている。
扉を開けると、
温かい空気と、人の声と、酒の匂いが一気に押し寄せた。
「うわ……ええな、ここ」
よっしーが、素直に感嘆の声を漏らす。
「酒場って、世界共通で落ち着くよな」
俺も同意する。
冒険者、商人、地元の職人。
肩書きは違えど、
今この時間だけは、皆“ただの客”だ。
あーさんは少しだけ周囲を見回し、
それから、安心したように微笑んだ。
「……賑わいとは、心を緩めてくれるものですね」
ニーヤは椅子に座り、
足が床に届かないのを気にしつつ、
尻尾をくるりと巻いた。
「我が主人、匂いが……平和ですニャ」
ブラックは俺の肩から降り、
椅子の背に器用に乗って、
周囲を静かに観察している。
――いつもの配置だ。
⸻
◆ 乾杯、ただし静かに
酒場の親父が、
黙って木製のジョッキを並べてくれた。
泡の立ち方が、いい。
「……乾杯、しとくか」
俺が言うと、よっしーが頷く。
「せやな。派手にはやらんけど」
クリフが、ジョッキを持ち上げる。
その動作は、どこか儀式めいていた。
「――今宵は、命を託せたことに」
誰も冗談を言わない。
それぞれが、思う顔をして、杯を合わせる。
音は小さい。
でも、確かに響いた。
あーさんは一口だけ口をつけ、
静かに息を吐いた。
「……温かいですね。胸の奥まで」
ニーヤは泡に興味津々で、
指でちょん、と触ろうとして、
俺に止められる。
「やめとけ。猫舌だろ」
「むぅ……ですニャ」
⸻
◆ クリフの情報収集――自然な距離で
俺たちが飲み始めてしばらくすると、
クリフは、自然に席を立った。
誰にも「行ってくる」とは言わない。
だが、誰も止めない。
――ああ、始まったな。
クリフは、酒場の隅。
カウンター寄りの席へ移り、
地元の年配客に声をかける。
声は低く、穏やか。
決して聞き役を奪わない。
「……この辺り、最近はどうだ?」
「森の方で、物騒な話は?」
相手は最初、警戒する。
だが、クリフの物腰と、
戦い慣れた“匂い”に、
少しずつ口が開いていく。
「オークの話か?」
「いや、それだけじゃない」
耳を澄ませると、断片が聞こえる。
・街道沿いは比較的安全
・ただし、北東へ行くと夜の冷えが厳しい
・星がよく見える町がある
・旅人が集まりやすいが、治安は悪くない
「……星が、よく見える?」
クリフが、そこで言葉を拾った。
「おう。
ステルネ・ツィフって小さな町だ。
夜になると、空が落ちてくるみてぇに星が見える」
その言葉を聞いた瞬間、
クリフの目が、わずかに細くなる。
――決まったな。
⸻
◆ 酒場の卓で――次の行き先
クリフが戻ってきた時、
よっしーは既に二杯目に入っていた。
「お、兄貴。どやった?」
よっしーが聞く。
クリフは席に座り、
ジョッキに口をつけてから、静かに言った。
「次の行き先が、見えた」
俺とニーヤ、あーさんが同時に顔を上げる。
「北東。
ステルネ・ツィフという小さな町だ」
「ステ……なんて?」
俺が聞き返す。
「ステルネ・ツィフ。
“星降る町”と呼ばれている」
あーさんが、はっと息をのむ。
「まぁ……星降る……。
なんと詩的な……」
ニーヤが首を傾げる。
「星が……落ちてくるですニャ?」
「落ちてはこない」
俺が即答する。
クリフが続ける。
「夜になると、灯りが少なく、
丘の上から星が一面に見えるらしい。
旅人も多いが、騒がしすぎない」
よっしーが、にやりと笑う。
「ええやん。
次は、戦いなしで、夜景回やな」
「フラグ立てるな」
俺は言うが、内心、少し楽しみだ。
ブラックが、小さく鳴いた。
……同意、だと思いたい。
⸻
◆ 旅立ちの夜――星を見る前に
酒場を出ると、
町の夜気が、ひんやりと頬を撫でた。
空を見上げると、
確かに星が多い。
――だが、
まだ“降るほど”ではない。
「ステルネ・ツィフは、
ここから二日ほどの道程だ」
クリフが言う。
「焦る必要はない。
明日の朝、出立しよう」
あーさんが、胸元の鈴に手を添える。
「……新しい町。
新しい縁が、また結ばれるのでしょうか」
ニーヤが、元気よく答える。
「きっとですニャ!
我が主人がいますニャ!」
「俺基準なのやめろ」
と言いつつ、悪くない気分だ。
よっしーが、空を見上げて言った。
「星ってな、
見上げる余裕がある時しか、綺麗に見えへんねん」
珍しく、真面目だ。
俺は、ゆっくり息を吸う。
ルルゥはいない。
けれど、あの別れは、終わりじゃない。
――次へ進むための、静かな区切りだ。
「……行こう」
俺が言う。
「次は、星降る町だ」
クリフが、静かに頷いた。
こうして俺たちは、
夜の町を背に、
ステルネ・ツィフへと向かう。
まだ見ぬ星の下へ。
後書き
今回は、
戦いの後の静かな一夜と、
次の目的地の決定を描きました。
ギルド登録はまだ。
依頼も受けない。
それでも、旅は進みます。




