↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/460

灰色の町

灰色の町


前書き


町は、一人では腐りません。


一人の悪人だけでも腐りません。


誰かが見て見ぬふりをする。


誰かが仕方ないと諦める。


誰かが黙って従う。


そうして少しずつ、


町は灰色になっていきます。


悪とは、


案外静かなものなのかもしれません。



《主人公・相良ユウキ視点》


森を抜ける頃には、陽は西へ傾いていた。


木漏れ日が長く伸び、風は昼間よりも冷たくなっている。


誰も口を開かなかった。


ヴァルターと対峙した後だからではない。


それぞれが、自分の中で何かを整理していた。


俺もその一人だった。


ガレス。


ルガー。


二人とも「山賊」ではなかった。


戦争が終わり、国に切り捨てられた兵士。


村を失い、生きる場所を失った男たち。


そんな人間が集まり、行き着いた場所が黒狼団だった。


俺は以前の世界で見てきた光景を思い出していた。


仕事を失った人。


派遣切りに遭った人。


帰る家をなくした人。


事情は違う。


世界も違う。


けれど、「居場所を失う」という痛みだけは、不思議なほど似ていた。



砦へ戻ると、子どもたちがライラの周りへ集まっていた。


「お姉ちゃん!」


「おかえり!」


幼い少女が飛びつき、ライラはぎこちなく笑う。


「ただいま。」


その笑顔を見て、ライラの母エレナは胸を撫で下ろした。


ロベルトも薬草を干しながら娘を見つめている。


それは、どこにでもある家族の風景だった。


俺は胸の奥が少しだけ苦しくなった。


こんな場所が、本当に討伐されるべき場所なのだろうか。



「ユウキ。」


振り返ると、カシオンが立っていた。


「少し、お時間をいただけますか。」


彼は砦の奥にある小さな部屋へ俺たちを案内した。


そこは倉庫のようでもあり、書斎のようでもあった。


壁には羊皮紙が何枚も貼られ、棚には帳簿が積み重なっている。


よっしーが目を丸くした。


「山賊のアジトとは思えへんな。」


カシオンは少し笑った。


「よく言われます。」


彼は一冊の帳簿を机へ置いた。


「見てください。」


ページをめくる。


そこには数字がびっしりと並んでいた。


収穫量。


税率。


薬草の買取価格。


塩や小麦の相場。


「これ……全部調べたんですか?」


「ええ。」


カシオンは静かに頷く。


「私は元商人です。」


「数字を見るのが仕事でしたから。」


彼は一本の線を指でなぞった。


「三年前。」


「ここから急におかしくなります。」



確かに。


税率が跳ね上がっている。


薬草の買取価格は下がり続けている。


逆に生活必需品は値上がりしていた。


「これじゃ……。」


俺は思わず呟いた。


「普通に暮らしてても赤字だ。」


「その通りです。」


カシオンは穏やかな口調で続けた。


「ロベルトさんだけではありません。」


「鍛冶屋。」


「農家。」


「猟師。」


「織物職人。」


「皆、同じように店を畳みました。」


「それでも税だけは下がらなかった。」


よっしーが腕を組む。


「ほな、町の人らは何しとるん?」


「耐えています。」


短い答えだった。


「耐えきれなくなった人から、この森へ来るのです。」



俺は窓の外を見た。


薪を割る老人。


洗濯をする未亡人。


木刀を振る子どもたち。


ここは山賊の砦ではない。


国から零れ落ちた人たちの、小さな村だった。


その時だった。


コンコン。


扉が叩かれる。


「頭領。」


見張りの青年が顔を覗かせた。


「町から使者が来ています。」


ガレスが眉をひそめる。


「誰だ。」


青年は答えた。


「徴税官バルトンの秘書だそうです。」


部屋の空気が一変した。


ルガーの手が槍を握る。


アーサーが立ち上がる。


カシオンは静かに帳簿を閉じた。


「……早すぎます。」


ガレスは低く呟く。


「こちらの動きを読んでいる。」


「あるいは――」


クリフが窓の外へ視線を向けた。


「この砦に、奴らの目がある。」


その一言で、全員が黙り込んだ。


もし本当に内通者がいるのなら。


ヴァルターたちが現れた理由も。


木札が置かれた理由も。


すべて説明がつく。


静まり返った部屋の中で、ガレスはゆっくりと全員を見回した。


「……誰も一人では動くな。」


「今日から、この砦の中にも敵がいると思え。」


その言葉は、重く全員の胸へ落ちた。


外だけではない。


敵は、もうすぐそこまで入り込んでいるのかもしれない。



(続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。