捨てられた剣
捨てられた剣
前書き
戦争には勝者と敗者がいます。
ですが、
終戦の日、
誰にも迎えられない兵士もいます。
役目を終えた瞬間、
必要なくなる者たち。
その行き着く先を、
歴史はあまり語りません。
⸻
《主人公・相良ユウキ視点》
森の空気が変わった。
木々の奥。
黒いローブ。
ゆっくり歩いてくる男。
その姿を見た瞬間。
ガレスが固まった。
「……お前。」
男は笑う。
「久しいな。」
「ガレス。」
まるで旧友に会ったような声だった。
だが。
ガレスの目には怒りしかない。
「生きていたか。」
低い声。
「死んだと思っていた。」
男は肩をすくめた。
「残念だったな。」
◇
ルガーが槍を構える。
「知り合いですか。」
ガレスは答えない。
代わりに。
男が笑った。
「昔の上官だ。」
その一言で、
全員が息を呑んだ。
◇
「俺の名は」
男はゆっくりと外套を払った。
漆黒の軍服。
胸には古びた紋章。
狼を囲む月。
「ヴァルター・グライス。」
「元・第三辺境軍団副団長。」
……
ガレスの直属の上官だった男。
◇
「副団長……。」
クリフさんが呟く。
軍人。
しかも、
かなり上だ。
「戦争では世話になったな。」
ヴァルターは笑う。
「お前は優秀だった。」
「命令にも従った。」
「よく働いた。」
「まるで猟犬だった。」
ガレスの拳が震える。
◇
「黙れ。」
「ん?」
「俺は聞いた。」
「終戦後も国は俺達を守ると。」
ヴァルターは笑った。
「ああ。」
「言ったな。」
「嘘だったが。」
……
空気が凍る。
◇
「国に必要だったのは兵士だ。」
「兵士を養うことじゃない。」
「戦争が終われば。」
「用済みだ。」
あまりにも、
あっさり言った。
◇
ガレスが一歩踏み出す。
「だから捨てたのか。」
「そうだ。」
「村へ帰れと言った。」
「帰る村もない奴までな。」
「当然だろ?」
「戦争は終わった。」
「もう兵士はいらん。」
◇
ルガーの目が揺れる。
彼もまた。
村を失った。
元兵士。
言葉が胸を抉る。
◇
「貴様……。」
ガレスが斧を握る。
ヴァルターは平然としていた。
「その結果どうなった?」
「山賊。」
「盗賊。」
「傭兵。」
「浮浪者。」
「好きなのを選んだだけだ。」
◇
「違う。」
ガレスが低く言う。
「選んだんじゃない。」
「選ばされた。」
初めてだった。
ガレスが感情を露わにしたのは。
◇
「俺だけじゃない。」
「家族を失った奴。」
「腕を失った奴。」
「足を失った奴。」
「帰る場所がない奴。」
「みんな……。」
「生きるしかなかった。」
静かな声だった。
だが。
誰よりも重かった。
◇
あーさんが小さく涙を拭う。
よっしーも珍しく何も言わない。
俺は思い出していた。
地球でも。
戦争が終わったあと。
復員兵。
失業。
ホームレス。
社会から取り残された人たち。
世界が違っても、
同じなのか。
◇
ヴァルターは鼻で笑う。
「感傷だな。」
「だから貴様は負け犬なんだ。」
その瞬間。
ヒュン!
クリフさんの矢が飛ぶ。
ヴァルターは避けない。
カンッ!
誰かが弾いた。
黒装束。
銀の鷹の仮面。
五人。
◇
レオンが舌打ちする。
「護衛か!」
「面倒だ!」
◇
ヴァルターはゆっくり後ろへ下がる。
「今日は挨拶だ。」
「ガレス。」
「次は。」
「お前の砦を燃やす。」
その一言に、
ライラの笑顔が頭をよぎる。
子どもたち。
老人たち。
薬師の夫婦。
全員が危険だ。
◇
ガレスは斧を肩へ担いだ。
怒りは消えていた。
代わりに。
決意だけが残っていた。
「もう逃げん。」
静かな声。
「今度こそ。」
「俺がお前を止める。」
ヴァルターは笑う。
「やってみろ。」
次の瞬間。
黒装束たちが煙玉を地面へ叩きつけた。
白煙。
視界が真っ白になる。
◇
煙が晴れた頃には、
ヴァルターの姿はなかった。
残されていたのは、
一本の軍用短剣。
柄には、
古い第三辺境軍団の紋章。
ガレスはそれを拾い上げる。
そして静かに呟いた。
「……終わらせる。」
その目には、
山賊の頭領ではなく、
かつて国を守った一人の兵士の覚悟が宿っていた。
⸻
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はガレスの過去と、元上官ヴァルター・グライスが登場しました。
ヴァルターは単なる悪役ではなく、「国の論理」を体現する人物です。
そしてガレスは、「捨てられた兵士たち」の代表として彼と向き合うことになります。
次回はいよいよモンテーヌ編のどんでん返しです。
徴税官バルトン、ヴァルター、そして王都――。
黒幕だと思われた人物たちの関係が明らかになり、本当の敵が姿を現します。




