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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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捨てられた剣

捨てられた剣


前書き


戦争には勝者と敗者がいます。


ですが、


終戦の日、


誰にも迎えられない兵士もいます。


役目を終えた瞬間、


必要なくなる者たち。


その行き着く先を、


歴史はあまり語りません。



《主人公・相良ユウキ視点》


森の空気が変わった。


木々の奥。


黒いローブ。


ゆっくり歩いてくる男。


その姿を見た瞬間。


ガレスが固まった。


「……お前。」


男は笑う。


「久しいな。」


「ガレス。」


まるで旧友に会ったような声だった。


だが。


ガレスの目には怒りしかない。


「生きていたか。」


低い声。


「死んだと思っていた。」


男は肩をすくめた。


「残念だったな。」



ルガーが槍を構える。


「知り合いですか。」


ガレスは答えない。


代わりに。


男が笑った。


「昔の上官だ。」


その一言で、


全員が息を呑んだ。



「俺の名は」


男はゆっくりと外套を払った。


漆黒の軍服。


胸には古びた紋章。


狼を囲む月。


「ヴァルター・グライス。」


「元・第三辺境軍団副団長。」


……


ガレスの直属の上官だった男。



「副団長……。」


クリフさんが呟く。


軍人。


しかも、


かなり上だ。


「戦争では世話になったな。」


ヴァルターは笑う。


「お前は優秀だった。」


「命令にも従った。」


「よく働いた。」


「まるで猟犬だった。」


ガレスの拳が震える。



「黙れ。」


「ん?」


「俺は聞いた。」


「終戦後も国は俺達を守ると。」


ヴァルターは笑った。


「ああ。」


「言ったな。」


「嘘だったが。」


……


空気が凍る。



「国に必要だったのは兵士だ。」


「兵士を養うことじゃない。」


「戦争が終われば。」


「用済みだ。」


あまりにも、


あっさり言った。



ガレスが一歩踏み出す。


「だから捨てたのか。」


「そうだ。」


「村へ帰れと言った。」


「帰る村もない奴までな。」


「当然だろ?」


「戦争は終わった。」


「もう兵士はいらん。」



ルガーの目が揺れる。


彼もまた。


村を失った。


元兵士。


言葉が胸を抉る。



「貴様……。」


ガレスが斧を握る。


ヴァルターは平然としていた。


「その結果どうなった?」


「山賊。」


「盗賊。」


「傭兵。」


「浮浪者。」


「好きなのを選んだだけだ。」



「違う。」


ガレスが低く言う。


「選んだんじゃない。」


「選ばされた。」


初めてだった。


ガレスが感情を露わにしたのは。



「俺だけじゃない。」


「家族を失った奴。」


「腕を失った奴。」


「足を失った奴。」


「帰る場所がない奴。」


「みんな……。」


「生きるしかなかった。」


静かな声だった。


だが。


誰よりも重かった。



あーさんが小さく涙を拭う。


よっしーも珍しく何も言わない。


俺は思い出していた。


地球でも。


戦争が終わったあと。


復員兵。


失業。


ホームレス。


社会から取り残された人たち。


世界が違っても、


同じなのか。



ヴァルターは鼻で笑う。


「感傷だな。」


「だから貴様は負け犬なんだ。」


その瞬間。


ヒュン!


クリフさんの矢が飛ぶ。


ヴァルターは避けない。


カンッ!


誰かが弾いた。


黒装束。


銀の鷹の仮面。


五人。



レオンが舌打ちする。


「護衛か!」


「面倒だ!」



ヴァルターはゆっくり後ろへ下がる。


「今日は挨拶だ。」


「ガレス。」


「次は。」


「お前の砦を燃やす。」


その一言に、


ライラの笑顔が頭をよぎる。


子どもたち。


老人たち。


薬師の夫婦。


全員が危険だ。



ガレスは斧を肩へ担いだ。


怒りは消えていた。


代わりに。


決意だけが残っていた。


「もう逃げん。」


静かな声。


「今度こそ。」


「俺がお前を止める。」


ヴァルターは笑う。


「やってみろ。」


次の瞬間。


黒装束たちが煙玉を地面へ叩きつけた。


白煙。


視界が真っ白になる。



煙が晴れた頃には、


ヴァルターの姿はなかった。


残されていたのは、


一本の軍用短剣。


柄には、


古い第三辺境軍団の紋章。


ガレスはそれを拾い上げる。


そして静かに呟いた。


「……終わらせる。」


その目には、


山賊の頭領ではなく、


かつて国を守った一人の兵士の覚悟が宿っていた。







後書き


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回はガレスの過去と、元上官ヴァルター・グライスが登場しました。


ヴァルターは単なる悪役ではなく、「国の論理」を体現する人物です。


そしてガレスは、「捨てられた兵士たち」の代表として彼と向き合うことになります。


次回はいよいよモンテーヌ編のどんでん返しです。


徴税官バルトン、ヴァルター、そして王都――。


黒幕だと思われた人物たちの関係が明らかになり、本当の敵が姿を現します。

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