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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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狐面の追跡者

前書き


正義は一つではありません。


国には国の正義。


町には町の正義。


そして――


誰にも属さない正義もあります。


敵だと思った者が、


味方とは限らない。


味方だと思った者が、


正しいとも限らない。


《主人公・相良ユウキ視点》


翌朝。


砦は騒然としていた。


門に打ち付けられた木札。


【偽物を追うな。本物は王都にいる】


誰が置いたのか。


誰も見ていない。


ルガーが木札を外す。


「挑発か。」


カシオンは静かに首を振った。


「違います。」


「これは……」


「警告です。」


俺も同じことを考えていた。


あの狐面。


もし俺たちを殺すつもりなら、


昨夜いくらでも機会はあった。


なのに逃げた。


しかも、


木札まで残した。


まるで――


「追って来い。」


そう言っているようだった。



ガレスは立ち上がる。


「森へ行く。」


ルガーも槍を担ぐ。


「俺も。」


「私も行きます。」


クリフさんが笑った。


「今日は全員か。」


俺たちは再び森へ入った。



昨日の足跡。


折れた枝。


滑車。


縄。


そこまでは同じだった。


だが。


クリフさんが突然しゃがむ。


「新しい。」


土が掘り返されている。


ルガーも見る。


「一人。」


「しかも軽い。」


俺も近寄る。


「女……?」


クリフさんが頷く。


「たぶんな。」



その時。


パチン。


森の奥で枝が鳴った。


全員が武器を構える。


「そこだ!」


ルガーが飛び出した。


俺も続く。


森を抜ける。


谷へ出る。


そして。


岩の上に、


白い狐面の人物が立っていた。


風に長い外套が揺れる。


「よう。」


……


軽い。


思ってたより軽い。


狐面の人物は肩を竦めた。


「そんな怖い顔すんなよ。」


男?


いや。


声が若い。


二十代前半くらい。


「誰だ。」


ガレスが斧を構える。


狐面は笑う。


「自己紹介くらいさせろ。」


ゆっくりと面を外した。



現れたのは、


若い青年だった。


栗色の髪。


灰色の瞳。


日に焼けた肌。


旅人のような軽装。


腰には二本の短剣。


笑顔だけ見ると、


どこにでもいる青年だ。


「俺は――」


「レオン。」


「情報屋だ。」



「情報屋?」


カシオンが眉をひそめる。


「そう。」


「金さえ貰えば何でも調べる。」


「盗賊も。」


「貴族も。」


「商人も。」


「王様も。」


さらっととんでもないことを言う。



「信用できんな。」


ルガーが槍を向ける。


レオンは苦笑した。


「分かる。」


「でも。」


そう言って懐から何かを投げた。


ガレスが受け取る。


封筒だった。


中を見る。


全員の表情が変わる。


「これは……。」


徴税記録。


徴収名簿。


商人の名前。


村の名前。


金額。


そして、


一番下には。


特別支出


その横に、


見覚えのない名前が並んでいた。



「その金。」


レオンが言う。


「全部。」


「偽山賊へ流れてる。」


静まり返る。


「偽山賊?」


俺が聞く。


レオンは頷く。


「黒狼団じゃない。」


「黒狼団の格好をした連中。」


「そいつらが村を襲ってる。」



「誰の命令だ。」


ガレスが低く尋ねる。


レオンは少し黙った。


「まだ証拠が足りない。」


「だから調べてる。」


「でも一つだけ言える。」


ゆっくり俺たちを見る。


「徴税官バルトン。」


「アイツは駒だ。」


「もっと上がいる。」



その瞬間だった。


ヒュン!


一本の矢が飛ぶ。


レオンが横へ跳ぶ。


岩に突き刺さる矢。


「狙撃!」


クリフさんが叫ぶ。


森の奥。


黒装束。


五人。


全員が同じ仮面。


そして胸には、


銀色の鷹。


「本物か!」


ガレスが叫ぶ。


レオンは首を振った。


「違う!」


「アイツらが偽物だ!」


五人は一斉に剣を抜いた。


そして。


「始末しろ。」


低い声が森へ響く。


その声を聞いたレオンの表情から笑みが消える。


「……来たか。」


「あの男。」


初めて。


この飄々とした青年が、


本気で緊張した。


そして木々の奥から、


黒いローブを纏った一人の男がゆっくりと姿を現した。


顔は見えない。


しかし、その右手には金色の指輪が光っていた。


ガレスが目を見開く。


「まさか……!」


男は静かに笑う。


「久しいな、ガレス。」


その一言だけで、


ガレスの顔色が変わる。


斧を握る手が震えていた。



(続く)



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