狐面の追跡者
前書き
正義は一つではありません。
国には国の正義。
町には町の正義。
そして――
誰にも属さない正義もあります。
敵だと思った者が、
味方とは限らない。
味方だと思った者が、
正しいとも限らない。
⸻
《主人公・相良ユウキ視点》
翌朝。
砦は騒然としていた。
門に打ち付けられた木札。
【偽物を追うな。本物は王都にいる】
誰が置いたのか。
誰も見ていない。
ルガーが木札を外す。
「挑発か。」
カシオンは静かに首を振った。
「違います。」
「これは……」
「警告です。」
俺も同じことを考えていた。
あの狐面。
もし俺たちを殺すつもりなら、
昨夜いくらでも機会はあった。
なのに逃げた。
しかも、
木札まで残した。
まるで――
「追って来い。」
そう言っているようだった。
◇
ガレスは立ち上がる。
「森へ行く。」
ルガーも槍を担ぐ。
「俺も。」
「私も行きます。」
クリフさんが笑った。
「今日は全員か。」
俺たちは再び森へ入った。
◇
昨日の足跡。
折れた枝。
滑車。
縄。
そこまでは同じだった。
だが。
クリフさんが突然しゃがむ。
「新しい。」
土が掘り返されている。
ルガーも見る。
「一人。」
「しかも軽い。」
俺も近寄る。
「女……?」
クリフさんが頷く。
「たぶんな。」
◇
その時。
パチン。
森の奥で枝が鳴った。
全員が武器を構える。
「そこだ!」
ルガーが飛び出した。
俺も続く。
森を抜ける。
谷へ出る。
そして。
岩の上に、
白い狐面の人物が立っていた。
風に長い外套が揺れる。
「よう。」
……
軽い。
思ってたより軽い。
狐面の人物は肩を竦めた。
「そんな怖い顔すんなよ。」
男?
いや。
声が若い。
二十代前半くらい。
「誰だ。」
ガレスが斧を構える。
狐面は笑う。
「自己紹介くらいさせろ。」
ゆっくりと面を外した。
◇
現れたのは、
若い青年だった。
栗色の髪。
灰色の瞳。
日に焼けた肌。
旅人のような軽装。
腰には二本の短剣。
笑顔だけ見ると、
どこにでもいる青年だ。
「俺は――」
「レオン。」
「情報屋だ。」
◇
「情報屋?」
カシオンが眉をひそめる。
「そう。」
「金さえ貰えば何でも調べる。」
「盗賊も。」
「貴族も。」
「商人も。」
「王様も。」
さらっととんでもないことを言う。
◇
「信用できんな。」
ルガーが槍を向ける。
レオンは苦笑した。
「分かる。」
「でも。」
そう言って懐から何かを投げた。
ガレスが受け取る。
封筒だった。
中を見る。
全員の表情が変わる。
「これは……。」
徴税記録。
徴収名簿。
商人の名前。
村の名前。
金額。
そして、
一番下には。
特別支出
その横に、
見覚えのない名前が並んでいた。
◇
「その金。」
レオンが言う。
「全部。」
「偽山賊へ流れてる。」
静まり返る。
「偽山賊?」
俺が聞く。
レオンは頷く。
「黒狼団じゃない。」
「黒狼団の格好をした連中。」
「そいつらが村を襲ってる。」
◇
「誰の命令だ。」
ガレスが低く尋ねる。
レオンは少し黙った。
「まだ証拠が足りない。」
「だから調べてる。」
「でも一つだけ言える。」
ゆっくり俺たちを見る。
「徴税官バルトン。」
「アイツは駒だ。」
「もっと上がいる。」
◇
その瞬間だった。
ヒュン!
一本の矢が飛ぶ。
レオンが横へ跳ぶ。
岩に突き刺さる矢。
「狙撃!」
クリフさんが叫ぶ。
森の奥。
黒装束。
五人。
全員が同じ仮面。
そして胸には、
銀色の鷹。
「本物か!」
ガレスが叫ぶ。
レオンは首を振った。
「違う!」
「アイツらが偽物だ!」
五人は一斉に剣を抜いた。
そして。
「始末しろ。」
低い声が森へ響く。
その声を聞いたレオンの表情から笑みが消える。
「……来たか。」
「あの男。」
初めて。
この飄々とした青年が、
本気で緊張した。
そして木々の奥から、
黒いローブを纏った一人の男がゆっくりと姿を現した。
顔は見えない。
しかし、その右手には金色の指輪が光っていた。
ガレスが目を見開く。
「まさか……!」
男は静かに笑う。
「久しいな、ガレス。」
その一言だけで、
ガレスの顔色が変わる。
斧を握る手が震えていた。
⸻
(続く)




