銀の鷹は誰のために飛ぶ
前書き
嘘には種類があります。
口でつく嘘。
紙に書く嘘。
そして、
証拠を残す嘘。
本当に恐ろしい者は、
自分の手を汚さず、
誰かを犯人に仕立て上げます。
その時初めて、
正義は凶器へと変わるのです。
《主人公・相良ユウキ視点》
砦へ戻る道中。
誰も喋らなかった。
ガレスが持つ一本の短剣。
柄には、
銀色の鷹。
俺は横を歩くクリフさんを見る。
「知ってるんですか?」
「いや。」
短く答える。
その代わり、
ガレスが口を開いた。
「十五年前。」
静かな声だった。
「王都直属の討伐部隊があった。」
「白鷹隊。」
「盗賊討伐専門の精鋭だ。」
◇
「強かったんですか?」
あーさんが聞く。
ガレスは苦笑した。
「強いなんてもんじゃない。」
「百人の盗賊団を二十人で潰す。」
「そんな奴らだった。」
俺は思わず口を開く。
「じゃあ黒狼団なんて……」
「一日で終わる。」
……
重い。
つまり。
白鷹隊が本当に敵なら、
俺たちは今頃生きていない。
◇
「だからおかしい。」
クリフさんが言う。
「こんな小細工をする必要がない。」
確かに。
死体を置く。
木札を残す。
脅迫する。
全部回りくどい。
白鷹隊なら、
正面から潰せる。
◇
「偽物か。」
俺が呟く。
ガレスは静かに頷いた。
「俺もそう思う。」
◇
砦へ戻ると、
カシオンが短剣を受け取った。
じっと眺める。
裏返す。
鞘を抜く。
「……。」
眉が動く。
「偽物です。」
「え?」
「この紋章。」
「本物より少し歪んでいます。」
全員が近寄る。
「職人なら分かります。」
「これは写し。」
なるほど。
つまり。
誰かが、
白鷹隊に罪を着せようとしている。
◇
「頭領!」
門番が駆け込んできた。
「町から商人が!」
ガレスが振り向く。
「通せ。」
◇
現れたのは、
五十代ほどの男だった。
荷馬車を引いている。
商人らしい。
しかし。
顔色が悪い。
汗だくだ。
「お願いです……」
震えている。
「助けて下さい……」
ガレスが椅子を勧める。
「落ち着け。」
男は首を振った。
「もう……終わりなんです。」
◇
男の名は、
エドワルド。
行商人だった。
村から村へ薬や布を売っている。
「昨日。」
「町で衛兵に止められました。」
「黒狼団へ物資を運んでいるだろう。」
「そう言われました。」
◇
「違うのか?」
ガレスが聞く。
「違います!」
「私は誰にでも売ります!」
「村人にも!」
「教会にも!」
「衛兵にも!」
「黒狼団にも!」
商人として当たり前だった。
◇
「でも。」
エドワルドは俯いた。
「荷物を全部燃やされました。」
「商売も終わりです。」
あーさんが目を潤ませる。
「そんな……。」
◇
「誰の命令だ?」
ルガーが聞く。
「徴税官です。」
……
また、
バルトン。
◇
「証人は?」
クリフさん。
「います。」
「でも……」
「誰も証言しません。」
「逆らえば税を倍にされます。」
砦の空気が冷える。
これでは、
誰も逆らえない。
◇
その夜。
エドワルドは砦へ泊まることになった。
子供達は、
珍しい荷馬車を見てはしゃいでいる。
ライラも笑っていた。
久しぶりの笑顔だった。
俺も少し安心する。
その時だった。
ガタン。
馬が鳴く。
クリフさんが立ち上がる。
「静かすぎる。」
俺も外を見る。
焚き火が消えていた。
風もない。
なのに。
「……誰かいる。」
◇
屋根の上。
黒い影。
一人。
月明かりの中で、
長い外套が揺れる。
顔は仮面。
白い狐の面。
腰には二本の短剣。
影はこちらを見ると、
ゆっくり笑うように首を傾けた。
そして。
ヒュン。
屋根から飛び降りる。
「待て!」
俺が駆け出す。
クリフさんの矢。
ルガーの槍。
どちらも届かない。
信じられない速度だった。
◇
影が森へ消える直前。
小さく呟いた。
「……ようやく来たか。」
誰に向けた言葉なのか。
俺達ではない。
まるで、
誰か別の人物を待っているようだった。
そして影は、
完全に夜へ溶け込んだ。
◇
翌朝。
砦の門には、
新しい木札が打ち付けられていた。
そこには、昨日までとは違う文字が刻まれていた。
【偽物を追うな。本物は王都にいる。】
ガレスも、
クリフも、
ルガーも、
その一文を見て動きを止める。
俺は直感した。
この事件は、
もうモンテーヌだけの話じゃない。
王都を巻き込む、
もっと大きな陰謀の入り口なのだと――。
(続く)
⸻
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は「白鷹隊の紋章」が偽物であることが判明し、新たな行商人エドワルドも登場しました。
そして最後に姿を見せた、白い狐の面を付けた謎の人物。
彼は敵なのか、味方なのか、それとも第三勢力なのか。
次回はいよいよ、このモンテーヌ編最大のどんでん返しへと繋がります。黒幕の正体だけでなく、ガレスやルガーの過去にも関わる新キャラクターが登場し、物語は大きく動き始めます。




