狩人と槍使い
前書き
人は、
自分と違う相手を嫌う。
だが、
違うからこそ見える景色もある。
狩人と兵士。
森を知る男と、
戦場を知る男。
決して交わらないと思われた二人は、
一つの足跡を追うことになる。
《相良ユウキ視点》
翌朝。
まだ霧が残る森だった。
砦の門前では準備が進んでいる。
クリフさんが弓を点検していた。
その横では。
ルガーが無言で槍を研いでいる。
……
空気が重い。
重すぎる。
俺はよっしーを見る。
よっしーも俺を見る。
「……胃が痛なるわ。」
同感である。
◇
ガレスが現れた。
「今日は森を調べる。」
「昨夜の襲撃者を探す。」
俺たちは頷く。
「ルガー。」
「はい。」
「クリフと組め。」
……
静まり返る。
ルガーの眉がぴくりと動いた。
「俺が?」
「そうだ。」
「信用できません。」
即答だった。
クリフさんも苦笑する。
「俺もだ。」
よっしーが吹きそうになる。
「仲良しか!」
◇
ガレスは腕を組んだ。
「だからだ。」
「違う目が必要だ。」
「一人では見落とす。」
「二人なら拾える。」
ルガーは黙る。
クリフさんも少し考え、
「……仕方ねぇな。」
そう呟いた。
◇
森へ入る。
俺。
よっしー。
あーさん。
ガレス。
クリフさん。
ルガー。
六人だった。
朝露が草を濡らしている。
クリフさんがしゃがんだ。
「足跡。」
ルガーも見る。
「四人。」
クリフさん。
「いや五人。」
ルガー。
「……。」
クリフさん。
「一人は荷物持ち。」
ルガー。
「どうして分かる。」
「沈み方だ。」
「重心が違う。」
ルガーも地面へ膝をつく。
しばらく見つめる。
そして。
「……本当だ。」
初めてだった。
ルガーが誰かを認めたのは。
◇
さらに進む。
折れた枝。
踏まれた苔。
擦れた木肌。
クリフさんは次々見つける。
「焦って逃げてる。」
「夜だったからな。」
ルガーも周囲を見る。
「待て。」
槍で地面を指した。
「ここ。」
俺たちが近寄る。
「血?」
「違う。」
赤黒い粉。
カシオンから預かった袋へ入れる。
「火薬だ。」
俺が呟く。
ガレスが振り向く。
「火薬?」
「荷車を燃やした時の。」
なるほど。
つまり。
襲撃者は弓だけじゃない。
火も使う。
◇
さらに歩く。
突然。
クリフさんが立ち止まった。
「変だ。」
「どうした?」
「足跡が消えた。」
俺も見る。
確かに。
ここで終わっている。
「ありえねぇ。」
ルガーが周囲を見る。
その時だった。
風が吹いた。
草が揺れる。
ルガーの目が細くなる。
「違う。」
「上だ。」
全員が見上げた。
木の枝。
縄。
滑車。
……
空中移動。
「なるほど。」
クリフさんが笑う。
「森を知ってる。」
「しかもかなりな。」
◇
その時。
俺の耳に。
カラン……
小さな金属音が届いた。
「誰かいる!」
俺が叫ぶ。
黒い影が木々の間を駆ける。
速い。
クリフさんが矢を放つ。
ヒュン!
だが。
枝一本を蹴って軌道を変える。
「避けた!?」
ルガーが槍を投げる。
一直線。
ドォン!!
木へ突き刺さる。
しかし。
影はもういない。
◇
残されていたのは。
一本の短剣。
黒い鞘。
見覚えがある。
ガレスが拾い上げた。
顔色が変わる。
「……馬鹿な。」
「知ってるのか?」
ガレスは静かに頷く。
「この紋章は……」
短剣の柄には、
黒狼ではなく、
銀色の鷹が刻まれていた。
ルガーが息を呑む。
「ありえない……」
クリフさんが眉をひそめる。
「誰なんだ?」
ガレスは低い声で答えた。
「王国直属――」
「《白鷹隊》の紋章だ。」
その場に、
重い沈黙が落ちた。
黒狼団を襲っているのは、
ただの盗賊ではない。
王国の精鋭部隊に繋がる者が、
この森で暗躍しているのかもしれない。
モンテーヌ編。
物語は、
さらに予想外の方向へ動き始める。
(続く)
⸻
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、クリフとルガーという「互いを信用していない二人」が共同で捜査を行いました。
敵対していた二人だからこそ、それぞれの経験が噛み合い、少しずつ真相へ近づいていきます。
そして最後に現れた「白鷹隊」の紋章。
これは本物なのか、それとも誰かが意図的に残した偽装なのか。
次回、モンテーヌ編はさらに大きなどんでん返しへと繋がっていきます。




