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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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里親との出会い ―― 手を離す勇気と、託す温もり


《主人公・相良ユウキの視点》


ギルドの朝は、思ったより静かだった。

掲示板の前に人はいる。でも、昨日の騒がしさはない。


あーさんの腕の中で、ルルゥが小さく息をしている。

夜は何度か目を覚まして、鳴いて、あーさんの服を掴んで――

それでも、朝にはちゃんと顔を上げていた。


「……今日、誰か来るかな」

俺が言うと、よっしーが肩をすくめる。


「来る時は来るし、来ん時は来ん。

せやけど……昨日の掲示、町中で噂なっとるで」


クリフさんは、掲示板から少し離れた位置で、周囲を見ている。

“期待しすぎない”。

でも、“ちゃんと見る”。

そういう立ち方だ。


ニーヤが俺の足元で、ルルゥを見上げて言った。

「我が主人あるじ、ルルゥ……少し強くなってますニャ」

「そうか?」

「目が、昨日より前を見てますニャ」


その時だった。


「……この子、ですか?」


静かな声だった。

ギルドの喧騒に埋もれない、落ち着いた声。


振り返ると、そこにいたのは――

年配の男性と、女性。

どちらも冒険者ではなさそうで、服装は質素だが清潔。

男性の方は、少し足を引きずっている。


受付長が、すぐに気づいて声をかける。

「来たのね。掲示を見て?」


「はい」

男性が頷く。

「森の……狼寄りの子だと」


あーさんの腕の中で、ルルゥがぴくっと動いた。

視線が、その二人に向く。

逃げない。

でも、じっと観察している。


女性が小さく息を吸った。

「……怖がってない」

その言葉が、やけに優しかった。


クリフさんが一歩前に出る。

「事情を説明します」

短く、正確に。

森でのこと。親のこと。

この子が、助けを求めてきたこと。


男性は黙って聞き、最後に言った。

「……賢い子だ」

声が、少し震えている。


「うちは、町外れで薬草畑をやっています」

女性が続ける。

「夫は昔、猟師でした。

……狼とも、何度か、向き合ったことがあります」


男性が、自分の脚を軽く叩く。

「今は、もう追えませんがね」

それでも、目はまっすぐだ。


ルルゥが、ゆっくりと顔を出した。

鼻をひくひくさせて、二人を見る。

そして――


一歩、前へ。


「……行った」

よっしーが小声で言う。


ルルゥは、あーさんの腕から身を乗り出し、

女性の差し出した手の匂いを嗅いだ。


「クゥ……」


短い声。

拒絶じゃない。


女性の目が潤む。

「……この子、抱いても?」

あーさんが、そっと頷いた。


「どうぞ。ゆっくり……」


受け渡される、温もり。

ルルゥは一瞬だけ震えたが、

女性の胸に顔を埋めた。


その瞬間、

ラジカセから、静かに流れ出す。


♪ THE ALFEE「SWEAT & TEARS」


音量は小さい。

でも、確かに聞こえる。


男性が、深く頭を下げた。

「……この子を、大切にします」

「家族として、迎えます」


俺は、言葉が出なかった。

出したら、たぶん、崩れる。


ニーヤが、ぽつり。

「ルルゥ……幸せになるですニャ」

ブラックは何も言わない。

でも、目を閉じていた。


よっしーが、無理に明るく言う。

「ほな、正式に決まりやな!」

声が、ちょっと裏返ってる。


クリフさんが、最後に確認する。

「何かあれば、ギルドへ。

……そして、この町は、君たちの味方だ」


男性は、力強く頷いた。

「ありがとうございます」


ルルゥが、一度だけ振り返る。

俺たちを見る。


……分かってる。

行くんだ。

ここじゃない場所へ。


あーさんが、静かに手を合わせた。

「どうか……健やかに」


ルルゥは、もう鳴かなかった。



エンディング


ギルドの扉が閉まる。

町の朝の音に、すべてが溶けていく。


「……行ったな」

俺が言うと、よっしーが深く息を吐く。


「せや。ええ縁や」

「うん」


クリフさんが、少しだけ笑った。

「良い判断だった。

……手を離す勇気も、強さだ」


ニーヤが尻尾を揺らす。

「我が主人あるじ、胸が……少し痛いですニャ」

「それでいい」

俺は言った。

「それが、旅だ」


ラジカセの曲が、サビに入る。

“流した汗と涙が、きっと明日をつくる”。


――嵐の後の静けさ。

そして、次へ歩くための、確かな一歩。





後書き


ルルゥは、新しい家族のもとへ旅立ちました。

別れは寂しい。

けれど、守るべき命を“託す”ことも、冒険の一部です。


次回、ユウキたちは――

「依頼を受ける側」へ、少しずつ歩み出します。

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