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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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里親募集クエスト ―― ギルドの掲示板と、小さな命


《主人公・相良ユウキの視点/前書き》


町の灯りって、不思議だ。

戦場みたいな森を抜けてきたはずなのに、通りの明かりを見ただけで、胸の奥の硬いものが少しゆるむ。


……でも腕の中(正確には、あーさんの腕の中)には、まだ震えの残る小さな命がある。

あの子は、親のところへ俺たちを連れていって、間に合わなくて、そして今――“町”に来た。



「……とりあえず、やることは一個」

俺が呟くと、よっしーが頷いた。

「せやな。里親募集や。ギルドに頼も」


ミレイアが先頭を歩きながら振り返る。

「任せて! うちのギルド、こういうの早いよ。

掲示板に貼れば、犬好きの人が見に来る」


レオルも肩をすくめる。

「ただし、条件はしっかり決めろ。

可愛いだけで渡すと、あとで揉める」


ナタルが眼鏡を押し上げて言う。

「あと、あの子……犬じゃない可能性もある。

狼寄りの混血なら、飼育経験が必要」


フィオが小さく頷いた。

「でも……きっと大丈夫。いい人、います」

優しい声が、子犬の震えを少しだけ止めた気がした。


クリフさんが俺を見る。

「ギルド登録は……どうする?」

「今回はまだ。依頼だけ頼みたい」

俺が言うと、クリフさんはすぐ頷いた。

「了解した。まずは“依頼”として整える」


……クリフ兄貴、こういうのも手際いいな。





◆ ギルドへ――木の扉と、紙の匂い


町の中心にあるギルドは、小さいけど人の出入りが多かった。

木の扉に、剣と羽根ペンの紋章。

中へ入ると、酒の匂いと紙の匂いが混じってる。


掲示板が壁一面にあって、紙がぎっしり。

護衛、薬草採取、害獣駆除、迷子探し――生活の依頼が並ぶ。


「ここが“日常の戦場”だよ」

ミレイアが笑う。

「今日の森より、こっちの方が怖い時もあるけどね」


「やめろ」

俺が言うと、よっしーが肩を叩く。

「ユウキ、今日は“里親募集”だけや。平和枠や」


受付には、年配の女性――ギルド職員が座っていた。

目つきは厳しいけど、手元は忙しそうで無駄がない。


ミレイアが声を張る。

「ただいま! 受付長、お願いがある!」

受付長は顔を上げ、ミレイアを見て眉を上げる。

「……今日はまた、騒がしい顔ぶれね。何を拾ってきたの?」


「拾ったって言い方!」

俺が即ツッコむ。


よっしーが横から手を挙げる。

「里親募集、出したいんですわ」

「あら」

受付長の目が、あーさんの腕の中へ向く。


子犬――いや、子狼っぽい子が、ぴくっと震えて顔を出した。

周囲の人の気配にびびって、すぐまた隠れる。


受付長は一瞬だけ表情を柔らげた。

「……事情がありそうね」


クリフさんが一歩前へ出て、短く説明する。

「森で親が襲われ、子が助けを求めてきた。

親はすでに息を引き取り、子を保護した。

我々は旅人で、今後の世話が難しい。よって、里親を募集したい」


受付長が頷く。

「分かった。“保護依頼”扱いで掲示板に出せるわ。

ただし、条件を書きなさい。

それと――この子、犬? 狼?」


ナタルがすかさず言う。

「混血の可能性が高いです。耳と体格、匂いが犬と狼の中間」

受付長が「なるほど」と紙を取り出す。


「じゃあ、募集文を決めましょう。

性格、年齢(推定)、健康状態、注意点、引き渡し条件――」

めっちゃ事務的。

でも、こういうのは事務的な方がいい。


フィオが小さく手を挙げる。

「健康状態は、私が見ました。今は怪我なし、栄養不足気味。

あと、強い物音に怯えます。……優しく接してくれる人がいい」


あーさんが頷く。

「はい。抱くと落ち着きます。温かい布が好きなようです」

子犬が「クゥ」と小さく鳴いた。


よっしーが言う。

「食いもんはな、カップ麺の匂いで目ぇキラキラしてました」

「それは書かなくていい」

俺が即止める。


ミレイアが笑う。

「でも、食欲あるのは良いこと!」

受付長がペンを走らせる。

「……食欲あり、ね。これは書くわ」


「書くのかよ!」



◆ 募集文づくり――クリフの“リーダーシップ”が光る


受付長が紙を机に置いた。

「じゃあ、文面をあなたたちの言葉で。短く、誤解なく」


俺が「えっ」と固まる前に、クリフさんが淡々と構成を作り始めた。


「要点は四つだ。

一、保護理由。二、現在の状態。三、性格。四、譲渡条件。

――余計な飾りは不要」


……さすが兄貴。書類も戦術。


よっしーが隣でこそこそ言う。

「クリフ、ほんまに“現地の上司”やな……」

「黙って書け」

俺が言うと、よっしーが「はいはい」と口を尖らせた。


ナタルが補足する。

「“狼寄り混血の可能性”は強調した方がいい。

引き取り後に『思ったより野性味が』って揉める」


ミレイアが明るく言う。

「でも怖がらせる書き方はダメだよ!

“慣れれば忠実”ってのも入れよう」


フィオが頷く。

「“優しい家庭希望”って書きたいです」


俺は子犬を見た。

あーさんの腕の中で、少しだけ顔を出して、周囲を見てる。

目だけは強い。

助けを求めた目だ。


「……名前、どうする?」

俺が言うと、受付長がペンを止めた。

「仮名でいいわ。募集用の呼び名が必要」


よっしーが即答。

「ほな、“ルゥ”でええやろ。カレーの縁や」

「雑!」

ミレイアが爆笑。

「かわいい! ルゥ、いいじゃん!」


あーさんが少し考えてから、柔らかく言った。

「“るぅ”……口にすると、温かい響きでございますね」

子犬が「クゥ」と鳴く。

……反応した。気のせいじゃない。


ニーヤが得意げ。

「我が主人あるじ、この子、返事しましたニャ」

「じゃあ仮名はルゥで」

俺は折れた。


クリフさんが最終案を口述する。

受付長が書き取って、読み上げる。



◆ 掲示板用:里親募集(案)

•仮名:ルゥ(子犬/狼寄り混血の可能性)

•森で親が襲われ死亡。子が助けを求めてきたため保護。

•推定:幼齢(子犬相当)。外傷なし、栄養不足気味。

•性格:臆病だが人を見て助けを求める賢さあり。抱くと落ち着く。

•注意:強い物音や荒い接触を怖がる。慣れるまで静かな環境推奨。

•条件:引き取り希望者はギルドで面談。飼育経験者歓迎(犬・狼系)。

•引き渡し:当面はギルド預かり、もしくは一時預かりの協力者募集。



「いいわね」

受付長が頷いた。

「これで掲示板に出す。引き取り希望が出たら、私からミレイアたちに連絡する」


俺は思わず言った。

「……俺ら、登録してないけど、依頼できるの?」

受付長は即答。

「できるわ。これは“保護の届け出”と“募集の掲示”。

登録が必要なのは、報酬が絡む依頼と、常設の斡旋。

あなたたちは今は“保護者”。それで十分」


よっしーがガッツポーズ。

「よっしゃ! 登録まだでもOKや!」

「うるさい」


クリフさんが礼を言う。

「助かる。……それと、オークの集落の動きについて報告もしたい」

受付長の目が鋭くなる。

「それは奥で聞く。――レオル、ナタル、来なさい」

事務の顔から“危機管理”の顔へ一瞬で変わった。



◆ 掲示板に貼られる瞬間――小さな命が“町の話題”になる


ミレイアが掲示板の前へ連れていき、紙を貼る。

釘でトントン。

紙が壁に固定されると、そこに“ルゥ”の居場所ができたみたいだった。


通りすがりの人が足を止める。

「子犬?」

「狼っぽいって?」

「かわいいじゃない」

「でも森の子か……」


噂はすぐ広がる。小さな町はそういうものだ。


フィオが子犬を覗き込み、そっと言った。

「ルゥ、ここは怖くないよ。

今日は、ちゃんと寝られる場所がある」


あーさんが頷く。

「ええ。縁が、ほどけぬように」

鈴が小さく鳴った。


子犬――ルゥが、短く鳴いた。

「クゥ」


俺は息を吐いて、よっしーを見る。

「……とりあえず、第一段階クリアだな」

「せやな。ほな、休憩タイム第2ラウンドいこか」

「お前の人生、休憩多いな」

「休憩は正義や」



◆ 休憩タイム!!(ギルドの片隅で)


ギルドの隅の休憩卓を借りて、俺たちは腰を下ろした。

ミレイアたちも一緒だ。

さっきまで殺し合いしてたのに、今は湯気の立つ飲み物とパン。

この切り替えの速さが、“冒険者の町”っぽい。


よっしーがニヤリと笑う。

「ほな、驚きの第2弾いくで」

また虚空庫から出てくる袋、箱、カップ。


ミレイアが即反応。

「また出た! それ、さっきの魔法の麺!」

カイが目を輝かせる。

「ギルドで配ったら絶対流行る……」

ナタルが冷静に言う。

「保存と物流を変える。……危険な文明」


「危険て」

俺が笑うと、よっしーが胸を張った。

「文明はいつも危険なんや」


あーさんが丁寧にカップを見つめる。

「この器……捨てる前提の贅沢……。

けれど、旅の者には、どれほど助かることか」

明治の価値観の“すごさ”が、ここでも出る。


ニーヤが尻尾をぶんぶん。

「我が主人あるじ、次はどの味ですニャ!」

ブラックは「……」とだけ鳴いて、俺の肩で微動だにしない。

でも匂いだけは吸ってる。ずるい。



◆ BGM:ラジカセ、ギルドで鳴る(控えめに)


よっしーがラジカセを机の端に置いて、小さめの音で再生した。

ギルドのざわめきに埋もれるくらい。

でも、耳を澄ますとギターが走る。


「これ、こないだのかっこいいやつだよね」

ミレイアが言う。


「せや。The Street Sliders。ギルドの空気にも合うやろ」

よっしーが得意げ。

確かに、木の床と酒の匂いと、冒険者の雑談に、妙に馴染む。


クリフさんが曲を一瞬だけ聴いて、静かに言った。

「ふむ……なかなか良いな。戦の後の気持ちの整理に向いている」


クリフ兄貴の評価、重い。


俺は息を吐く。

ギルド登録はまだ。

でも、依頼はできた。

ルゥの未来へ、ちゃんと橋をかけた。


あとは――いい縁が来るのを待つだけだ。


(……待つ、って言うと、また嵐が来そうだから言わない)


俺はカップ麺の蓋を閉じ直して、よっしーに言った。

「次は何する?」

よっしーは笑って、缶を振った。

「次? まずは腹を満たす。人生はそれからや」


あーさんが微笑む。

「ええ。温かいものは、人の心を守ります」

ニーヤが頷く。

「我が主人あるじ、あっしもお腹守りますニャ!」


ブラックが小さく「……」と鳴いた。

それはたぶん、同意だ。




後書き


今回、ユウキたちはギルドに“里親募集”を依頼し、ルゥ(仮名)に町での居場所を作りました。

登録はまだ――それでも、できることはある。

小さな命を巡る“縁”が、どんな未来へ繋がるのか。次回も見守っていただけると嬉しいです。

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