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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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町の冒険者に案内されて ―― “のら犬”の歌と、カップ麺の衝撃

《主人公・相良ユウキの視点/本編》


オークの気配が完全に引いたのを確認して、ようやく俺は息を吐いた。

焚き火は半分崩れて、鍋はひっくり返ってないだけマシ。地面には足跡と、折れた枝と、転がる骨飾り。さっきまでここが“キャンプ”だったことが嘘みたいだ。


「……助かった。マジで」

俺が言うと、槍士の青年――レオルが肩で笑った。


「礼は町でいい。ここは長居しない方がいいぞ。

あいつら、逃げた連中がまた別の群れを呼ぶ可能性がある」


盾の女戦士ミレイアが、俺たちの焚き火跡を見て目を丸くする。

「それにしても、こんなとこで野営って……度胸ありすぎ。

ギルドが見たら怒るよ?」


「俺もそう思う」って言いかけて、よっしーが横から入った。

「いや、怒る前に褒めてほしいわ。生き延びたし」

「生き延びたのは、運もあるよ」

ナタルが眼鏡を押し上げて、冷静に言う。

「あと、判断が速い人がいる。……あの弓と剣の人」


クリフさんが軽く会釈した。

「クリフだ。君たちの連携も見事だった。感謝する」

言い方が“戦場の礼”で、やっぱり兄貴だ。


カイが、あーさんの腕の中の子犬――いや、狼寄りの“子”を見て、ふっと表情を柔らげた。

「……その子、森の子だね。よく連れてきたな」

フィオが近づいて、膝をつく。

「怖かったね。お水、飲む?」

子は小さく「クゥ」と鳴いて、でもフィオの手には飛びつかず、あーさんの胸に顔を埋めた。


あーさんが、優しく背を撫でる。

「大丈夫でございます。皆さま、優しい方でございますよ」

子は震えを残しながらも、少しだけ落ち着いた。


よっしーが周囲を見回して、ぽつり。

「……ほな、町まで案内してもらえるんか?」

レオルが頷く。

「うちの町は、ここから南に半日もかからない。小さいけど、宿も風呂もある。

君たち、今のままだと匂いでまた追われるぞ」


「匂い言うな!」

俺が反射でツッコむと、ミレイアが笑った。

「言うよ。言うけど、悪い意味じゃない。冒険者はみんな同じ匂いするし」

「いや、悪い意味だろそれ」


クリフさんがすっと前に出た。

「では移動しよう。負傷者の確認をして、荷をまとめる。

ユウキ君、歩けるか?」

「……歩ける。多分」

「多分は禁止だ」

「はい」


ニーヤが尻尾を揺らして、胸を張った。

「我が主人あるじ、あっしが周りを見ますニャ。ブラック殿も一緒ですニャ」

ブラックは「……」とだけ鳴いて、肩の上でいつもの顔。

頼もしいのに、腹立つ。



◆ 小さな町へ――“近くの冒険者”の距離感


移動が始まると、レオルたちは慣れた歩き方で先導した。

道と言うほど整ってない森道を、迷いなく進む。

“この辺の冒険者”ってだけで、安心感が段違いだ。


「君ら、旅人か?」

カイが横に並んできて聞いてくる。

「まぁ、そんな感じ」

「そっちは?」

「俺らは町のギルド所属。普段は薬草採取とか、護衛とか、オークの見回りとか」

「見回りであれだけ動けるの、普通にすげぇな」

「いや、今日はたまたま。……でも、あの規模はヤバい」

カイが目を細めた。


ナタルが会話に混ざる。

「集落が動いたのは、食料不足か、縄張り争いか……

それか“誰か”が煽ってる可能性もある。最近、妙にまとまってるのよ」

クリフさんが頷いた。

「統制の匂いがした。野生の暴力ではない」


ミレイアが明るく肩を回す。

「難しい話は町で! まず休もう!

君たち、昨日も野営でしょ? 今日はベッドの日!」


よっしーが食いつく。

「ベッド! 最高や!」

俺も同意しかない。

「マジで最高」


あーさんが微笑んだ。

「皆さまが無事で、何よりでございます」

その言葉に、フィオが頷く。

「ほんとに。……あ、あーさんって呼んでいいですか?」

「ええ、どうぞ。フィオさん」

丁寧な返しに、フィオの顔がぱっと明るくなった。


ニーヤが小声で俺に言う。

「我が主人あるじ、この人たち、良い匂いですニャ。血の匂いが薄いですニャ」

「それ、褒めてる?」

「褒めてますニャ」



◆ 到着――“小さな町”の灯り


森を抜けると、低い丘の先に小さな町が見えた。

城壁があるほど大きくない。けど、柵と見張り台はある。

夕方の灯りがぽつぽつとついて、煙突から煙が上がっている。


「着いた。ここが俺らの町、“リュネッタ”だ」

レオルが言う。


「リュネッタ……」

俺が呟くと、よっしーがうなずく。

「ええ響きやな。ちっちゃい町って、落ち着くねん」

「お前、都会の方が好きそうなのに」

「都会は酒が高いからな」

「そこかよ」


町へ入る前に、クリフさんが全体を見て短く指示を出した。

「列を崩すな。子は真ん中。周囲の視線に慣れてない」

ミレイアが「了解!」と軽く返し、フィオがあーさんの横に付く。

自然に隊列が整う。

……この人、ほんと指揮が上手い。


門番がこちらに気づいて、緊張した顔をしたが、レオルたちを見てすぐ表情が変わる。

「レオル! ミレイア! 無事か!」

「無事! それより報告がある!」

「あと、旅人を拾った!」

ミレイアが元気に言うと、門番が俺たちを見て目を見開いた。

「……拾ったって言い方!」


町の空気は、戦場のそれじゃない。

人の声。鍋の匂い。子どもの笑い声。

それだけで、肩の力が抜けそうになる。



◆ 休憩タイム――よっしーの“89アイテムボックス”炸裂


ギルドに行く前に、レオルが「裏の休憩所を使え」と言ってくれて、俺たちは町外れの屋根付きスペースに通された。

水桶と椅子。粗いけど清潔。

風が抜ける。


「はぁ……生き返る」

俺が椅子に沈むと、よっしーが指を鳴らした。


「ほな、休憩タイムや!」

虚空庫アイテムボックスから出てきたのは――


ポテトチップスみたいな袋。

チョコ菓子。

そして、見慣れた“カップ”。


「……おい、まさか」

俺が言うより早く、ミレイアが覗き込んだ。

「なにこれ? 小さい鍋?」

ナタルも眼鏡越しに凝視する。

「容器が紙……? これに食べ物?」

カイが言う。

「え、これ、持ち運び用の飯? すご」

フィオが小さく感嘆する。

「匂いが……香辛料の匂いがする……」


よっしーがにやり。

「これがな、カップ麺いうやつや」

俺が補足する。

「お湯注いで、数分待つだけで食える」

「数分!? 魔法みたい!」

ミレイアが目を輝かせた。


あーさんが、まるで宝物を見る目で言う。

「まぁ……! お湯だけで……麺が……!?

これは……“即席”というやつでございますか……。文明、恐ろしゅうございます……!」

明治の驚き、でかい。


クリフさんは落ち着いているが、容器の構造に興味津々だ。

「軽い。割れない。蓋が付いている。……戦地でも使えるな」

兄貴、発想が兵。


ニーヤが匂いを嗅いで尻尾をぶんぶん。

「我が主人あるじ! すごい匂いですニャ! あっし、これ食べたいですニャ!」

「熱いからダメ」

「待つですニャ……!」


ブラックは「……」と俺の肩で小さく鳴いた。

こいつも匂いに反応してる。


よっしーが得意げに言う。

「せやろ? ほな、お湯いこか」

虚空庫から金属ポットと水を出して、火……じゃなく、なぜか小さな携帯コンロも出す。


レオルが呆然。

「……お前ら、何者だよ」

「旅人や」

よっしーが即答。

「旅人って便利すぎない?」

ミレイアが笑う。


湯が沸いて、カップに注がれる。

蓋を押さえ、待つ。

その“待つ時間”さえ、みんなで覗き込むから面白い。


「……今、麺が生まれてる」

カイが真顔で言った。

「生まれてるって言うな」

ナタルがツッコむ。

でも、口元が緩い。


時間が来て、蓋を開けた瞬間、湯気が立った。

香りが広がる。


「うわ……」

ミレイアが声を漏らす。

「いい匂い……」

フィオが目を細めた。


よっしーが箸を渡す。

「はい、どうぞ」

「あ、箸……それも軽い……」

レオルが受け取って、恐る恐る一口。


……固まった。


「……うま」

言葉が短い。


ミレイアも食べて、目を見開く。

「なにこれ! なんでこんな簡単にこんな味になるの!」

ナタルは冷静に一口食べてから、静かに言う。

「……保存食の革命ね」


カイが嬉しそうに笑う。

「町の外でこれ食えたら、ずっと遠く行けるな……」

フィオが小さく頷く。

「怪我人にも、温かいものがすぐ出せる……優しい食べ物です」


あーさんが慎ましく一口。

そして、両手で口元を押さえた。

「……まぁ……! これは……“屋台の麺”が……手の中に……!」

語彙が追いついてないのが可愛い。


ニーヤは待ちきれず、俺を見上げて訴える。

「我が主人あるじ! 一口だけですニャ!」

「……熱いから、ふーふーしてからな」

「やったですニャ!」

子犬も匂いに反応して、鼻をひくひくさせた。

「クゥ」

「お前はダメ。まだ子だ」

「クゥ……」

しょんぼりするの、ずるい。



◆ BGM――The Street Slidersが、焚き火の代わりに鳴る


休憩所の空気がすっかり柔らかくなった頃。

よっしーが、あのラジカセを「よいしょ」と置いた。


「ほな、次はこれ。相性ええやつ」

カチャ、とカセット。

再生ボタン。


少し渋い、都会の夜みたいなギターが流れ出す。

The Street Sliders――『のら犬にさえなれない』。 


ミレイアが目を輝かせた。

「なにこの音! 町で聞く音楽と全然違う……なんか

かっこいい!」

レオルは少し笑って言う。

「お…音の洪水だ、…スゲー!!」


そしてクリフが「ふむ……旅人というより、放浪者だな」…とよっしーを見ると、

「褒め言葉やで」…とよっしーが即答。


俺は、曲名を聞いて、あーさんの腕の中の子犬を見た。

“のら犬”。

笑えないのに、変に合ってる。


クリフさんが、少し遠くを見るように言った。

「……だが、この子は“のら”ではない。

今は我々が連れている。町へ着いた。

それだけで、もう違う」


あーさんが小さく頷く。

「ええ。縁が、ここにございます」

ニーヤが胸を張る。

「我が主人あるじの眷属……ではないですニャ? でも、仲間ですニャ!」

「そうだな」

俺は短く笑った。


ナタルが「……やっぱり報告を急いだ方がいい」と現実へ戻す。

「オークの動きは町にとって危険。ギルドに話しましょ」

レオルが頷く。

「案内する。休憩したら、ギルドへ行こう」


クリフさんが立ち上がり、周囲を見て言った。

「よし。行動をまとめる。

君たちは町の者だ、道中の注意点を教えてほしい。

こちらは――子と千鶴殿を中心に守る。私とニーヤ殿が警戒。

よっしー殿は物資管理。ユウキ君は隊列維持」


指示が短くて、誰も迷わない。

ミレイアが「了解!」と笑い、レオルが「助かる」と返す。

ナタルは頷いて、カイは「隊列、任せて」と弓を背負い直す。

フィオは子犬の様子を見て、そっと微笑んだ。


――焚き火はない。

でも、いまここには“輪”がある。

町の冒険者たちが加わって、少し大きくなった輪が。


The Street Slidersが鳴る中、俺はカップ麺の残り香を吸って、息を吐いた。

次はギルド。次は報告。次は――たぶん、また嵐。


でも…

こういう夜もある。

そう思えるだけで、今日はもう十分だった。


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