ユニコーンの祝福
はじめに
ジャミトルとの激闘を終え、ユニコーンの命を救いしユウキたち。
されど、安息の時は短かりき。
ジャミトルの側近グラウは敗北を喫したまま逃亡し、その屈辱を晴らすべく、新たな力を手に入れ再びユウキたちの前に立ちはだかる。
暗殺ギルドの精鋭、そして卑劣なる手段をも厭わぬごろつきども。
彼らはクリフが激怒するほどの罠を張り巡らせ、ユウキたちの絆を打ち砕かんと企んでいた。
これぞ、卑怯なる闇に立ち向かう、勇気と友情の物語
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ジャミトルとの激闘の果て
ジャミトルとの死闘を終え、ユニコーンを救いし夜。
谷間にはようやく静寂が戻り、夜空には雲一つない満月が白く輝いていた。
あーさん――相沢千鶴は、ユウキの腕の中で静かに眠っていた。
ユニコーンは白銀の毛並みに光を宿し、ゆっくりと立ち上がると、傷を負ったヨッシーとフレリーヌの元へと近づいた。
「……ユニコーン……」
ヨッシーはその光に包まれ、痛みがすうっと引いていくのを感じる。
ユニコーンはふたたびユウキのもとへ。
「……キミはもう大丈夫だよ」
ユウキはその鬣を優しく撫でた。
角から放たれた光が彼の身体を包み、右腕に宿るイシュタムの魂をさらに強固にする。
それは感謝の証のように温かかった。
その時、谷間の入口からクリフたちが駆け込んでくる。
「ユウキ君!無事か!」
「ニャン!すごい魔力の残滓ニャ!」
彼らは倒れ伏すジャミトルを見て息を呑んだ。
「……これが、ジャミトル……!」
「はい。闇の商人《銀狼のゾルグ》の頭目です」
ユウキは経緯を語った。あーさんが魂を覚醒させ、ジャミトルを鎮めたこと。
そして、側近グラウが逃亡したこと。
クリフはあーさんの無事を確かめ、静かに涙を滲ませた。
「……よかった。本当に、よかった……」
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グラウの復讐
その翌朝。
ジャミトルの身体は氷のように冷たく、意識は戻らない。
「……呪いが、身体を蝕んでるニャ」
ヨッシーが診た結果は重かった。
衛兵に引き渡そう――と決まり、彼らは村へ戻る。
だがその頃、敗走したグラウは荒れ果てた森の奥で咆哮していた。
「くそ……あの小娘に……!この私が!」
怒りと屈辱の渦。
彼は暗殺ギルドの根城、無法の街へ辿り着き、頭目ヴァロニスに膝を折る。
「……力を貸していただきたい。必ず復讐してみせます」
ヴァロニスは薄笑いを浮かべ、一振りの短剣を差し出した。
刃は不気味な紫色に光っている。
「この毒を使え。ユニコーンの角すら蝕む」
グラウはそれを受け取り、誓った。
「必ず……あの人間どもを地獄に突き落としてみせます!」
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再び迫る影
ユニコーンを救い、村に戻ったユウキたち。
村人たちは英雄として迎えたが、あーさんの表情は晴れない。
「……ユウキさん、わたくしの力は恐ろしゅうございました。あの光が、わたくしを飲み込みそうで……」
「大丈夫だよ。俺が、あーさんを守るから」
彼女の手を握るユウキ。
そこへクリフの声が飛ぶ。
「ユウキ君、村長が呼んでおられる」
村長はユニコーンを守った礼として、一枚の巻物を差し出した。
それは森の安寧を守るための特別依頼書だった。
「森の魔物が荒れ始めておる。頼む、森を鎮めてくれ」
ユウキは頷いた。
「わかりました。我々にお任せください」
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罠の森
夜。
再び森へと入ったユウキたちは、途端に異様な気配に包まれた。
「……ニャニャ!嫌な予感がしますニャ!」
「罠の匂いがする」
クリフの言葉と同時に、足元から矢が飛び出す。
刃先は紫に輝いていた。
「毒矢か!」
影が森の中からぞろぞろと現れる。
グラウ、ヴァロ、ゲバ、そして暗殺ギルドの精鋭たち。
「今度は逃がさねえぞ、ユウキ!」
「グラウ……!」
グラウの手の短剣が、あーさんの背後めがけて放たれた。
「危ない!」
しかし刺さったのは――フレリーヌ。
「わ、さ……!」
小さな身体から紫の煙が立ち上る。
「……フレリーヌ!!」
「この毒はユニコーンすら殺せる。お前らは終わりだ!」
怒りに震えるクリフが叫んだ。
「グラウ……貴様……許さん!」
「黙れ! お前ら、やれ!」
「黙れと言っている!!私はまだ三十四歳だッ!!」
森が揺れた。
クリフの拳がグラウを撃ち抜く。
側近たちは逃げ散り、ユウキは叫ぶ。
「ユウキ君、早よ行け!あーさんを追え!」
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水流の舞と鋼鉄の咆哮
森の奥、フレリーヌを抱いたあーさんが包囲されていた。
掌から迸る水の光――イシュタムの魂と融合した水流が、渦を巻く。
「あなた方には、わたくしの邪魔はさせません!」
「水流の舞!」
巨大な水竜巻が敵を薙ぎ払い、木々を濡らす。
だが背後から忍び寄る影。
その瞬間、轟音が森を切り裂いた。
「ブォォォン!」
「おう、ユウキ!遅れてすんまへ〜ん!!」
鋼鉄の咆哮と共に、ヨッシー登場。
二つの車輪を持つ未知の乗り物――バイクが森を駆ける。
「これが1989年の魂や!!」
轟音と共にごろつきを吹き飛ばし、バイクを巧みに操るヨッシー。
恐怖した敵が逃げ惑う中、ユウキはグラウへ跳ぶ。
「覚悟しろ、グラウ!!」
右腕の光が閃き、ヨッシーのバイクがサイドからぶつかる。
「ぐああああああ!!」
グラウは絶叫し、木に叩きつけられ、静寂が戻る。
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フレリーヌの花
だが――フレリーヌの小さな命は救えなかった。
あーさんはその身体を抱きしめ、震える声で呟く。
「……毒が深すぎます。わたくしの力では……」
ユウキは拳を握り、ただ空を見上げた。
翌朝。
谷間の花畑に、小さな墓が立てられる。
ユニコーンが角を掲げ、柔らかな光を放った。
墓を包む光が、一輪の白い花を咲かせる。
それは彼女の勇気そのものだった。
そして――谷の奥から、月光をまとった少女が現れる。
「……ルナ!」
夜想の洞窟の守護者。
ルナは静かに言った。
「フレリーヌの魂はユニコーンと共に、この森に宿るでしょう」
あーさんは涙を拭い、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……」
クリフが肩を叩く。
「ユウキ君、そろそろ行こう」
「……ええ。参りましょう」
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天国への道
谷を抜ける頃。
よっしーのラジカセが「カチッ」と鳴った。
ノイズのあと、柔らかなイントロ。
Ooh, baby, do you know what that’s worth…
Heaven is a place on earth.
風が歌声を運び、朝霧の森に溶けていく。
「……天国は、この地上にある、か」
クリフが呟き、空を見上げた。
よっしーは笑って肩をすくめる。
「せやろ? フレリーヌが見せてくれた天国、たぶん、ここや」
あーさんの二鈴が、風に合わせて鳴った。
「ええ……まこと、よき響きにございます」
ラジカセの音がフェードアウトしていく中、
ユウキたちは新たな道を歩き出した。
光と影の狭間で、彼らは確かに感じていた。
――“Heaven” は、いま、この地にあると。
あとがき
ユニコーン編のクライマックスは、グラウの復讐という新たな脅威、そしてフレリーヌとの悲しい別れという、大きな転換点を迎えました。
あーさんの水流操作の覚醒、ヨッシーのバイクによる奇襲、そしてクリフさんの怒り。
それぞれの仲間が、それぞれの能力と信念で戦い、困難を乗り越えていく姿を描きました。
特に、明治の世に生きたあーさんが、ヨッシーのバイクに驚く描写は、異世界転生ならではの面白さを表現できたかと思います。
フレリーヌとの別れは、ユウキたちにとって大きな悲しみでしたが、それは同時に、彼らがこの世界で生きていく上での、新たな決意と成長を促すものでした。
ユニコーンとルナの見送りは、彼らの旅が、この世界との深い繋がりの中で続いていくことを示唆しています。
物語は、ジャミトルを倒したものの、その背後に潜む真なる闇の存在へと、いよいよ焦点が移っていきます。
ユウキたちの旅は、まだ始まったばかり。
彼らが次にどのような試練に立ち向かい、どのように成長していくのか、どうぞご期待ください




