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真なる敵

はじめに

夜想の洞窟より戻りしユウキが目にしたるは、血に塗れ倒れ伏すよっしーとフレリーヌ、そして呪いの矢に苦しむユニコーンの姿であった。

事態は最悪。されど、絶望の淵に立たされた彼らの前に、真なる敵が姿を現す。


闇の商人「銀狼のゾルグ」の頭目、ジャミトル。

その圧倒的な魔力に、ユウキたちの希望は打ち砕かれんとしていた。


しかし、その時、ユウキの仲間であるあーさんの内に秘められし、イシュタムの魂が覚醒する。

これぞ、ユニコーンの命を賭けたる戦いの、最終局面である。






静まり返りし谷間に、突如として不穏なる空気が満ちていく。

夜想の洞窟より月の涙を手に戻りし俺、ユウキは、その異様なる気配に身を硬くした。

水晶の如く澄みし川の水面が、ざわめき、凍りつき始める。

そして、花畑の中央に横たわるユニコーンの前に、二つの影が立っていた。

「……よっしー!フレリーヌ!」

駆け寄れば、ヨッシーは腹部より血を流し、フレリーヌも翼を傷つけられて地面に横たわっていた。

二人は、ユニコーンを守るために戦ったのであろう。

されど、その力及ばず、倒れてしまったようだ。

「……ユウキ…遅いやんけ……」

ニーヤは、苦しげにそう呟くと、再び意識を失った。

「くそっ……!」

俺は拳を握りしめ、二つの影を睨みつけた。

一人は、背が高く痩身で、どこか貴族のような気品を感じさせる男。

そしてもう一人は、筋肉質な体格をした大柄な男。

二人の間に、銀色の光を放つ魔剣が浮かんでいる。

その男こそ、闇の商人「銀狼のゾルグ」の頭目、ジャミトル。

そして、その横に立つ男が、彼の側近、グラウであろう。

「おや、もう一人いたとはね。しかし、所詮は愚かなる人間。ユニコーンの角を狙う我々の邪魔をするとは、愚の骨頂だ」

ジャミトルは、透き通るような声で、嘲るように言った。

その声は、ひどく冷たく、まるで氷そのもののようであった。

「あなた方が、盗賊どもの仲間でございますか…!ユニコーンを…ユニコーンをどうなされるおつもりで!」

俺は、怒りを込めて叫んだ。

「どうするつもり、だと?決まっているだろう。ユニコーンの角を切り取り、不老不死の妙薬として売り捌くのだ。ユニコーンの角は、ただの角ではない。生命の根源を司る、奇跡の結晶。これがあれば、我々の富は、永遠のものとなる」

ジャミトルは、歪んだ笑みを浮かべ、ユニコーンへと近づいていく。

「おやめなされ!」

俺は叫び、ジャミトルに駆け寄ろうとした。

しかし、その前に、グラウが立ちはだかる。

「グルルル…」

グラウは、獣のような唸り声を上げ、俺に向かって、真っ直ぐに突進してきた。

その速度は、人間とは思えないほど速い。

俺は、ナイフを構えるが、グラウの動きはそれを遥かに凌駕していた。

一瞬のうちに、グラウは俺の懐に入り込み、俺の腹部に、硬い拳を叩き込んできた。

「ぐっ……!」

俺は、呼吸が止まり、その場にうずくまった。

グラウは、俺を一瞥すると、ジャミトルの元へと戻っていく。

その男は、まるで、俺を相手にする価値もない、と言っているようであった。

「愚かなる人間よ。ユニコーンの命は、もうすぐ尽きる。そして、その角は、我々のものとなる」

ジャミトルはそう言って、掌をユニコーンの角に向けた。

「アイスシクル・ランス」

ジャミトルが呪文を唱えると、その掌から、鋭い氷の槍が、無数に生み出され、ユニコーンの角へと飛んでいく。

盗賊たちの末路

一方、泉のほとりに身を潜めていたクリフたちも、不穏なる魔力の高まりを感じ取っていた。

そこへ、息を切らせて逃げてきた二つの人影が飛び込んできた。ゲバとヴァロだ。

「ちくしょう、なんだあの化け物みたいな奴らは!」

「もうダメだ、逃げろ!」

二人は恐怖に怯え、後方より迫るジャミトルの気配に気づいていない。

「…お前たち、もう一度ユニコーンに手を出すつもりか?」

クリフさんの声が、背後より響く。

ヴァロが振り返れば、そこにクリフさん、ニーヤ、ブラックの三人が立っていた。

「な、なんだテメエら!」

ヴァロが斧を構えるが、クリフさんの表情は怒りに満ちていた。

「お前たちがユニコーンを呪いの矢で傷つけたのは、決して許されぬことだ」

クリフさんが一歩踏み出せば、ヴァロの身体が震えだす。

「フン!雑魚が何だ!」

ゲバが弓を構えるが、その矢が放たれるより早く、ニーヤが呪文を唱えた。

「フレアイリージョン!」

ニーヤの魔法は、猫の鳴き声とともに、ゲバの足元に小さな猫の形をした炎の幻影を生み出す。

ゲバが猫の幻影に気を取られた一瞬、ブラックがその背後より飛び出し、ゲバの弓を両断した。

「な…に…!」

「これで終わりだ」

クリフさんが拳を握りしめ、ヴァロの顔面に渾身の一撃を叩き込んだ。

「ぐあぁ!」

ヴァロは呻き声を上げ、そのまま地面に倒れ込む。

「ニャハハ、お仕置きは終わりニャン!」

ニーヤが呪文を唱えれば、無数の炎が現れ、ヴァロとゲバの身体を、炎の鎖でぐるぐると縛り上げた。

「ぎゃあーー!」

「あちちち、くそ…覚えてやがれ…!」

二人の盗賊は、身動きが取れないまま、悔しげに叫んだ。

クリフさんは、そんな二人に一瞥もくれず、谷間の奥へと目を向けた。

「ユウキ君…無事でいてくれ」

「させませぬ!」

俺は、再び立ち上がろうとするが、腹部の激痛がそれを阻んだ。

その時であった。

俺の後ろより、一つの影が、ジャミトルの前に躍り出た。

「ユウキ様…!」

そこに立っていたのは、あーさんであった。

彼女は、俺の前に立ち、ジャミトルとグラウを、強い眼差しで睨みつけている。

いつもは、少し頼りなく、臆病な彼女からは想像もつかぬ、強い覚悟がそこにはあった。

「あーさん…!危ない!お逃げなされ!」

俺は、叫んだ。

しかし、あーさんは、俺の言葉を無視し、ジャミトルに、たった一人で立ち向かおうとしていた。

「また、愚かな人間が。ユニコーンを守りたいか?ならば、その身で、この魔力に耐えてみろ」

ジャミトルは、再び、アイスシクル・ランスを放つ。

あーさんは、その無数の氷の槍を前に、静かに目を閉じた。

「…どうか、お力をお貸しくださいまし…!」

あーさんが、心の中でそう願った瞬間、彼女の身体より、まばゆい光が放たれた。

「な…なんだ、これは…!」

ジャミトルは、驚きに目を見開いた。

あーさんの身体を包む光は、次第に銀色に輝き、彼女の髪の色も、銀色へと変わっていく。

そして、その瞳は、まるで月そのものを宿したかのように、深い銀色に光っていた。

あーさんの背後には、月光を浴びたユニコーンの幻影が、ゆらめいている。

「…イシュタムの…魂…!」

ジャミトルは、信じられぬ、といった表情で、そう呟いた。

あーさんの身体より放たれる銀色の光は、ジャミトルの放ったアイスシクル・ランスを、一瞬にして、霧散させた。

「ユウキ様…!よっしー様…!フレリーヌ…!ユニコーンを、これ以上傷つけさせるわけには参りませぬ!」

あーさんの声は、力強く、そして、どこか神聖な響きを持っていた。

彼女は、その掌に、銀色の光を宿すと、ジャミトルに向かって、それを放った。

「ライトニング・ジャッジメント!」

あーさんが、呪文を唱えれば、銀色の光は、雷と化し、ジャミトルに向かって、真っ直ぐに飛んでいく。

「チィッ…小癪な!」

ジャミトルは、慌てて、防御魔法を展開する。

「アイス・ウォール!」

巨大な氷の壁が、ジャミトルの前に出現する。

しかし、あーさんの放ったライトニング・ジャッジメントは、その氷の壁を、音もなく貫通し、ジャミトルの身体を、直撃した。

「ぐああああああ!」

ジャミトルは、絶叫し、地面に倒れ込んだ。

グラウは、驚きに固まり、その場に立ち尽くしている。

「…あーさん…!」

俺は、その信じられぬ光景を、ただ呆然と見つめていた。

あーさんは、ジャミトルを倒すと、その身体より放たれる光を、ユニコーンへと向けた。

ユニコーンの背中に刺さった呪いの矢が、まるで氷のように溶けていき、傷口が、ゆっくりと塞がっていく。

そして、ユニコーンの角に宿る、呪いの魔力も、浄化されていった。

「う、嘘だ…!この私が…こんな小娘に…!」

ジャミトルは、地面に倒れたまま、信じられぬ、といった表情で、あーさんを睨みつける。

その時、グラウは、ジャミトルを助けることなく、そっと、その場より後ずさり、闇の中へと消えていった。

グラウは、ジャミトルの敗北を悟り、逃げ出したのだ。

「フン…所詮は、雇われの身。忠誠心など、無意味だ」

ジャミトルは、グラウの背中を一瞥すると、憎々しげにそう呟いた。

そして、ジャミトルは、ゆっくりと、地面より立ち上がった。

「たしかに、お前の力は驚異的だ。だが…イシュタムの魂が、完全に覚醒したわけではない。この程度の攻撃で、この私が倒せると思ったか?」

ジャミトルは、そう言って、その身体より、再び、冷たい魔力を放ち始めた。

しかし、その魔力は、先ほどよりも、明らかに弱くなっている。

あーさんの攻撃は、ジャミトルに、大きな損害を与えたのだ。

「…ユニコーンは、あなた方にはお渡しいたしません」

あーさんは、再び、ジャミトルを睨みつける。

その銀色の瞳には、もう、一切の迷いも、恐怖もなかった。

「お前一人で、この私に勝てるとでも?ならば、見せてやろう。私の…真の力を!」

ジャミトルは、そう叫び、再び、掌を天に掲げた。

「ブリザード!」

ジャミトルの呪文に呼応するように、空より、巨大な氷の嵐が、谷間へと降り注いでいく。

「ユウキ様…!」

あーさんが、俺に叫んだ。

「あの氷の嵐は、わたくしが打ち破ります!その間に、ユウキ様は…!」

あーさんは、そう言って、全身より、まばゆい光を放ち、氷の嵐に向かって、飛び立っていった。

「サンクチュアリ・フォース!」

あーさんの放った光の壁は、氷の嵐を、すべて受け止め、打ち砕いていく。

しかし、その力は、あまりにも強大で、あーさんの身体が、少しずつ、光に侵食されていく。

「あーさん…!ダメだ、それ以上…!」

俺は、叫んだ。

しかし、あーさんは、俺の言葉を聞くことなく、ただひたすらに、氷の嵐を打ち砕き続けている。

その顔には、苦痛の表情が浮かんでいるが、それでも、彼女は、決して、諦めることはなかった。

その時、倒れていたヨッシーが、かすかに目を開けた。

「……あれは…!」

ヨッシーは、あーさんの身体より放たれる光を見て、驚きに目を見開いた。

「あれは…イシュタムの魂の力。だが、魂の力が、まだ完全に安定していないニャ。このままでは、あーさんの身体が、もたないニャ!」

ヨッシーの言葉に、俺は絶望した。

あーさんは、ユニコーンを守るために、自らの命を削っている。

そして、その原因を作ったのは、この俺だ。

俺が、もっと強かったなら…あーさんに、このような思いをさせることはなかったであろう。

その時、俺の右腕に、かすかに光が宿った。

それは、イシュタムの魂が、俺に与えた力。

「…そうか…!この力は…」

俺は、自分の右腕に宿る光を見て、叫んだ。

「俺は…俺は、ただの傍観者なんかじゃない!この力は…あーさんを助けるために、俺に与えられた力だ!」

俺は、ジャミトルに、再び、目を向けた。

ジャミトルは、あーさんの身体が光に侵食されていくのを見て、嘲るように笑っている。

「愚かなる娘よ。ユニコーンの角と、その命、どちらかを選べ」

ジャミトルはそう言って、再び、魔力を高めていく。

「フリーズ・ソリッド!」

ジャミトルが、呪文を唱えれば、谷間の大地が、凍りつき、巨大な氷の柱が、いくつも生み出された。

「…させるか!」

俺は、右腕に宿る光を、ジャミトルへと向けた。

「ブレイク・カース!」

俺が呪文を唱えれば、俺の右腕より、光の球体が、ジャミトルに向かって、飛んでいく。

それは、呪いを打ち砕く、浄化の光。

「な…なんだと…!?」

ジャミトルは、俺の放った光の球体に、驚きに目を見開いた。

ジャミトルが、俺を相手にする価値もないと、侮っていたからだ。

光の球体は、ジャミトルの身体を直撃し、ジャミトルの身体より、呪いの魔力が、少しずつ、浄化されていく。

「ぐああああああ!」

ジャミトルは、絶叫し、再び、地面に倒れ込んだ。

その隙に、俺は、あーさんの元へと駆け寄る。

あーさんの身体を、銀色の光が、今にも飲み込もうとしている。

「あーさん!しっかりなされ!」

俺は、あーさんの身体を抱きしめ、俺の右腕に宿る光を、あーさんの身体へと流し込んだ。

俺の光は、あーさんの光と呼応し、二つの光が、一つになった。

そして、あーさんの身体を蝕んでいた光は、浄化され、あーさんは、俺の腕の中で、意識を失った。

「…やった…のか…?」

俺は、その信じられぬ光景を、ただ呆然と見つめていた。

ジャミトルは、地面に倒れたまま、動かない。

そして、ユニコーンも、静かに、横たわっている。

すべては…終わったのであろうか。








あとがき

ユニコーンを巡る戦いは、ついに決着を迎えました。

闇の商人ジャミトルの圧倒的な力に対し、ユウキは自らの力を覚醒させ、そして、あーさんもまた、イシュタムの魂を覚醒させることで、その脅威を打ち破りました。

しかし、これで全てが解決したわけではありません。

ジャミトルは倒れたものの、その側近グラウは逃げ、そして、ジャミトルの背後にいる、真なる闇の存在は、まだ、姿を現していません。

このユニコーン編は、ユウキたちの新たな旅の始まりに過ぎなかったのです。

次章では、この戦いを経て、ユウキとあーさん、そして仲間たちは、さらなる成長を遂げ、より大きな試練に立ち向かうことになります。

物語は、いよいよ、核心へと向かいます。次章の展開に、どうぞご期待ください。

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