表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/410

逃げたオークどもの逆襲 ―― 焚き火の輪に、援軍の縁



◆ のんびりキャンプ、輪の中の雑談


焚き火が起きて、鍋がかかる。

よっしーが虚空庫アイテムボックスから、相変わらず何でも出す。


「今日は軽めや。スープとパンと……あと、これ」

よっしーが取り出したのは、銀色の包みのチョコ菓子と、紙コースター。


「なんでコースターが標準装備なんだよ」

「雰囲気は大事やろ。焚き火の前は酒場や」

「ここ山だぞ」


クリフさんがパンを割りながら言った。

「……酒場、か。確かに、火を囲むと気が緩む」

「クリフさん、そういうの好きっすよね」

俺が言うと、クリフさんは少し困ったように笑う。

「嫌いではない。君たちといると、妙に安心する」


よっしーがニヤつく。

「ほらな。ユウキ、クリフの兄貴ムーブに甘えとき」

「お前が言うな」


あーさんはスープを木の器に注いで、丁寧に差し出してくれる。

「ユウキさん、火傷なさいませぬように」

……この人に“気遣い”されると、妙に背筋が正される。


子犬は器の匂いを嗅いで、短く鳴いた。

「クゥ」

ニーヤが嬉しそうに笑う。

「食べたいですニャ?」

「……ちょい待て、犬に熱いのは危ないだろ」

俺が言うと、あーさんが頷いた。

「少し冷ましてから、小さく。ね?」


よっしーがラジカセを取り出して、当たり前みたいに再生ボタンを押した。

ゴツい、1989年ごろのラジカセ。

焚き火の前に置かれると、もはや旅の守り神みたいに見える。

よっしーがラジカセを焚き火のそばに置き、

つまみを少しだけ回して再生する。


ユーミン――『ノーサイド』♪


少しざらついた音が、夜の空気に溶ける。

俺はスープを飲んで、ため息を吐いた。


「……なんか、ちゃんと旅してんじゃん!」

「せやろ? ええ夜や」

よっしーが言う。

クリフさんも頷く。

「うむ…嵐の後は静けさ……というのは、こういう時間のことかもしれない」


あーさんが鈴を胸元に寄せ、静かに微笑んだ。

「縁とは、火のようなものにございますね。温かく、皆を寄せます」

ニーヤも真面目に頷く。

「我が主人あるじ、あっしも……この輪が好きですニャ」


ブラックは俺の肩で目を細めている。

あいつが黙ってる時は、だいたい平和――


――だったら良かった。



◆ 影が増える。匂いが変わる。


ふっと、風向きが変わった。

焚き火の煙が横へ流れ、鼻に嫌な匂いが刺さる。

獣臭じゃない。汗と脂と、鉄の匂い。

そして――憎しみ。


ブラックがぴくりと反応して、耳を立てた。

ニーヤの尻尾も、固くなる。


「……来ますニャ」

ニーヤが小声で言う。

クリフさんは焚き火の向こうを見て、弓に手をかけた。

「足音が多い。……追ってきたか」


よっしーが立ち上がり、虚空庫に手を突っ込む。

「まさか、さっきのオークども……?」


答え合わせは、すぐ来た。


森の縁から、影が溢れ出す。

一体、二体じゃない。

十、二十……いや、もっと。


粗末な斧、棍棒、槍。

牙と鼻面。

唾を飛ばしながら、焚き火の光へじりじり近づいてくる。


「……全軍かよ」

俺の喉が勝手に鳴った。

逃げたオークどもが、集落に戻って“仲間を連れてきた”――そんな感じだ。


その中に、明らかに格の違う個体がいる。

肩に獣皮を巻き、首に骨の首飾り。

手には、錆びた大斧。

そして、周囲のオークがその前だけは一歩下がる。


「ボス……リーダー格」

クリフさんの声が低い。


よっしーが舌打ちする。

「うわ、嫌なやつおるやん」

あーさんは子犬を抱き締め、俺の背へそっと回す。

「ユウキさん、どうか……」

「分かってる。守る」


ニーヤが杖を構える。

「我が主人あるじ、囲まれますニャ。逃げ道、作るですニャ」

ブラックが、焚き火の光の中で小さく前へ出た。

“やる”って姿勢。


クリフさんが短く言う。

「鍵穴じゃなく蝶番だ。突破口を作って、退く」

真正面から全滅させる数じゃない。

――分かってる。分かってるけど。


「来るぞ!」

よっしーが叫んだ。



◆ 戦闘開始――それでも数が多すぎる


最初の波が押し寄せる。


クリフさんの矢が飛ぶ。

喉じゃない、目じゃない。膝、手首、肩。

動きを奪う射。倒さず、崩す射。


「はっ!」

クリフさんが剣に持ち替え、武器を払う。

踏み込みが軽い。

一体、二体、三体――オークが転がる。


だが、すぐ次が来る。

倒れた仲間を踏み台にしてでも、押し込んでくる数。


ニーヤが杖を振り上げた。

炎弾魔法ファイアボール!」

火球が飛び、先頭のオークの足元で炸裂。

熱と煙。視界が揺れる。

続けて、


風刃魔法ウィンドカッター!」

風の刃が走り、武器を握った手元を裂く。

致命じゃない、でも握れなくなる。


氷結棘魔法フロストニードル!」

細い氷が地面を走り、足元を滑らせる。

オークが転ぶ。

転んだところへ、よっしーがロープとタイラップで“絡め取る”。


「ほらほら、昭和の希望や!」

「戦場で昭和言うな!」


ブラックも動いた。

小さな身体のくせに、魔法の出が鋭い。


風が一瞬逆流して、オークの鼻先へ砂と灰を叩きつける。

咳き込み、目を擦る。

次に、白い毛並みの周りで水が弾けて、地面がぬかるむ。

足が取られ、突進が鈍る。


「……ブラック、やるじゃん」

俺が言うと、ブラックは一瞬だけこちらを見て、また前を向いた。

返事はない。だが“仕事はする”。


――それでも。


数が減らない。


ボス格が吠えると、後ろの連中が一斉に回り込む。

左右から。背後から。

包囲が狭まる。


「くっ……」

クリフさんが矢を放ちながら、後ろへ下がる。

「これ以上は、持久が利かない」


ニーヤが汗を拭い、声を絞る。

「我が主人あるじ、魔力……消耗が早いですニャ!」


よっしーが虚空庫から盾代わりの板や鍋蓋を出して、俺の前へ投げた。

「ユウキ、守れ! 千鶴さんと子犬!」

「言われなくても!」


オークの棍棒が飛んできて、地面に叩きつけられる。

土が跳ね、焚き火が崩れかけた。


「うわっ……!」

俺が身を引く。

――やばい。普通にやばい。


ボス格が前に出る。

俺たちの弱り具合を嗅ぎ取ったみたいに、ゆっくり、確実に。


「……詰んだ?」

俺の喉が乾く。


その時。


森の奥から、別の声が飛んだ。


「そこまでだ、緑の豚ども!!」


――人間の声。

それも、戦い慣れた声。



◆ 五人の冒険者、乱入――共闘へ


木々を割って飛び出してきたのは、五人。

装備はまちまちだが、動きが揃ってる。


先頭は槍使いの青年。

鎖帷子に、短いマント。目が鋭い。

「C級冒険者、“槍士”レオルだ!」


その隣、盾を構えた女戦士。

「同じくC級、“盾戦士”ミレイア!」

肩で息をしながらも、笑ってる。強い。


さらに後ろ、杖を持つ眼鏡の魔術師。

「C級、“術師”ナタル。……あぁもう、数が多い!」


そして、少し遅れて二人。

弓を持つ小柄な青年。

「D級、“斥候弓手”カイ! 追跡してきたら当たりでしたね!」

最後は、薬袋を抱えた回復役の少女。

「D級、“癒し手”フィオです! みなさん怪我、見せて!」


よっしーが驚いて目を見開く。

「なんやお前ら! どっから湧いた!」

レオルが槍先でオークを牽制しながら叫ぶ。

「この辺りで“オークの集落が動いた”って話があってな!

まさか、こんなとこで野営してる命知らずがいるとは思わなかった!」


「命知らず言うな!」

俺が叫ぶと、ミレイアが盾で棍棒を受け止めて笑った。

「でも助ける! それが冒険者だ!」


クリフさんが状況を一瞬で整理する。

「援軍に感謝する。私はクリフ。こちらは――」

よっしーが割り込む。

「ユウキ! よっしー! 千鶴さん! それにニーヤ! ブラックや!」

雑!


フィオが目を丸くする。

「猫魔導師さんと……小さな黒い子、精霊ですか!?」

「眷属ですニャ」

ニーヤが誇らしげに胸を張る。


レオルが叫ぶ。

「話は後だ! まずは突破口! ボスを落とせば散る可能性がある!」

ナタルが頷く。

「指揮系統がある。オークにしてはまとまりすぎてる。あの首飾りが要だ」


クリフさんが短く決める。

「よし。私がボスに圧をかける。ニーヤ殿、広域妨害。ブラック殿、足止め。

冒険者諸君、前線を押し戻せるか」

ミレイアが笑う。

「任せて! 盾は前へ出るためにある!」


よっしーが拳を鳴らす。

「ほな、酒場ギルド幕間みたいな共闘やな! 行くでぇ!」

「幕間じゃねえ! 本番だ!」


――でも、妙に呼吸が合った。

縁だ。こういうのも。



◆ 流れが一気に変わる――反撃開始


ミレイアが盾で突っ込む。

「押す! 押す! 押す!!」

盾の圧でオークが押し下がる。


レオルの槍が、長い間合いでオークの腕と膝を正確に刺す。

「倒すな! 崩せ!」

分かってる側の人間だ。


カイの矢が、後ろから回り込むオークの目の前へ突き刺さる。

「回り込み止めます!」

視線誘導、足止め。地味に効く。


ナタルが杖を振る。

土縛グランドバインド!」

地面から土の腕が伸び、数体の足を絡め取る。

動きが止まる。


フィオが後ろで叫ぶ。

「怪我してる人、こっち! 回復します!」

緑の光が広がり、疲労の重みが一段軽くなる。


ニーヤが杖を掲げた。

水流魔法ウォータースラッシュ!」

水の刃が走り、オークの武器を弾く。

続けて、


氷結周囲魔法フリーズフィールド!」

地面が一気に凍り、突進が滑って崩れる。


ブラックが水を弾かせ、凍結の範囲を広げる。

さらに風で灰を巻き上げ、視界を乱す。

あいつ、連携がうますぎる。


クリフさんは、その隙にボスへ距離を詰めた。

矢を一本――斧を握る手首へ。

次に剣で、足元を払う。


ボスは耐える。

吠えて、部下を呼ぶ。


だが、もうさっきまでの“圧”じゃない。

俺たちには、前線を維持する人数が増えた。


よっしーが吠える。

「うまいやろー! ワイら、意外とやれるんやで!」

「何の自慢だよ!」


俺はあーさんの前に立ちながら、オークを一体、板で殴り落とす。

「悪いけど、今日は通さねえ」

二日酔いのくせに、声がちゃんと出た。


あーさんが子犬を抱き締めたまま、凛と告げる。

「皆さま、どうか――無事で」

その言葉だけで、背中が温かくなる。



◆ ボス戦――骨飾りの“首領”


ボスが大斧を振り上げる。

空気が裂ける音。

一撃が重い。盾でも受けたら腕が持っていかれる。


ミレイアが盾を構えて受ける。

「ぐっ……重っ……!」

レオルが槍で斧の柄を弾き、角度をずらす。

「今だ、崩せ!」


クリフさんが、真正面じゃなく、横へ回る。

“鍵穴じゃなく蝶番”。

硬い扉を壊すんじゃなく、軸を外す。


矢が飛ぶ。

膝。

次に、肩。

次に、足首。


ボスが怒り狂って踏み込むが、凍った地面でわずかに滑る。


「我が主人あるじ、いきますニャ!」

ニーヤが叫んだ。


炎弾魔法ファイアボール!」

火球が、ボスの背後の地面に当たり爆ぜる。

直接当てない。

熱と煙で、視界と呼吸を奪う。


ブラックが風で煙を“ボス側へ”押し込む。

咳き込む一瞬。


ナタルが杖を突き立てる。

雷矢魔法ライトニングジャベリン!」

一本の稲妻が走り、ボスの首飾り――骨飾りの金具を焼いた。


「今!」

クリフさんの声。


クリフさんが剣で斧の柄を叩き落とし、同時にレオルの槍がボスの手首を貫く。

武器が落ちる。


ミレイアが盾で体当たり。

ボスがよろける。


その瞬間、カイの矢が骨飾りの紐を射抜いた。

首飾りが切れて、地面に落ちる。


ボスの目が、一瞬だけ揺れた。

――指揮の象徴を失った。


よっしーが叫ぶ。

「ユウキ、今や! ほら、昭和の希望、可逆クランプ!」

「そんなの持ってたのかよ!」

よっしーが投げた金具を、俺は反射で拾って、ボスの腕と胴に引っかける。

完全拘束じゃない。

でも動きが鈍る。


「くっ……!」

ボスが暴れる。


クリフさんが静かに告げた。

「終わりだ」


剣の峰で、顎――じゃない。

首筋の“落とせる場所”へ、正確に打ち込む。

衝撃で意識が飛ぶ。


ボスが膝から崩れ落ちた。


オークたちの動きが止まる。

指揮が切れた。

そして、冒険者たちの圧が前へ出る。


レオルが槍を突き出し、吠えた。

「退け! ここは人間の火だ!」


オークたちは唸り、負傷者を引きずりながら森へ退いていく。

追撃はしない。

今は、それが最善だ。



◆ エンディング――焚き火の輪が、少し大きくなる


戦いが終わり、焚き火を組み直す。

崩れた火が、もう一度、ぱちぱちと鳴く。


フィオが包帯を配りながら言う。

「大丈夫ですか? 命に関わる傷は……なさそう。よかった……」

涙目で笑うのが、逆に強い。


ミレイアがよっしーのラジカセを見て吹き出した。

「なにこれ! 変な箱!」

「1989年の希望や」

よっしーが胸を張る。

「希望、箱で持ち歩いてるの? 最高じゃん」

「せやろ」


ナタルが冷静に周囲を見回す。

「オークの集落が動いたのは、たぶん食料事情か、誰かが煽ったか……

この規模は、町にも報告すべきね」

レオルが頷く。

「俺たちが戻ってギルドに言う。君たちは?」

クリフさんが答える。

「我々も町へ向かう。……子犬もいる」


その言葉に、冒険者たちが子犬を見る。

子犬はあーさんの腕の中で、短く鳴いた。

「クゥ」


フィオが顔を綻ばせた。

「かわいい……! この子、守ったんだね」

あーさんが微笑む。

「ええ。縁でございます」


俺は焚き火の前に座り込み、空を見上げた。

さっきまでの恐怖が、少し遅れて震えになってくる。

でも――崩れなかった。

みんながいた。援軍が来た。


クリフさんが隣に座り、静かに言う。

「ユウキ君、よく耐えたな」

「……兄貴、褒めるの遅い」

「今、言うべきだと思った」


よっしーが缶を取り出して、俺に投げる。

「ほれ。乾杯や。嵐の後の静けさ、第二幕」

「またそれ言うのかよ」

「ええ言葉やろ」


ニーヤが水の器を持ち上げる。

「我が主人あるじ、乾杯ですニャ!」

ブラックは俺の肩で、目を細める。

“まだ終わってないけど、今は休め”――そんな感じ。


あーさんが、鈴を胸元へ寄せて言った。

「火は、また守られましたね」

その声が、やけに優しかった。


俺は缶を掲げた。

「……援軍の縁に。乾杯」

みんなの器が、焚き火の音に混ざって鳴る。


ラジカセから、また曲が流れ出す。


JUN SKY WALKER(S)――『歩いていこう』♪


歩いていく。

たぶん、この先も嵐は来る。

でも――今日みたいに、誰かが来てくれることもある。


縁ってやつは、そういうものなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ