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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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黒狼団の砦

 


前書き


大切な人が突然いなくなる。


それは想像以上に恐ろしいことだ。


残された者は、

待つことしかできない。


信じることしかできない。


モンテーヌの薬屋で出会った少女ライラ。


彼女は両親を失い、

それでも前を向いて生きてきた。


だが今度は――


彼女自身が姿を消した。


ユウキたちは、

森の奥へと続く足跡を追い始める。



本文


《主人公・相良ユウキの視点》


森の中を走る。


日はすでに傾いていた。


木々の隙間から差し込む光は赤く、

辺りは不気味な静けさに包まれている。


「急げ!」


クリフさんが先頭を走る。


さすが元狩人だ。


足跡を追う速度が異常に速い。


俺なんか何も見えない。


なのにクリフさんには見えているらしい。


「こっちだ!」


また方向を変える。


俺たちは必死に後を追った。



「はぁ……はぁ……」


息が切れる。


横ではよっしーが普通に走っている。


なんであの人元気なんだよ。


四十近いやろ。


俺より元気やん。



「ユウキさん、大丈夫でございますか?」


あーさんが心配そうに見る。


「いや……大丈夫じゃない……」


「大丈夫そうには見えませんわ」


正論だった。



その時。


クリフさんが突然手を上げた。


全員停止。


空気が変わる。



「どうした?」


よっしーが小声で聞く。


クリフさんは地面を指差した。


「見ろ」



そこには荷車の跡があった。


深い轍。


複数。



「馬車?」


俺が言う。


クリフさんは首を振った。


「違うな」



「荷車だ」



「しかもかなり重い」



荷物。


食料。


武器。


あるいは――


人。



嫌な想像が頭をよぎった。




さらに進む。


やがて森が開けた。



「……あれか」



山の斜面。


木造の柵。


見張り台。


粗末な建物。



小さな砦だった。



「山賊の拠点やな」


よっしーが呟く。



俺もそう思った。



しかし。



様子がおかしい。



見張りはいる。


武器もある。


だが。



子供が見える。



老人もいる。



洗濯物まで干してある。



「なんだ?」



俺は眉をひそめた。



山賊の砦というより。



小さな村みたいだった。




その時。



ヒュッ!!



矢が飛んだ。



ガキン!!



クリフさんが弾く。



「止まれ!」



見張り台の男が叫ぶ。



「これ以上近づくな!」



完全に敵対モードだった。



俺たちは武器を構える。



緊張が走る。



すると。



砦の門が開いた。



中から大男が現れる。



熊みたいな体格。



斧を背負っている。



髭面。



傷だらけ。



年齢は四十前後。



圧が凄い。



「頭領!」



見張りが声を上げた。



頭領。



つまり。



山賊のボス。



「……」



男は俺たちを見る。



そして。



ゆっくり口を開いた。



「その娘の知り合いか」



低い声だった。



ライラのことだ。



間違いない。



俺は剣を握る。



「ライラはどこだ」



男は黙る。



しばらく沈黙。



やがて。



深くため息を吐いた。



「……面倒なことになったな」



その言葉が妙だった。



悪党の台詞に聞こえない。



「答えろ」


クリフさんが前へ出る。



男は俺たちを見る。



そして。



「話をする気はある」



そう言った。



「は?」


思わず声が出た。



話?



山賊が?



ライラを攫った相手が?



「頭領!!」



その時。


砦の上から怒鳴り声が響いた。



槍を持った男だった。



鋭い目。



敵意剥き出し。



「何を言ってるんですか!」



「黙れルガー」



頭領が一喝する。



空気が凍った。



ルガーと呼ばれた男は悔しそうに黙る。



だが。



こちらを睨み続けている。



完全に敵認定だ。



「……」



俺は混乱していた。



なんだコイツら。



本当に山賊なのか?



砦の中を見る。



痩せた子供。



怪我人。



病人。



武装した男達。



何かがおかしい。



俺の知っている山賊じゃない。



すると。



頭領が言った。



「入れ」



「え?」



「娘にも会わせる」



「そして」



そこで言葉を切る。



「全部話そう」



風が吹いた。



俺はクリフさんを見る。



クリフさんも迷っていた。



よっしーを見る。



「まぁ話くらい聞いてみてもええんちゃう?」



呑気だった。



だが。



俺も同じことを思っていた。



この男。



嘘をついている顔には見えない。



「……分かった」



俺は頷いた。



その瞬間。



俺たちはまだ知らなかった。



ライラの両親が生きていることも。



この黒狼団が抱える事情も。



そして。



頭領ガレスという男が、

思っていたよりずっと複雑な人間だということも。



モンテーヌ編は、

ここから大きく動き出す。




後書き


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに姿を現した黒狼団。


しかし彼らは、

ユウキたちが想像していたような単純な悪党ではなさそうです。


ライラは無事なのか。


両親は生きているのか。


そして頭領ガレスとは何者なのか。


次回、黒狼団の真実が少しずつ明らかになります。

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