黒狼団の砦
前書き
大切な人が突然いなくなる。
それは想像以上に恐ろしいことだ。
残された者は、
待つことしかできない。
信じることしかできない。
モンテーヌの薬屋で出会った少女ライラ。
彼女は両親を失い、
それでも前を向いて生きてきた。
だが今度は――
彼女自身が姿を消した。
ユウキたちは、
森の奥へと続く足跡を追い始める。
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本文
《主人公・相良ユウキの視点》
森の中を走る。
日はすでに傾いていた。
木々の隙間から差し込む光は赤く、
辺りは不気味な静けさに包まれている。
「急げ!」
クリフさんが先頭を走る。
さすが元狩人だ。
足跡を追う速度が異常に速い。
俺なんか何も見えない。
なのにクリフさんには見えているらしい。
「こっちだ!」
また方向を変える。
俺たちは必死に後を追った。
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「はぁ……はぁ……」
息が切れる。
横ではよっしーが普通に走っている。
なんであの人元気なんだよ。
四十近いやろ。
俺より元気やん。
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「ユウキさん、大丈夫でございますか?」
あーさんが心配そうに見る。
「いや……大丈夫じゃない……」
「大丈夫そうには見えませんわ」
正論だった。
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その時。
クリフさんが突然手を上げた。
全員停止。
空気が変わる。
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「どうした?」
よっしーが小声で聞く。
クリフさんは地面を指差した。
「見ろ」
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そこには荷車の跡があった。
深い轍。
複数。
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「馬車?」
俺が言う。
クリフさんは首を振った。
「違うな」
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「荷車だ」
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「しかもかなり重い」
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荷物。
食料。
武器。
あるいは――
人。
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嫌な想像が頭をよぎった。
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◇
さらに進む。
やがて森が開けた。
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「……あれか」
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山の斜面。
木造の柵。
見張り台。
粗末な建物。
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小さな砦だった。
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「山賊の拠点やな」
よっしーが呟く。
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俺もそう思った。
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しかし。
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様子がおかしい。
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見張りはいる。
武器もある。
だが。
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子供が見える。
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老人もいる。
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洗濯物まで干してある。
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「なんだ?」
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俺は眉をひそめた。
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山賊の砦というより。
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小さな村みたいだった。
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◇
その時。
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ヒュッ!!
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矢が飛んだ。
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ガキン!!
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クリフさんが弾く。
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「止まれ!」
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見張り台の男が叫ぶ。
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「これ以上近づくな!」
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完全に敵対モードだった。
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俺たちは武器を構える。
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緊張が走る。
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すると。
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砦の門が開いた。
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中から大男が現れる。
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熊みたいな体格。
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斧を背負っている。
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髭面。
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傷だらけ。
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年齢は四十前後。
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圧が凄い。
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「頭領!」
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見張りが声を上げた。
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頭領。
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つまり。
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山賊のボス。
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「……」
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男は俺たちを見る。
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そして。
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ゆっくり口を開いた。
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「その娘の知り合いか」
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低い声だった。
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ライラのことだ。
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間違いない。
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俺は剣を握る。
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「ライラはどこだ」
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男は黙る。
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しばらく沈黙。
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やがて。
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深くため息を吐いた。
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「……面倒なことになったな」
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その言葉が妙だった。
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悪党の台詞に聞こえない。
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「答えろ」
クリフさんが前へ出る。
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男は俺たちを見る。
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そして。
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「話をする気はある」
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そう言った。
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「は?」
思わず声が出た。
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話?
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山賊が?
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ライラを攫った相手が?
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「頭領!!」
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その時。
砦の上から怒鳴り声が響いた。
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槍を持った男だった。
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鋭い目。
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敵意剥き出し。
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「何を言ってるんですか!」
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「黙れルガー」
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頭領が一喝する。
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空気が凍った。
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ルガーと呼ばれた男は悔しそうに黙る。
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だが。
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こちらを睨み続けている。
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完全に敵認定だ。
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「……」
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俺は混乱していた。
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なんだコイツら。
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本当に山賊なのか?
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砦の中を見る。
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痩せた子供。
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怪我人。
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病人。
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武装した男達。
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何かがおかしい。
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俺の知っている山賊じゃない。
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すると。
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頭領が言った。
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「入れ」
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「え?」
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「娘にも会わせる」
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「そして」
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そこで言葉を切る。
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「全部話そう」
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風が吹いた。
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俺はクリフさんを見る。
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クリフさんも迷っていた。
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よっしーを見る。
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「まぁ話くらい聞いてみてもええんちゃう?」
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呑気だった。
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だが。
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俺も同じことを思っていた。
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この男。
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嘘をついている顔には見えない。
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「……分かった」
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俺は頷いた。
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その瞬間。
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俺たちはまだ知らなかった。
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ライラの両親が生きていることも。
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この黒狼団が抱える事情も。
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そして。
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頭領ガレスという男が、
思っていたよりずっと複雑な人間だということも。
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モンテーヌ編は、
ここから大きく動き出す。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに姿を現した黒狼団。
しかし彼らは、
ユウキたちが想像していたような単純な悪党ではなさそうです。
ライラは無事なのか。
両親は生きているのか。
そして頭領ガレスとは何者なのか。
次回、黒狼団の真実が少しずつ明らかになります。




