吊り橋の試練と、明治の乙女の葛藤
(主人公・相良ユウキの視点)
夜空いっぱいの星空の下、焚き火を囲んで、俺たちはこれからどうするかを話し合っていた。
「ここから北西にある山を一つ越えたところに、忍びの里という場所がある。狩人だった頃に、そこに一泊泊めてもらったことがあるんだ」
クリフさんが、地図を広げながら言った。
「我が主人よ、あっしも噂を聞いたことがありますニャ! そこのリーダーは、獣人や亜人も分け隔てなく受け入れてくれるとか」
ニーヤも、クリフさんの話に頷いた。
二人の話によると、その里の長は、かなりの人格者なのだとか。
「ほんなら決まりやな! その里を訪ねてみようか!」
よっしーが、元気よく言った。
俺たちは、忍びの里を目指すことにした。
早朝、鳥のさえずりを聞きながら、気持ちよく目を覚ました。
「なんや、ユウキ。お前、今起きたんかい」
よっしーは、すでに朝食を食べ終わり、ミネラルウォーターが入ったペットボトルを片手に、歯を磨いていた。
「うっせえよ……。つーか、よっしー、お前、朝から元気だな」
「当たり前や! 朝から元気に働いて、美味いもん食う。それが人生の醍醐味やろ!」
本当に、よっしーの能力は、マジで便利だよな。歯磨き粉も歯ブラシも、全部**虚空庫**から出てくるんだ。
「アレ? そういや、クリフさんは?」
俺が周りを見渡すと、クリフさんの姿が見当たらない。
「おう。アイツやったら、朝のお祈りを済ませて、狩りに出かけてもうたわ。アイツが一番の早起きやで」
よっしー曰く、クリフさんはものすごーく早起きらしい。よく分かんねえけど。
クリフさんが戻ってきて、俺たちはまた山道を歩きだした。
森林が生い茂る山道を二時間ほど歩くと、高い山に囲まれた深い谷、そして、そこに架かる吊り橋が見えてきた。
「うわぁ、すげえ所だな……。マジかよ、これを渡るのか?」
俺は、思わず声を上げた。吊り橋は、木とロープでできていて、見るからに頼りなさそうだ。
俺は、みんなの様子が気になったので、チラッと見てみた。クリフさんは、特に変わりない。そりゃ、元狩人だもんな。
ただ、よっしーがなぜか妙に挙動不審だ。
「みんな、悪いけど、先行ってくれや! ワイ、こう見えて、高い所はアカンねん!」
え? なんだよ、いきなりどうしたんだよ。いつもの勢いは、一体どこに行ったんだ?
「なるほど、それは困ったな……。では、千鶴殿と私、そしてユウキ君とで先に渡ろう。よっしー殿は、ニーヤ殿とブラック殿とで、後ろからゆっくりとついてくればよい」
クリフさんが、よっしーの様子を見て、そう提案した。
「わたくし……。わたくしは、皆さんとご一緒では……」
千鶴が、不安そうな顔で言った。
「わたくし、何もお役に立てませぬ……」
千鶴は、この旅が始まってから、ずっとそのことを気に病んでいたようだ。剣も魔法も使えない自分は、足手まといになっているのではないか、と。
「千鶴さん、そんなことないですよ。千鶴さんがいてくれるから、俺たちはこうして、色々な話ができる。それに、千鶴さんが、よっしーの出すどぶろくを美味いって言ってくれるから、よっしーも頑張れるんです」
俺は、千鶴の不安な気持ちを少しでも和らげたくて、そう言った。
「ユウキ君の言う通りだ。千鶴殿。君は、私たちがこの世界で生きていくための、心の支えとなっている。それだけでも、十分な貢献だ」
クリフさんも、千鶴に優しい言葉をかけた。
「我が主人、ニーヤも同じ気持ちですニャ。それに、千鶴殿がいてくれるから、美味しい食事ができるのですニャ!」
ニーヤが、そう言って、千鶴の膝にすり寄る。
「みんな……。ありがとう……」
千鶴は、涙ぐんで、そう言った。
「よし、ならばワタシが先頭を務めよう。ユウキ君と千鶴殿は足元に気をつけてな」
クリフさんが先頭に立ち、次に俺、そして最後に千鶴が続く。
「なるほど。それならば、よっしー殿は、あっしらと共にまいりましょうニャ。我が主人もよろしいかニャ?」
ニーヤが、よっしーとブラックを連れて、俺たちの後を追うことになった。
「ああ、頼んだよ、ニーヤ」
俺は、そう言って、ゆっくりと足を進めてみる。
足場となる木の間隔が広いので、足元から谷底の川がはっきりと見える。こりゃ、高い所がダメな奴は死んだな。そして、一歩踏み出すたびに、ゆらゆらと揺れるので、真っ直ぐに立っていられない。一見、大したことなさそうとか思っていたけれど、実際に渡ってみると、超怖えぇ!
「うわぁ! 揺らさんといてくれ〜っ!」
後ろから、よっしーの悲鳴が聞こえてくる。超うるせえ。マジでウザいんだけど。
「千鶴殿、大丈夫か?」
クリフさんが、後ろを気遣う。
「はい……。大丈夫でございます。わたくし、ユウキさんたちの足手まといには、なりませぬから……」
千鶴は、震える声で、しかし、力強く言った。彼女の目には、強い意志が宿っていた。
その時、**ズズンッ!**と、吊り橋が大きく揺れた。
「出た〜!」
よっしーが、絶叫する。
「なんだよ、オッサン、小便でも漏らしたのかよ?」
俺がそう呟きながら、後ろを振り返ると、この間のクリフさんの矢が刺さった熊が、こちらに向かって近づいてきているのが見えた。
「な……なんで、またこのタイミングで現れんだよ!?」
俺は、思わず叫んだ。
熊は、俺たちのことを覚えていたようだ。クリフさんの矢が刺さった背中から血を流しながら、怒りの表情で、吊り橋を渡ってこようとしている。
「アカン! 腰が抜けてもたーっ! 立たれへんわ!」
よっしーは、ニーヤを掴んで、しゃがみ込んでしまった。
「よっしー、しっかりしろ!」
俺が叫ぶが、よっしーは全く動けない。
その時、ニーヤが、小さな体でよっしーを背負うと、足から魔法を発動させた。
「炎疾走魔法!」
**ドギューン!**と、凄まじい音を立てて、ニーヤは爆炎と共に加速し、俺やクリフさんを追い抜いていった。
「我が主人、クリフ殿、ちょいと伏せといて下さいニャ!」
ニーヤは、俺たちにそう叫ぶと、魔法を唱え始めた。
「炎弾魔法!」
ニーヤの杖の先から、巨大な炎の球が放たれた。
熊は、危険を察知したのか、身をかがめて炎の球を避けた。
「あまい! 爆発!」
ニーヤが、再び魔法を唱えると、なんと、炎の球が爆発して、熊は背中から炎をまともに浴びた。
「ヴェェァァーッ!」
熊は、大きな声で叫びながら、自ら川へと飛び込んでいった。
「なんと、魔法の付属効果か……」
クリフさんが、驚愕の表情で呟いた。
「た……助かったんやな……。もう、ほんまにアカンか思うたわ……」
よっしーは、ニーヤに背負われたまま、震える声で言った。
みんなが吊り橋を渡り終え、ホッとしていた。
「しかし、ニーヤはすげえな! そんな魔法が使えるんだったら、さっきの熊なんて、楽勝で倒せたじゃねえのか?」
俺が尋ねると、ニーヤは首を横に振った。
「違います、我が主人よ。名を頂き、進化したから、あの熊を撃退できたのですニャ」
(相沢千鶴の視点)
吊り橋の上で、わたくしは、自分の無力さを痛感しておりました。
何もできない。ただ、皆の足手まといになっているだけ……。
しかし、ユウキさん、クリフさん、そしてニーヤさんの言葉に、わたくしは、少しだけ勇気を持つことができました。
わたくしにできること……。それは、皆の心を支えること。そして、皆が笑顔でいられるように、美味しい食事を作ること。
それだけでも、わたくしは、皆の役に立つことができる。
そう思った時、わたくしの心に、新しい希望が灯りました。
吊り橋が大きく揺れ、熊が現れた時、わたくしは、恐怖に震えながらも、決して目を逸らしませんでした。
わたくしが、ここで諦めてしまったら、皆の優しさを無駄にしてしまう。
「……わたくし、頑張ります」
わたくしは、心の中で、そう誓いました。
ニーヤさんの放った魔法が、熊を撃退した時、わたくしは、心から安堵しました。
「すごいでございます……。ニーヤさん……」
わたくしは、ニーヤさんのことを、尊敬の眼差しで見つめておりました。
ニーヤさんは、小さな体で、私たちを守ってくれた。
わたくしにも、何かできることがあるはず。
わたくしは、この旅を通して、自分にできることを見つけたい。
そして、いつか、皆の力になりたい。
そう、心に誓いました。
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
吊り橋の上で、再び現れた熊に襲われたユウキたち。絶体絶命の危機を救ったのは、進化したニーヤの魔法でした。
そして、あーさんこと千鶴は、自身の無力さに葛藤しながらも、皆の優しさに触れ、前に進む決意を固めました。
次回、彼らは精霊と妖精の住処にたどり着きます。そこで、彼らを待ち受けているのは、どんな出会いなのでしょうか? そして、千鶴は、そこで自分にできることを見つけることができるのでしょうか?
応援コメントや好評価をいただけると幸いです。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。




