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天空界の女

よろしくお願いします。

「この前来た時に1月1日(日)が映ってなかったでしょ。申し訳ないと思って1日から8日までの映像を持って来たのよ!」


「そいつはありがとう。あれ、意地悪じゃなかったんだね。1月2日(月)も楽しみだし早速見せて!」


 フミカはDVDデッキをトートバッグから取り出しディスクを手に持って俺を睨んだ。


「何か忘れてない?いつまでも寝ぼけてるんじゃないわよ!」


「あ、ハイハイ、ホット梅酒でございますね。今直ぐご用意させて頂きます」


 寝ぼけてるって今は夢の中じゃないのか!と俺はブツクサ言いながらキッチンに出向いて梅を一粒入れ、カップに梅酒を並々注いでチンした。このデカップに並々注ぐと梅酒ボトルは二回で無くなってしまう。しまった!三年物の熟成梅酒など買うんじゃなかったぜ。でも、品質落とすとフミカがキレそうで怖いし。



 白いテーブルの前にドカッと陣取るフミカさまにお盆に乗せたホット梅酒をおずおずと差し出す。えんじぇうさまは少し口に含んでカッと目を見開いた。


「マサハル、これ、ウマイよ!前回よりグレードアップしてるじゃん!一緒に飲まない?」


「そりゃフミカちゃんのために三年熟成物にしたんだもん。えんじぇうさまに安酒なんて出せないでしょ?でも、俺はそれより安いウイスキーで充分です。毎日梅酒ボトル空けてたら金が持たないもん」


「見かけによらず謙虚な奴だなあ。まあいいか。熟成梅酒も私に飲まれる方が嬉しいだろうしね」


 チッ、相変わらずクソ生意気な天使だぜ。由佳とビッチ対決したらいい勝負出来るかもしれんな。


 気を取り直してフミカが用意したモニターを見つめる。取りあえず1月1日(日)からだ。


 あれ?俺、何でフミカとお雑煮食べて酔っ払ってるの?こいつ、朝になっても帰ってないのか?お互いにお銚子持って差しつ差されつゴキゲンだけど、あの琥珀色の液体は梅酒なんだろうな。ここに日本酒なんて置いてないから。


 実家から送って来た梅酒瓶が底をつくのも時間の問題か。近々TELして追加を送ってもらえるように頼もう。とにかく元旦はフミカと過ごすわけだな。映像見てる限り楽しそうだから良しとしよう。一年の計は元旦にありってのは、アル中状態の二人を見てると恐ろしいものがあるけど。



 さあ、メインステージの1月2日(月)だァ!おっ、階段の下で待ってる俺を京子さんが赤いハッチバックで迎えに来てる。俺の表情はヘラヘラだ。そりゃ楽しいに決まってるよな。今年の初デートだもん。まだ二回目だけどさ。


 俺たちは妙仙山の神社に向かってるらしい。この辺じゃメッカだもんな。お店もたくさん出てるし長い参道を寄り添って歩くのは嬉しいもんだ。人混みは嫌いな方だけど、この時ばかりは話が別だ。映像は相変わらずピンボケ気味だが京子さんは楽しそうに見える。良かった。彼女が喜べば俺もハッピーだ。


 バチッという音と共にいきなり画面が真っ黒になった。えっ!?何これ?故障?思わず俺はモニターを鷲掴みにした。


「2日の映像はこれくらいでいいでしょ!?」


 振り返るとえんじぇうさまはムスッとしていらっしゃる。ホワイ?俺のハッピーがフミカのミッションじゃないのか?お前の願い事だって掛かってるのにさ。


「何でそんなに怒るんだよ?もしかしてジェラシー?」


「ふざけないで!天空界でもトップクラスの美女である私がジェラシーなんて感じるわけないじゃない!」


「そうだよな。フミカちゃんイケてるもんな。まあ、天空界のレベルまでは知らないけど」


「とにかく2日はここまでで打ち切り!あとはあんたが勝手に想像すればいいわ」


「わかったから機嫌直してよ。俺だって新年からケンカしたくないんだからさ」


 まあ、初詣は順調そうだからこれくらいでいいだろう。ここでフミカはカップ梅酒を一気に飲み干しやがった。


「ねえマサハル、梅酒のお替りちょうだい。もう、飲まなきゃやってらんないわよ、ホントに…」


 ゲッ!このアル中堕天使がァ!これでは実家から送って来た梅酒も直ぐに底をついちゃうぜ。俺は買って来たばかりの熟成梅酒の残り全部をカップに注いでチンして出してやった。


「もう、これくらいにしときなよ。帰り道に飲酒運転で捕まっちゃうぜ」


「勝手に地球の法律を当て嵌めないで!寄りに寄って天空界A級ライセンス所持者の私に向かって」


 そういう問題じゃないんだよと思ったけど、言い負かされるのは目に見えてたので反論は自重した。所詮俺は地球人だし、神の片棒担いでるこいつに勝てるわけがない。しかし、天空界のA級ライセンスってどんなだ?こいつはそっちでは有名レーサーなのか?



 一時間後フミカは酔い潰れやがった。おい!こんなことで眠っちまうなよ!スースーと寝息を立てるえんじぇうさまは肩を揺すっても起きそうにない。


 不意に「う…ん」とか細いうめき声をあげる。胸元が苦しいのかなとやさしい気遣いでジャンプスーツのジッパーを少し下げてやる。嘘だ!これは単なる言い訳でチャンスだと思ったことを正直に告白しよう。


 少し露わになったフミカの胸元は「不二子」と違ってチッパイだった…。ピンクのブラも垣間見えるけど、あまりにも峡谷が浅い。ハッキリ言ってあれは丘だな。彼女が目を覚まさないのをいいことにガックリうなだれる残念な俺であった。


 気を取り直してビデオの続きを見ようと思いフミカの手からリモコンを奪い取ったが、表示が象形文字みたいでわけがわからん!電源と再生表示くらいは宇宙統一にして欲しいものである。改善提案で上層部に上げておいてもらおう。


 しょうがないので寝た。夢の中でまた眠るとは、何て俺は能無し野郎なのだろうか。




 煮物の匂いに鼻腔がくすぐられ目が覚めた。ゆっくりと周囲を確認する。間違いなく俺の部屋だ。


「マサハル、明けましておめでとう。新年の挨拶はまだだったもんね」


「ああ、フミカちゃん、明けましておめでとう。今年もよろしくお願い致します。って言うか、早速お雑煮作ってくれたんだ」


「そうよ。やっぱり元旦の朝くらいはキチンとしないとね。一年の計は元旦にありだもん」


 イマイチ意味不明だが気にするのはやめよう。深く考えてもわからないことがあるとえんじぇうさまを見て学んだからな。


 彼女は安物のお椀にお雑煮をよそってテーブルに並べてくれる。続いてお銚子とお猪口を持って来た。「どうぞどうぞ」と注がれるままにお猪口で酒を受ける。「おっとっと」と定型フレーズを返しながら琥珀色の液体を眺める。やっぱり梅酒だな。お屠蘇としては邪道だけど文句は言わない。フミカの好物だし。


 「えんじぇうさまもどうぞ」と白い指に包まれたお猪口に液体を注ぐ。正座して向き合い、もう一度「明けましておめでとう」と杯を当て合う。カチャンと音がして梅酒を一気に流し込んだ。お互いにニマッと笑ってお椀に手を伸ばす。そのままだし汁をズズッと啜った俺の顔が歪んだ。


「かっらーい!これ、醤油が濃すぎるよ。俺、薄味嗜好なんだからさ。味わって食べようと思ってたけど、これはちょっと厳しいな」


「何贅沢言ってるの?フミカさまの手料理を何と心得る!望んでも食べられない代物なんだよ!せっかく三十年振りに手料理作ったのにさ」


 ブスッたれたフミカはちょっと可愛かったけど、もちろん味が良くなるわけでもない。まあ、我慢すれば食べられないこともないか。あとで多量の飲み物は必要だけど。


「フミカちゃん、三十年前って言ったけど、今何才なの?乙女に年を訪ねる失礼は許してもらうとして」


「まだ二十才だよ。マサハルより四才年下ってこと」


 わけがわからん!頭が狂いそうである。いや、これは俺が常識にとらわれてるのがいけないのだ。そもそも、こうして目の前に彼女がいること自体がクレイジーなのだから。


「お仕事は百五十年やってるって言ってたよね。なのに何で二十才なのでしょうか?」


「しょうがないなあ。頭の悪いマサハルに説明してあげるわ。天空時間で一才年を取るのは地球時間の十年を要するのよ。だから生を受けて地球時間の二百年経ってるってこと」


 いちいち人をバカ呼ばわりしてからしか説明に掛かれないのかよ!と思ったが、ここでキレてはブチ壊しである。冷静になれよ、俺。


「じゃあ五十年合わないじゃん。やっぱりお仕事は生まれていきなりやらないってこと?」


「いや、やるよ。私たちは生まれた瞬間から能力が備わってるからね。たとえ乳幼児のなりをしてても天使なことには変わりないもの。お前らの世界でも天使って幼児に羽が生えた感じだろ?」


 確かにそうだ。しかし、容姿が進化して「峰不二子」になるとは知らなかったぜ。


「じゃあ、五十年間は何やってたの?学校に行ってたとか?」


「ああ、その通りだよ。でも、学校は自由登校だからね。要は天空教育委員会が定めた単位を修得すればいいの。そりゃ、たまには教授のゼミとか出るけど、通信機能を使って学校以外の星からでも受講出来るんだ。みんな色んな星に散らばってるから、通学にしんどい奴もいるんだよ」


「なるほどね。それがフミカちゃんの五十年に及ぶ天空学校システムか」


「いや、学校へは四十年通ったけど、卒業して十年はプーやってた。見聞を広めるための放浪の旅だね。ハレー彗星とかペルセウス座流星群に便乗してあっちこっち回ったよ。うん、あれは実に良い経験だった」


 何かわからんけど、こいつがかなり悲しい奴であるのは間違いなさそうだ。百五十才ではなく二百才のBBAなのだから。


「じゃあ、俺も何処かへ連れて行ってくれない?地球上でいいからさ。フミカちゃんなら軽いもんだろ?超光速モバイルバイクを持ってるんだから」


「いいわよ。ちなみに何処へ行きたいの?」


「えっ?うん、取りあえず外国かな。ナイアガラとか」


「わかった。じゃあ、私の後ろに乗って。息を止めててね。窒息しちゃうから」


 マジかよ?と思ったけど、冗談ではなさそうだ。まるで「モトコンポ」みたいなモバイルバイクをセットアップして跨り後ろをクイクイ指差す。


「しっかり掴まっててね。直ぐに着くから」


「安全運転でお願いします。俺、まだ死にたくないから。明日デートだしね」


「何が明日デートよ!私とのデートが先でしょう!?」


 ええっ?これってやっぱりデートなの?とっても不安なんだけど。


読んで下さりありがとうございました。

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