新春
よろしくお願いします。
12月31日(土)、目覚めたのは午前9時、八時間ほどは寝ていただろう。久し振りの爆睡だった。ベッドで上半身だけ身を起こし、グンと背伸びして首をコキコキしてみる。すこぶる体調はいいようだ。
よしッ!今日はあと少しだけ掃除をして切りをつけよう。本当に掃除というものは際限がない。日頃のツケと言われればそれまでだけど、不要物を捨てないからカオス部屋になるのだ。これは進めながら判断してるのがいけないと思う。やる前に頭の中を組み立てよう。
雑誌は全て廃棄する。テーブルとテレビは位置をずらしフロアを拭く。窓はガラスクリーナーでやっちゃおう。キッチンは……、キッチンは思い切って換気扇を外して洗おう。そしてコンロ回りを拭き上げる。それで終了である。
えっ?それだけ?と思われるかも知れないが、これでも最大限の計画なのだ。学生時代も掃除当番をいかにサボろうかと考えていた俺だから。もちろんそれは、いつ訪れるかもわからない京子さんの来訪を想定してのことだ。何とか計画を完遂出来たら、あとはなるべく汚さないようにしようと思ってる。
いくら男の独り暮らしだからって、最低限の清潔さは必須だろう。これがやる気の根源というより全てである。こういう時、単細胞は便利で良い。
昼過ぎにお掃除は完了した。多少はダレたけど、何とかケリを着けられた。たかがワンルームで何でそんなに時間が掛かるの?という心の声などスルーである。気にするだけ損ってもんだ。大切なのは秘めたる熱い思いなのだから。おお、パッションよ、こんにちはァ!
大みそかの晩メシはインスタントラーメンを鍋から直に食べた。年越し蕎麦には違いない。えっ?ラーメンは違うって?俺の中では誤差なんだよ!そりゃ大多数の人は蕎麦のほかにお寿司とかオードブルを摘まんでいるのだろうけど、俺にそんな贅沢は許されてない。初詣のために出費は控えるのだ。
悲しいかな社会人二年目の俺に大した蓄えなど無い。半年前に買った中古の軽自動車もまだローンが三十回も残ってるし。何で金も無いのにボロ車を買ったかって言うと、不意に海を見たくなる時もあるじゃない。お独りさまはちょっと悲しいけど、それでもそんな時のために買ったのさ。うん、全然迷わなかったね。もちろん後悔もしてないよ。
年末の定番になっている(最近はそうでもないか)歌番組を流しながら、ノーパソで時事ニュースなどをチェックする。テレビ画面は見る気にならない。「バランタイン」をソーダで割ってウトウトしてしまう。
京子さんから電話もメールも来ない。大晦日なのに初詣のスケジュールが決まらないのだ。やっぱり俺ごときでは年上の才女に通用するわけなかったのか?でも、付き合うって言ったよね。一緒に初詣の約束をしたじゃないか。
これは俺がいけない。独りになると直ぐに暇を持て余すのがネックになってる。何か読むか?大して集中出来ないだろうけど、何もしないよりはマシに思える。
ショボいマガジンラックから「mono」を手に取ったけど戻し、後ろのボックス式本棚から大切にしている同人コミックを抜いて流し読みした。貴重品だからキチンと手を拭いてからペーシをめくる。これ、京子さんに見られるとマズイかも?俺は基本ノーマルだと思ってるけど、この手の本はイベントに出掛けて手に入れるくらい好きだ。他人さまに迷惑掛けるわけじゃないし、同僚には絶対言わないってだけのことだ。面倒を避けるためにね。
テーブルに置かれたスマホのバイブにハッとした。流し読みと言いながら没頭していたようだ。俺って直ぐに物語にのめり込む単純仕様だからなあ。スマホ画面を見たらコールじゃなくてメールだった。もちろん京子さんからである。
『初詣は2日にしましょう。午前10時にマサハル君のアパートへ迎えに行きます。待っててね。住所だけ返信して下さい。ナビに案内してもらうから心配ご無用!来年は二人でステキな一年にしようね。チュッ(はあと)』
ウォォォォ!ヤッタゼェェェェ!たった一通のメールで俺は狂喜乱舞した。終わり良ければ総て良し!年末ギリギリに届いた「チュッ(はあと)」で俺の周囲はバラ色に染まった。
人にはそれぞれの物語が有るけど、俺は自身が主人公の話で「王子さま」に上り詰めたんだァ!これ以上に何を望むというのか!?間違いなく俺はしあわせ者だ。たとえ独り切りのワンルームで安酒のグラスを燻らせていようとも。
直ぐに軽い挨拶と共に住所を打ち込んで返信する。正直、すごく安堵した。酔いも回ってベッドに転がりそのまま寝落ちしてしまう。
グワッシャーン!と轟音が響き俺は跳び起きた。せっかく拭き上げた窓ガラスが粉々だよ。どうなってんだ?まさか……。
「ジャァァァン!フミカさまのお出ましよォ!マサハル、私に会いたかったでしょ?」
超光速モバイルバイクから颯爽と降り立った今宵のえんじぇうさまはジャンプスーツ姿だ。お前は峰不二子か?と問い詰めてやりたかった。
「あのさあ、ご近所迷惑だから効果音はいらないけど、出てくる日にち間違えてるよ。明日の夜の予定だったろ?」
「何言ってるのよ!?もう年が明けたんだよ!確かに一日早いけど、新年最初に会うのがスーパー美女の私で光栄でしょ?」
こいつ、いい加減な奴だとは思ってたけど、要は自己中の困ったちゃんなのね。それにしても真冬の夜中に窓ガラスをブチ破るなよ。凍死しちゃうじゃん!
「それより窓ガラス直してよ。こっちは風邪ひいちゃシャレにならないんだからね。2日には初詣デートが控えてるのにさ」
「うーん、マサハルってイチイチ面倒くさいわねえ」
彼女の目からレインボービームが飛び、瞬時に窓ガラスは修復された。スゲエ!と思ったけど、天空の使いならこれくらいやってのけるなと勝手に納得した。いちいち驚いてたらこっちが発狂しちまうからな。それくらいこいつの存在は異端だ。いや、クレイジーなのだ。
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