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ナイアガラ

よろしくお願いします。


 一分後、俺はナイアガラの屋外展望台に立っていた。ここも同じ北半球だから真冬だ。オマケに北緯が上だからメチャクチャ寒い!ハッキリ言って死にそう!


「フミカちゃん、何かスゴイことになってるけど、君は寒くないの?」


 えんじぇうさまはジャンプスーツのジッパーを少しだけ下げ、浅い谷間からホッカイロを取り出した。またしても意味わからん!


「かわいそうだからマサハルに一つあげるわ。これで暖を取りなさい」


 あのなあ、こんなもんで何とかなるかよ!でも、取り出した場所が場所だっただけにありがたく頂いておいた。


「しかし空間移動ってスゴイよね。俺、景色が流れるように見えるのかと思ってたけど、速すぎて真っ暗闇だった」


「そう?マサハルのために安全運転してあげたのに。分速八千キロに抑えてのドライブだったわよ」


 分速八千キロって、あのバイクの最高速度何キロなの?まあ、超光速って言うんだから時速じゃないと思うけど。そもそも単位がわからん。


「ねえ、こうして異国の地でニューイヤーを二人で迎えられるなんてしあわせよね」


「ああ、そうだね……」


 俺は極寒の地で奥歯をガチガチ震わせながら返した。寒すぎてあまりしゃべりたくない。


「何か気が無いなあ。あったかい物でも飲む?」


「ぜひそうしたいけど、俺、おサイフ持って来てない。そもそも日本円しかないし」


「大丈夫!私に任せて!ホットチョコレートでいい?」


 コクンと頷く俺を見てフミカは駆け出して行った。いったいどうするんだろうと思ったら、アメリカンチャイルドらしき兄妹に話し掛けている。えんじぇうさまって英会話も出来るのか?二百年生きてる奴はよくわからん。ほどなくして兄妹が大きくかぶりを振った途端、フミカはボカリと二人の頭を小突いてカップを奪い取った。カツアゲだァ!


 直ぐ近くにいたマザーらしき女性が「オーッ、ノォォォ!」と絶叫する。フミカは周りの人が止めようとする間をすり抜けて突進してくる。思わず俺も後退りして吠えた。異国の地を考慮してだ。


「ノォォォ!ゲラウエェェイ!」


 えんじぇうさまのボディアタックを喰らって鉄柵を乗り越えた俺は、(むな)しくも真っ逆さまに滝つぼへ転落して行った。あぁぁぁあぁ!死んじゃうよぉぉぉ!京子さぁぁん、さよおならぁぁぁ!


 急に景色が反転した。俺はフミカのモバイルバイクに拾われ滝つぼの裏側にいた。ホイとカツアゲしたホットチョコを差し出される。


「あ、ありがとう……ってか、カツアゲしたらダメだろう!それもあんな小さな子から」


「マサハル、要るの?要らないの?」


「い、要ります。寒くて凍死しそうだから」


「じゃあ共犯じゃない。新年からあなたと共有するものが出来て嬉しいわ」


 何で嬉しいんだよォ!と思ったけど、状況的に反論など許されてない。こんな場所で放り出されたら二度と京子さんに会えなくなっちゃうもんな。機嫌を損ねないようにお願いしてみようっと。


「フミカちゃん、すごく楽しかったけど、もう戻ろうよ。このままじゃマジ風邪引いちゃうもん」


「いいわよ。じゃあ、部屋に戻って飲み直しましょう。ナイアガラまで来たらすっかり酔いも醒めちゃったもんね」


 ゲッ!まだ飲むんかよ?俺んちもう酒ないぞォ!もちろんお前のせいでな。




 またフミカの後ろで一分ほど息を止めていた。マイルームに戻れた。ちゃんと生きてる。良かった。


 夢のような一時だったけど、だいたい今って夢の中なのか?ちょっと訊いてみたくなった。


「ねえ、今、目の前に起こってることって、やっぱり夢の中の出来事なの?」


「ううん、現実よ。今は元旦のお昼時。夢の中は今朝あなたが起床するまでの話」


 確かに夢の中で飲まれた梅酒は減っていた。うーん、境目がよくわからないんだけど考えるだけムダだろう。今の状況が説明不能なんだから。


「フミカちゃん、朝になってるのに帰らなくてもいいの?無断外泊しちゃって怒られない?」


「平気よ。成人した立派な大人だもん」


 何処が立派な大人だよ!チャイルドからカツアゲしやがったくせに。まあ、二百才だから成人してても当然だけど。


 彼女はニマッと笑ってテーブルをコンコン叩いた。ハイハイ、持って来ますよ。えんじぇうさまの大好物を。


「じゃあビデオの続きを見せてよ。1月3日(火)からでいいからさ」


了解(ラジャー)!ハイ、再生スタートォ!」


 1月3日、俺は自室にいる。それはいい。所詮甲斐性なしだから。しかし、しかしだよ。何で藤堂先輩がいるんだァァァ!あれ?キッチンから京子さんがトレイに朝食らしきものを乗せてリビングにやって来た。いったいどうなってんだ?3日(火)の朝一で押し入られたってか?まさか2日(月)からってことはないよな?そこまで無粋な人だと思ってないけど。とにかく、俺とイケメン先輩と京子さんなんてイヤな予感しかしない。いったい何が起こってるんだよォ?


 フミカに1月2日の続きを再生してくれと頼んだらアッサリ拒否られた。こいつは鬼だ!絶対に天使なんかじゃないィ!


 とにかく3日の画像を見る限り先輩は邪魔な存在だ。つまり、接触した時点で追い返せばいいんだな。クッソー!無粋な真似しやがって!もしかして、京子さんに未練があるのか?イケメンのくせにあきらめが悪い奴だぜ。由佳ビッチと仲良くやってりゃいいのにね。


 でも、ビデオが役に立ちそうなのは初めてだ。向こうが不意打ちのつもりでも、こっちは承知済みだからな。絶対に未来を変えてやる!気持ちさえ構えてりゃ楽勝ってもんよ。


 未来映像で京子さんは朝ご飯を作ってたみたいだから、2日は彼女がこの部屋で泊まったって考えるのが自然だろう。ってことは、ナイトタイムはグフフの展開ってわけじゃん。進展早いね。ヴェリーウェルカムだよォ!


 ビデオをそのまま見続けたら、俺たちは三人でコーヒーを飲んでダベり、昼食に京子さんお手製だと思われるオムライスを食べて散会している。


 オイ!藤堂!何で俺んちで二回も京子さんの手料理を食べてるんだよォ!この腹黒イケメンは絶対に許せねえ。必ず神の裁きを受けさせてやる。



「ねえフミカちゃん、未来を見せたり空間移動する以外の超能力ってあるの?」


「あるわよ。何ってわけじゃないけど、マサハルが望むことくらい大抵出来ちゃうわね」


 ヘッヘッヘ、ヤッタぜィ!何たって俺には神が宿ってるんだからな。ちと経費は掛かるけど。俺はビデオを少し巻き戻してもらいスクリーンの中の先輩を指差した。


「じゃあさあ、俺の邪魔してるこのイケメンをナイアガラの滝つぼに捨てて来てよ。フミカちゃんは俺をしあわせにするのが使命でしょ?こいつは共通の敵だよ」


「情けない…。あんた男でしょ!正々堂々と勝負するって発想はないの?」


「ない!だって先輩は強敵だもん。ローカルでは一番の優良物件なんだよ。マトモに組み合っても勝機など見えて来ないさ」


 えんじぇうさまに蔑視のようなジト目で睨まれた。でも、怯まない。他力本願大歓迎!恋愛って勝てば官軍、負ければ賊軍のシビアな世界だもん。敗者だった俺は身に染みてるんだ。


「しょうがないわねえ。じゃあ、イケメンさんのオムライスに振り掛ける毒をあげるわ。無色無味無臭の速乾性だから絶対にバレないわよ。一時の効果だけどね」


「あの、それ、後遺症とかないでしょうね?別に先輩を壊したいわけじゃないから」


「ホント小心者だこと。この意気地なしィ!大丈夫よ。全身が強烈に痺れるけど三十分もすれば元通りになってるわ。念のために解毒剤も渡しておくね」


 彼女はトートバッグから携帯用コロンみたいな容器に入った(ポイズン)と一包の粉薬を取り出し渡してくれた。毒は説明通り無色透明だったけど、解毒剤は黄色い粉末で怪しげなシロモノだった。


 よし!これで安心だ!ちょっとした悪戯というより懲罰だな。まあ先輩を部屋に入れなきゃ使うこともないんだし、保険みたいなもんさ。軽く考え納得する卑怯者の俺だ。


 ビデオは唐突に「このまま独りぼっちで過ごす」とテロップを流し終わった。ホントこの編集って気まぐれだよな。文句言うとドつかれるから黙ってるけど。


読んで下さりありがとうございました。

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