表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

失態

よろしくお願いします。

 1月4日(水)、仕事始めである。取引先で仕事が始まってるところに電話して新年の挨拶をする。今日は外へ出ないので、事務処理などをこなしながらの退屈な一日になった。藤堂さんは「昨日はありがとな」と軽く肩を叩いて「真っ直ぐ帰ったから安心してくれ」と耳打ちするように付け加えた。俺はニンマリと応じたけど、特段言葉を発することはなかった。



 5日(木)6日(金)と仕事をこなし、朝方に誘われた居酒屋へ藤堂さんと向かった。風が少し強くてステンコートの襟を立てる。週末の街並みは結構人が出ていた。新年会などもあるのだろう。



 俺たちが入った店は、もっぱら個人客相手の小さな居酒屋だった。カウンター席が七つと四人掛けテーブル席が二つ用意されてるだけの、いかにも藤堂さん好みのたたずまいである。ちなみに俺が訪れるのは初めてだ。


 二人で角のカウンター席に並んだ。ビールで乾杯し、おでんと焼き魚、大根サラダなどを頼んだ。藤堂さんの一言目は意外なセリフだった。


「なあ北條、何で初詣を妙仙山にしたんだ?あんな傾斜のきつい、参道の長い場所へ」


「えっ?何でって、質問の意図がわかりませんけど。しいて言えば、長く寄り添って歩けると思ったからですよ」


「でも、一緒に歩けなかっただろ?そうか。まだ知らされてないんだな」


 はあ?サッパリ意味わからん。俺、失礼なことなどしてないぞ。さすがのイケメンも、ビッチのせいでお味噌が溶けて来たのか?


「どういうことですか?確かに京子さんは歩くの凄く遅かったですけど」


「ふーん、と言うことは、京ちゃん杖を持って行かなかったんだ。確かにアパートを出る時も、手すりに掴まって階段降りてたもんな。きっと車のハッチに置いてたんだ」


「京子さん、足が悪いんですか?怪我の後遺症とか?」


 藤堂さんは俺を一瞥してからグラスのビールを一気に呷った。そして自分でグラスに注ぎ込む。俺は先輩の様子を見ながら返答を待つしか術がない。


「京ちゃんは先天的に機能障害がある。左足の神経が未発達で、あれでも一生懸命訓練しての結果なんだ。普段は杖を使ってる。だから自家用車で通勤出来る城西支店に勤務してるんだよ。能力なら本社勤務で充分やって行けるのにね」


 俺は思わず口に手を当てて青褪めた。しまった!勝手に有頂天になってたんだ。


「せ、先輩、俺、京子さんに悪いことしたんでしょうか?すごく負担を掛けてたとか?」


「いや、そうは思わないけど。杖を持たなかったのも彼女の判断だと思うし。多分、まだ見せたくないんだろうね。俺も北條には言ってなかったんだから罪はあるよ」


 ものすごくショックだった。ホント俺って情けない。そんなことも気付けないで、何浮かれてたんだろう。


「先天的ってことは、治ることはないってことですよね。きっと、小さい頃から色々な治療を施して来たんでしょうから」


「そうだな。俺も詳しいことまではわからないけど、東京の大きな病院とか、名医と言われる先生のところも訪れたらしいよ。それで精一杯の治療と訓練をしての結果だ。毎日、風呂上りにはリハビリっぽいストレッチを入念にしてるそうだ。あれ以上良くなることはないと思ってる」


「京子さんの努力はもちろんとして、そんなに日常生活に支障をきたすんですか?」


「いや、俺たちが三人で過ごした時のように、室内ではそこまで問題にならないと思う。外出先の選定は必要だろうけどね。問題は、彼女がそれを過剰に気にしてることだ。もちろん本人の気持ちにはなれないんだけど、俺としてはもっと頼ってもいいと思う。だってそれは、誰のせいでもないことなんだから」


「藤堂さんってやさしいですね。いい人だと思う。でも、ちょっと自信失くしました。俺って頼りなさげだし。そんなことくらいで京子さんと離れないけど、言動には気を付けなくちゃいけないですよね」


「北條、あまり難しく考えるな。お前は年下だって特権があるんだから、元気なくしちゃダメだぞ。ホント、俺が代わってやりたいよ」


 藤堂さんらしい励ましに、俺は薄ら笑いで応えるしかなかった。



 京子さんとのデートは、メールのやり取りで日曜に約束済みだ。もちろんビデオ通りだし。そうだよ。今度のデートはどうしよう?予定なんて決めてないけど、気を遣いすぎるのは良くないと思う。きっと、彼女が一番して欲しくないことだろう。それだけはわかってるつもりだ。フィフティな付き合いが出来なくなってしまうから。



 結局その日はあまり酔えなかった。奢ってくれた藤堂さんにお礼を言って駅に向かう。まだ終電には時間があったけど、電車内は顔を赤らめてる人が多かった。


読んで下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ