第二十八話 おるって思うんやったら
ゆいが数分に一度、居心地の悪く落ち着かないのか、窓の外を見るので、加えて注文した特大ふわふわホットケーキを二人で食べ終えたあと、ジュテームを出た。
もう少しゆっくりしていけば良いのに、と織江が言ってくれたが、まんだ用事があるから、と言って遠慮した。
店を出て少し歩いたあと、後ろを歩くゆいを見る。
「サユリのことが気になるんか?」
ゆいは頬を少しひきつらせる。図星なのか、それとも周平に心が読まれたようで引いたのか、どちらにせよそんな反応には慣れてきているのでどうも思わない。
周平はゆいの隣を歩くために速度を緩めたが、ゆいが足を止めたので同じようにした。
「そりゃ、気になりますよ。でも正直、もう諦めようかなとか思っています」
「……そっか」
止めることはしない。諦めるな、と言いたいが、自分がそれを言える立場ではない。勝手に手を貸しているのだから、ゆいからすれば、何格好つけているのかと思うだけだ。
「ゆいがそう言うんやったら、しゃあないわな」
肩をすくめると、再び歩き出す。ゆいが同じように歩いてくるか分からなかったが、足音がしているので着いて歩いているようだ。
「周平さんは、どう思いますか」ふいに、ゆいがそう言った。「サユリは、この街にいると思いますか?」
周平は振り返らず、背中を向けたまま、うーんと唸った。かれこれ一週間ほど、街を探し歩き、知り合いに聞いて回った。それでも見つからなかった。サユリがどんな人物なのか知らないので、どのような考えでどのように行動するのかは分からない。だから、無闇にいる、とは言えない。だから、――。
「まあ、ゆいがおるって思うんやったら、おるんちゃう?」
自分にはゆいに着いていく事しかできない、そう思う。
「ゆいちゃんって、ずっとホテルに泊まっとん?」
夕食の麻婆豆腐を頬張りながら、夏実は言った。八時半に帰宅した夏実はすぐに風呂に直行し、十分ほどして上がってきた。帰ってきたとき、腹が減って死にそうだと嘆いていたので、急いで麻婆豆腐を温めて盛った。三口ほど食べたあと、そういやさと口を開いて、言ったのがそれだった。
ホテルの他に泊まるところは無いので、ゆいが嘘をついていると言うことはないだろうし、ホテルへ行ってゆいが泊まっていたことは確認済みだ。周平は頷く。
「まじで? ホテル代とか、結構いっとんちゃう?」
「そうやろうけど、多分ゆいはホテルにしか泊まらんやろうからなぁ。うちに泊まったらタダやけど、絶対遠慮するわ」
「まだ捜してる人は見つかってへんのか? もうそろそろ見つかってもええと思うんやけど。そんなに大きな街ちゃうし」
「全然見つからん。ねぇちゃんがくれた捜索届けでサユリっていう名前のところ行ってみたけど、全部外れ。他のもちらっと見せたけど、ゆいに反応はなかったし」
ため息混じりにそっか、と呟く。麻婆豆腐を熱そうにはふはふと息をはき、それでも麻婆豆腐を掻き込む。
「……そういや、ねぇちゃん。昨日万引きがあったん知っとる?」
警察署で働いている夏実なら、少しでも耳に入っているのではと思う。
「ああ、万引きね」夏実は軽く言った。「あったあった」
あまりに軽く言うので、夏実は目撃者の証言を聞いていないのだろう、そう思ったのだが――。
「似顔絵が、ゆいちゃんにそっくりやったわ」
知っとんかい! と突っ込みたかったが、心の中に留めておく。
目撃者の証言を元に描かれた似顔絵は、茶髪で帽子を被り、無愛想に口角を下げている。夏実の署内の友人が描いたもので、一番にそれを見たとき、すぐにゆいだと思ったそうだ。
「慌てて周平に電話しようかと思ったけど、後から伝えたら良いかって思って、電話せんかったんや」
「言ってくれよ。めっちゃ大事やん。もしかしたら、ゆいが犯人――」
になってしまうかもしれへん、そう言おうとした。だが、重ねるように言った夏実は、そうは言っていない。
「かもしれへんなぁ。結構似顔絵ゆいちゃんに似とったから」
夏実は、ゆいが犯人だと、まるでそう言うようであった。実際、夏実はゆいが犯人だと思っている。
「今度来たら、特別に見せたるわ。似とる人を知っとる人やからって言ったら、通してもらえるやろうから」
随分と冷静だ。ゆいが犯人であっても、どうとも思わないようである。
「ねぇちゃん?」周平は夏実の視界に入ろうと首を伸ばす。だが、夏実と目は合わない。
「周平、ゆいちゃんの現在の所持金知っとる? ……高校生なんやから、そんなたくさんは持ってへんやろうなぁ。それで一週間ホテルに泊まっとったら、食料代やら飲料代やら無くなるやろ」
夏実は斜め下を見て、少し小声で言う。「……そやから、万引きしてもしゃあないんちゃうかな」
「違う!」机に手をついて、ぐっと顔をつきだした。「ゆいはそんなことせぇへん! いくら金に困っとるってゆうても……。それに、昨日は家に戻って親に顔を見せてたゆうてたし。ほら、世の中には同じ顔の奴が三人おるっていうやん。多分それや!」
夏実は手を止めずに麻婆豆腐を頬張っている。視線はテレビを向いていて、一見ぼーっとしているようだ。ちらりと周平を見、
「本気にするなや。可能性の話やって」
と、笑って言った。だけど、周平は笑えなかった。今までの話を無くしてしまいたくて、麻婆豆腐を一気に掻き込んだ。




