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第二十九話 嘘とお礼

 昨晩どうも眠れなく、起きるのが遅くなってしまった。夏実が、いってきますと言って出て行った音で目を覚ました。朝ごはんを作れなかったが、罪悪感は無い。

 昨日の夏実との会話を不意に思い出した。


――そやから、万引きしてもしゃあないんちゃうかな。


 人間は金がなくては生きていけない。だがだからと言って、ゆいはそんなことをするだろうか。そもそも、ゆいは家に帰っていたと言った。もし、ゆいが万引き犯だったら、それはゆいが嘘をついたという事になる。


(嘘を、つかれた……?)

 知り合ってまだ期間は短いが、周平にはゆいが簡単に嘘をつくようには見えない。黙っている事は多いが、それも少しずつ伝えてくれている。もしゆいが嘘をついても、きっとつくのは下手くそだろうと思う。ツンデレがデレるのは、隠したことが表情に出やすいからだと周平は思っている。だから、ゆいがデレた時は照れている時か嘘をついている時だけだ。これまででゆいがデレたのは、照れているからだ。

(ゆいが嘘とか、ありえんわな)


 夏実の言葉をかき消し、周平は常にそう思うようにする。布団から出て居間に入ると、机にはサラダとスクランブルエッグが乗った食パンが置いてあった。その皿の下にメモ用紙が置かれ、そこには夏実の字でこう書いてあった。


『朝ごはん作ったったんやから、今週のトイレ掃除代われよな。晩ごはんは手作りハンバーグよろ』

 角ばって雑で、まるで男の字のようだ。周平はそれをポケットに入れると、いただきます、と手を合わせた。スクランブルエッグは既に冷たかったが、それでも美味しかった。





 今日もサユリを捜す。集合はジュテームゆいは。ゲームセンターで良いと言ったが、警察官がうろついているかもしれないと思ったので止めた。もちろん、その理由については話していない。


 ジュテームでコーラを飲みながら待っていると、いらっしゃいお嬢さん、と織江の声がした。振り返ると、ゆいが訪れていた。

「お待たせしましたか?」

「いや、大丈夫や、けど……」目の前に立つゆいを上から下まで見て、周平は昨日と変わらないゆいに言う。「よし、服屋行こけ」



 何故突然そんなことを言ったのが分からないまま、腕を引かれて連れてこられたのは、服屋だった。マネキンが今流行の服をお洒落に着ていたり、店員が乱れた服を綺麗に畳んだりしている。少し鼻を利かせると、新品の服にかおりがする。


「あの、周平さん。どうして突然……」

「ゆいさぁ、その服しか持ってへんやろ」

 戸惑いながら、はい、と頷く。旅行ではないのだから、そんなに持ってくることはないだろう。むしろ、あったほうが捜すのに邪魔になってしまう。


「昨日家に帰ったんやったら、服も変えてきたら良かったのに。何で初めて会ったときとおんなじやねん。上着脱いだり、長袖着て半袖着たりしとるけど、さすがに持たへんやろ」

「それは……ちょっと、急いでいたので」

「一日おらんかったのに、ゆっくりしてへんのか? サユリを見つけたい気持ちも分かるけど、女の子なんやから、少しはお洒落に気を使ったらどうやねん」


 ゆいが服屋に入るという返事を待たずに、早速中に入る周平。

「待ってください。私、そんなものを買うようなお金持ってません」

「大丈夫や。俺が奢ったるから」

「駄目です。服なんていりません」

「ええからええから」


 それから、周平はゆいをマネキンのように扱い、似合いそうな服を手当たり次第に探す。Tシャツを体に当てたと思えば、ジーパンを当て、時にはワンピースを当ててくる。さすがにワンピースは拒否した。



「さすが俺。センスはばっちしやな」


 顎に手を当てて頷く周平。

 白で太腿の長さのワンピースにカーキで半袖の上着を羽織る。隣の靴屋で見つけた少し踵の高い靴を履くが、少し不安定だ。


「あの……」

「金は気にすんな。どうせ安もんやし」

「いや、そうじゃなくて。その……ちょっと短い気が」


 ゆいは恥ずかしそうに、ワンピースの裾を引っ張りながら言う。普段ズボンしか履かないゆいにとって、この長さは短すぎる。スカートと比べても短い。

 足細いからええやん、と言うが、そこを気にして言っているのではない。細かろうが太かろうが、その短さは恥ずかしい。


 ゆいの足を見て首をかしげる周平。

「俺はええと思うんやけどなぁ」

「私は嫌です。こんなんじゃ、街を歩けません」


 周平はため息をつくと、仕方なく別の服を選び出す。

 そうして、紺のTシャツに白のスキニーパンツ、そして腰にチェックのシャツ巻いた服装が妥協点となり、それらを購入することになった。


 レジで金を出す周平を見て、裾を引っ張るゆい。

「本当にいいんですか?」

「いいっていいって。JKなんやから服装には気ぃ使わなな。大きなってからじゃ、年齢に合わんくて着れんってことがあるから」


 以前周平が、優しさはもらっておくものだと言ったことを思いだし、素直に受けとることにした。どうせ断っても押し付けてくることは目に見えているのもあるが。


 店を出て、辺りをふらつきながら、どこへ行くかを相談する。粗方捜しているので、もうどこでも良いという感じになっているのは互いに同じだ。


 それに、ゆいも半分諦めており、始めの頃と比べると顔つきが違う。見つかれば良いか、と考えているように思う。


「……あの、周平さん?」

「何や?」

 声を抑え気味に声をかけてきたゆいは、いつもと少し違う。そこは否定すべきではないと考え、周平は黙っている。


「あの、服……買っていただきありがとうございます」

「え? あ、おん」

「お礼を言っていないと思ったので」

「……ああ、全然ええよ。ゆいが可愛なってくれたらそれでええねん」


 言ってから、ゆいに睨まれるかと思ったが、ゆいは周平を見ていなかった。周平を通りすぎて、ある一点を吸い込まれるように見ている。どこか、驚いているようだ。

「どしたん?」


 声をかけると、ゆいは人差し指を視線の先に伸ばした。

「……サユリが、いた……」

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